「なんなんだ」
主人公視点で物語は進行します。
誤字等あると思いますが
そこは暖かい目で見てやって下さい。
※縦書きを好む人に※
原稿用紙に書くときとは違う書き方をしています。ケータイ小説ならではの表現を大切にするためです。普段縦書きを読む方にとっては、よろしくないかも知れません。{ただし、///(照れ)やニコッ(文末の)、www(笑)や顔文字等は一切使っていません。台本書きもしていません。}
※感想、評価を下さる方に※
力をつけるために書き始めました。故に正直な感想、評価で構いません。
窓から見える大きな木。その小枝を揺らし、雲ひとつ無い空へ雀が大きく羽を広げた。
「…伊藤!」
太い声に目を向ける。充血した男の瞳は“私”を映しているだろうか。ざわついていた辺りは一瞬で静まり返り、目の前の男と私に視線を注いだ。見るんじゃないよ。気分が悪い。
「何。」
コロンと舌で飴を転がし一回二回と瞬きをする。口の中いっぱいに甘いような酸っぱいような味が広がるが、正直それはまずい。新発売に釣られて買うもんじゃないな。
「外ばかり見るな。話を聞け!」
そう眉間にシワを寄せながら言われる。私語で授業を潰してる生徒よりはだいぶマシだろうに。何故一人だけ名指しされなければいけないのか。机を叩く人差し指の速度があがる。何かガツンと言い返してやろうか。口を開けようとした瞬間、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。結局何も言えないまま次の授業へと移る。飲み込んだ言葉も、教師に対する苛つきも少したてば無かったかのように消えた。
気がついたら下校時間。ポケットから例の飴を取りだし口に放るが、やはり美味しくない。すぐに噛み砕くとジャリジャリとした食感が舌を刺激する。ふと上を見ると青く澄んでいた空は赤みを帯びていた。いつからか毎日に新鮮味を感じなくなり、大体の人間は同じ流れをたんたんと過ごしていくんだと思う。あれだけ大人に見えていた高校生も自分がなってみれば今までと何も変わらない、子供だ。
チャラチャラした群れとすれ違う。
誰が最初にはじめたのか制服のスカートを短くし醜い足をさらけ出したり、原型が分からなくなるまで化粧している人達には脱帽するしかない。…そんなことより今日のご飯は何にしよう。この時間帯は安売りしてる。考えながら帰路にあるスーパーへ寄る途中
「あぁっ…。」
小さな声が聞こえた。発信源をたどれば、しゃがみこむお婆さんと散らばった小銭。聞かなくても分かるけど一応。
「どうされました?」
長年生きてきた人に無理やり貼り付けた笑顔なんて通用するわけない。だからってニコリともしない今の私はきっと感じ悪いと思う。それでもお婆さんがどこか嬉しそうのは、他の人間が見て見ぬふりをし去っていく世界で、立ち止まってくれる人がいる事実に何かを感じたからかもしれない。
お婆さんに声をかければ案の定、小銭を財布からぶちまけてしまったという。拾うのを手伝えば「ありがとう。」の言葉が待っていた。
「いえ。それでは私は行きますので。」
指でスーパーを指すと、お婆さんは申し訳なさそうに眉をさげる。
「引き留めてしまってごめんなさいね。」
その言葉に背を向けると私は何も言わず歩き出した。
“ありがとう”という言葉も“ごめんなさい”という言葉も簡単だ。気持ち等いらない。ただ言えばいい。たいして何かをしたわけでも無いのに呪文を唱えるかのように人間は言う。日常で溢れかえっているにも関わらず、大切な時には言葉を濁す。
「冷た…。」
なんだあの声は。なんなんだあの言い方は。さすが長年生きてきただけある。表情は本当に申し訳なく思っているときに浮かべるそれなのに…全く言葉には何も感じられなかった。思っても無いことを何故言うのかが分からない。
「…以上1462円のお買い上げになります。」
千円札二枚と2円を出し、お釣りと商品を受けとる。
「ありがとうございました。」
ほら、また…。出入り口の窓に映る自分と目が合うが、どちらかがそらす前に開く。ネオンが照らす辺りと黒みがかかった空にゆっくりと口角をあげた。
