「そんなの簡単簡単_1」
喉を潤した後ソファで眠りだした中崎さんの髪を撫でる。目覚めないところをみると、よほどつらかったらしい。机の上に置いておいたはずの拳銃を握りしめながら体を休める彼は何を思っているのだろう。
「没収。」
今はいらない。使わせない。彼の手から拳銃を奪うと引き出しの中に隠す。小鳥がさえずり、カーテンの隙間から朝日が漏れ入りだした。そろそろ時間だ。テレビをつける。これは朝の日課。学校に行く前の日課だ。普段ならぼーっと観て軽く流すだけだが今日は違った。
「今日未明、○○県××市の~で何者かの血痕と思われるものが発見されたもよう。警察は殺人、死体遺棄の疑いがあるとみて捜査しています。それでは、田中さんに話を聞いてみましょう。」
「はい。私は被害者が生きていて、誰かが匿っていると感じましたね……」
嘘だろ。おい。ちらっと撮された場所は隣の家。リアルタイムでインタビューを受けているようだ。このニュース番組は、的外れな考察と面白い切り口で放送してるのが売りなんじゃないのか。急にどうした田中さんよ。当たってるよ。私だよ匿っちゃってるの。
「捜査妨害だっけ…?」
あれ。もしかしなくても私がしていることは犯罪じゃないか。この家には拳銃があるし。
インターホンが鳴り響く。
サァと血の気が引いた気がする。カメラで誰が来たのかを確認すると、数人の記者らしき人間がいた。
今は7時です。私はいつもより速く学校に行きました。だから居留守では無くて…。頼むから帰ってくれ。この家は留守だ。誰もいない。それでいいじゃないか。しつこくドアを叩く非常識な奴らに腹が立つ。怒りがつもり、ぶちまけてやろうとドアノブに手を掛けた瞬間、ペラペラと喋るお隣さんの声が聞こえた。
「この家の子は学校に行ってるんじゃ?あの子は一人暮らしですからねぇ。誰もいませんよ。」
この時ほどベラベラと煩いおばさんに感謝したことはない。お陰で帰って行く記者たちに安心し、私は学校に電話をかける。
「体調が悪いので欠席します。」
事件現場が近いこともあり、教師は同情したのか案外すんなりと受け入れてくれた。未だに寝息をたてている中崎さんのそばに私は寝転がる。じかに触れる床は堅く、ひんやりとしていた。