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実感がない。本当に昨日。僕達は別れたのか?
七海は、凄い泣いていた。
半分くらい何言ってるかわからなかったけど、自然と理解できた。けど、状況は全然飲み込めなかった。
こんなことってあるんだね。
今日一日、僕は何も考えていなかった。
何も考えられなかった。
なんで…ああ、そうか。
七海がいなくなったショックが思った以上に大きいんだ。
僕は正直七海を選ぶつもりでいた。それだけに、酷くショックだったんだ。
なんで昨日、断らなかったんだろう。
あの時嫌だって言っていれば…
考えると涙が出てくる。
今日が土曜日で…学校がなくてよかった。
すぐに服を全部脱いで、風呂場に駆け込む。シャワーからお湯を出して、手に貯めて、顔をつけて、泣いた。
なんで僕はもっと早く気づけなかったんだ。
七海がいたから倉橋さんとの会話が楽しかったんだって。
七海が楽しませてくれるから。だから倉橋さんにもその楽しさを分けてあげられたんだ。
僕は馬鹿だ、馬鹿だ馬鹿だ!大馬鹿だ!
七海が眩しすぎて、見えなくなっていたことに気がつかなかったなんて。
七海がいたからこそ、倉橋さんに気付けたことに気がつかなかったなんて。
嫌だ、なくしたくない。七海を手放したくない。
気がつくと僕は裸のまま、濡れたままで自分の部屋でケータイを握っていた。
しかも、七海とのトークを開いて、すでに
『やり直そう』
と送っていた。
返信はすぐにあり
『無理だよ』
と、綴られている。
もう止まらない。自制がきかない。理性が働かない。
イヤホンをケータイに刺し、七海に電話をかけた。
「何?」
と電話の向こうで聞こえる。
「あの、七海」
「だめだよ」
「…」
「やり直すのは、だめ」
「でも…」
「でもはなし」
「どうして?」
「なにが?」
「どうして急にそんなことになったんだ?」
だって。と、漏らした七海の声は震えていた。
「だって祐也、沙奈ちゃんのこと好きなんじゃないの?」
「違う」
「いつも楽しそうに話してるじゃん」
「違う」
「違うの?ほんとに?」
七海は今にも泣き出しそうになって、いや、泣いていた。
「うち、何度も見かけちゃって…それで…辛かった」
「…」
「胸が刺されたみたいになって…痛かった」
「…」
「なんでうちなの?なんで沙奈ちゃんじゃないの?」
胸がいたい。締め付けられるように。
僕はこんなにも、七海を傷つけてしまっていたなんて…
「七海が好きだからだよ」
「…」
「七海がいないと、七海と話してないと、倉橋さんとはうまく話せないんだ。」
「…意味わかんない」
「僕も…わからない。けど、そうなんだ。僕は七海が好きなんだ」
「…」
「七海じゃなきゃ嫌なんだ」
「…」
「…」
長い沈黙。
二人の泣きじゃくる声だけが、僕のみみには届いてなかった。
そして
「わかった。やりなおそ」
と、七海はいった。
嬉しかった。死ぬほど嬉しかった。
そう感じてまた涙が出てくる。でも、これはさっきの苦しい涙じゃない。幸せの涙だ。
そして、僕の耳にはしばらくの間、二人の笑い声だけが入ってきていた。




