15話 小針との話
就活のため更新頻度が落ちてます。早く解放されたいです……
「はあ……」
開口一番、彼女__小針は大げさにため息をついた。
今日は彼女がバイト担当の日……小針に会うのは、髪を切ってもらった時以来である。ここ何日か非常に濃い生活を送っていたためか、彼女の顔を見るのはかなり久々に感じた。
玄関に立つ彼女の手には、何やら重そうな荷物が掲げられている。そのせいかは分からないが、彼女はあまり元気が無かった。
「……はあ……」
彼女は靴も脱がずに再びため息をつき、こちらをチラリと見てくる。明らかに話を聞いて欲しい様子だった。
「……どうした?」
なんというか……こういう所で自分自身の変化を実感する。以前は他人の様子など気にも留めなかっただろう。
「聞いてくださいよ博士!」
小針は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。普通に元気である。
「前のバイトの時、洋服を持ってくるって話したじゃないですか」
「ああ」
確かにそんな話をした気がする。
「そこで今日、兄に頼んで洋服のおさがりをいくつか貰ってきたんですけど……」
そう言いながら彼女は手に提げていた大きめの紙袋をグイと両手で抱えて俺に見せた。袋の口から服がぎっしり詰まってるのが見える。
「なんか私、家族内で彼氏いる疑惑が出てるみたいなんですよお!」
……
「そうか」
思ったよりもどうでも良かった。
「前にヘアカット一式持って行ったときは友達だってゴマかしたんですけど……その時とも合わせて彼氏がいるんじゃないかって思われてるみたいです……」
「……違うと言えばいいんじゃないか?」
「もちろん言いましたけど!こういうのって否定すればするほど怪しくなるっていうか……」
……まあ、確かに分からなくもない。
「別にいるという事にしておいていいんじゃないか」
特に疑われたところで不利益があるわけでは無さそうだが……
「良くないです!」
だが、これに小針は強く反論した。
「いるのにいないって思われるならともかく、いないのにいるって思われてたって何の得にもならないですよ!」
「……そういうものなのか?」
「そういうものです!これが万が一友達とかに広まっちゃったりしたら……」
そう言いながら彼女は顔を青くする。正直、既に話への興味は無くなっていたが、彼女の話はその後もしばらく続いた……
「人と普段会話をする時、どんな事を喋ればいいか……ですか?」
小針の愚痴が終わった後、リビングで俺は新たな相談を持ちかけていた。
持ってきてもらった服はありがたく頂戴し、早速上下とも着替え(させられ)た。彼女が言っていた通りサイズはぴったりで、ジャージほどではないが着心地は良かった。
相談の内容はもちろん、前回アルティミシアの元へ行ったときの反省を活かすためのものである。いわゆる雑談というものが俺はできない。一体何を話せば相手が喜んでくれるのだろうか。どんな話をすれば会話が続くのだろうか。そもそも会話は必要なのだろうか……俺は再び小針にアドバイスを貰うことにした。
「うーん、そうですねー」
彼女は視線を上げ考える仕草を見せる。
「やっぱり、面白いことを話すのがいいんじゃないでしょうか」
「……面白いこと?」
非常に抽象的な言葉である。俺は説明を促した。
「そうです!要は話し相手を楽しませてあげればいいんです!やっぱり話の面白い人はモテますからね!」
彼女はそう答えながら話を続けた。
「例えば、昨日テレビで何を見たーだとか、あそこのお店は何があるーだとか、あの人があんなことを言ってたーだとか、そういうことを面白おかし 「ないぞ」
彼女の話を遮る。
「は、はい?」
「面白い話は、ない」
俺はそう言い切った。
「い、いやー、何か一つぐらいはあるんじゃないでしょうか?」
「……ない」
恐らく、小針の言っている面白いとは、いわゆるユーモアとしての面白さの事だろう。学問や研究の面白さということでは無さそうだ。しかし、俺はテレビを見ないし、あらゆる店に行かない。そして、どの人の事も知らない。さらに言えば、俺自身が日常生活において面白さを感じたことはなかった。要は、話のネタが一つも思いつかないのである。
「ほら、博士は博士なんですから、なんかこう……怪しげな液体を混ぜてたら、爆発しちゃった!みたいな」
なんだそれは……
「……ないな」
「そ、それなら!ほら、発明品のスイッチをポチッと押したら、こう……爆発しちゃった!……みたいな」
こいつの博士のイメージは爆発しか無いなのだろうか。
そういえば……爆発……という程ではないが、機械の誤作動によって起こった出来事がつい最近あったことを思い出す。……まあ、あれは面白い話ではないな。
「とにかく、今のところ思い浮かぶ話はない」
「そ、そうですか……絶対何かあると思うんですけどねー」
そう言いながら、彼女は再び考える仕草を見せた……