一本二本と道を曲がるたび光が静になり、もうすぐ家につくという頃には闇にのまれる。行く道がうっすらと見えるには見えるが、鳥目にはきつい。
ピチャッ…
最後の曲がり道に差し掛かった時、水音とともに足に生ぬるさを感じた。どうやら水溜まりを踏んでしまったらしい。ついてない。単純にそう思った。だけどふと思い出し足を止める。
今日雨降ったっけ。
いいや降ってない。もしかしたら気付かないうちに雨雲が去ったのかもしれない。それでも今、肌をかすめる風と温度ではすぐに乾いてしまうだろう。それにこの臭いは…。突然胸ポケットで震え出すケータイに考えるのを放棄する。タップすればメールが来ていた。知らないアドレスと馬鹿げた件名。ただの迷惑メールか。いつものように開けず削除をしようとした瞬間、私の心臓はこれまでに無いくらい強く打ちつけた。
おいおい待ってくれ。誰なんだこいつ。そもそもなんだこれは。ケータイから漏れる明かりで足元を照らせば大きな水溜まりが続き、それを辿ると電柱に背中を預け目を閉じ座り込む男がいた。近づいてはいけないと頭は拒否しているのに体は言う事を聞かない。膝を折り地に手を這わせると、ぬるりと指が濡れた。何故今になって濃く臭うのか。もう液体を辿らなくても分かる。これはあれだ。血だ。深く上下する肩に生きていることは理解できたけれど、長くは持たないだろう。握り拳何個分かの面積の血を出すと命が危ないと聞いたことがある。何個分かは忘れたが、このままでは…。
どうする。誰ともすれ違わなかった。
どうする。誰も見ていない。
どうする。家はすぐそこじゃないか。
どうする。どうする。
考えれば考えるほど、これが私かと嫌になる。醜い。所詮こんなものなんだ。厄介な事に自ら飛び込むことはない。立ち上がろう。見なかった事にすれば良い。そう結論付けたのに…何故私は男の腕を肩に回している。何故私は見ず知らずの人間を家にあげようとしている。進むたび血が後を追っていないか確認した。自分の気持ちに追い付けないまま、なるべく速く効率良く運べるように体を近づけ移動する。
ボディメカニクスの原理を知っていたって自分より大きい男を運ぶには力がいる。玄関、そしてリビングのソファへと男を下ろした途端、疲れがどっと襲いかかる。けれどゆっくりしていられない。ちゃっかり持ち帰った夕食達を投げ出し、来た道を戻る。リビングから玄関まで汚している赤に顔をしかめた。まだだ。家の中なら問題無い。外に出て念入りにケータイで地面を照らす。血痕はあの水溜まりから伸びていなかった。大丈夫だ。バレやしない。足音をなるべくたてずに走る。家に帰ると二階に向かった。埃のかぶった救急箱から消毒液と包帯を取り出す。止血にガーゼをと思ったが、足りないだろうとシーツを手にリビングへかけ降りた。
なかなか止まらなかった血もやっと止まる気配を見せ、少々使用期限が切れているがしないよりは良いだろうと消毒をする。包帯をきつく巻き終わり時計を見ると、すでに長針は10を指していた。
「なんなんだよまったく…」
横目で机に置かれた黒い塊を見る。手当をしようとジャケットを脱がすときに気づいた。懐に入っていた黒い塊は、安っぽい刑事ドラマに出てくるそれとは違うと警告する。手にした塊はズシリと重い。本物だ。本物の拳銃なんだ。
ブルッと体が震える。
ははっと一人声を漏らした。人間というものは、いっぱいいっぱいになると本当に笑えてくるらしい。息をめいっぱい吸って小さく吐く。拳銃を机の上に置き、男の顔を見た。裏じゃない。プラスの面を見よう。助けることに夢中で気付かなかったが男の顔は、なかなかお目にかかれないタイプのイケメンさん。学校の女子達はおじさんだと言うかも知れないが、変に背伸びをし格好つけている男子どもよりは断然格好良く見えた。体も傷さえなければ引き締まっていて悪くない。
「怖くない。大丈夫大丈夫…」
暫くの間観察していたが、血まみれになった制服の存在に頭を抱えた。とりあえず自室で違う服に着替え毛布を持っていくと、ソファで落ち着いた寝息をたてているそいつに掛けてやる。血で汚れた所はどうしようか。考えようにも限界がやって来たようだ。目の前が揺らぐ。何も考えられない。体が重い…近くに腰を下ろし、少し休もうと瞼を閉じたところで私の意識は途絶えた。