始まりの場所
揺れてる。
風を感じる。
誰かの気配がする。
不思議と穏やかな気持ちだった。
このまま身を委ねていたい。
ふと、下降感。
あっ、と誰かの声がした。
どんどん声が遠ざかる。やがて、薄い私の意識は閉ざされた。
ここは・・・・どこだろう。
真っ白な霧の中、私は一人佇んでいた。
・・・これは・・夢?
「ちょっと・・・・だれかいないの?」
声を出してみる。しかし、その声は真っ白い霧の中に消えて行くばかりだった。とりあえず私は、宛てもなく歩きだす。
すると突然、目の前に屋敷が現れた。
舞踏会が開かれるような西洋風のきれいな外観。
それがこの白い空間に不気味な雰囲気を漂わせていた。
立ち去ることもできた。しかし人が中に居るかもしれないと思うと、それはできなかった。
帰るためにはここがどこだか知らなければならないと思ったからだ。
不思議なことに門は開いていた。
ゆっくりと門をくぐり、手入れの行き届いた庭を抜け、大きな扉の前に立つ。
2mを上回るほどの大きな扉が、触れてもいないのにひとりでに開く。
正直怖かったが、ここまで来たのだからと自分自身に言い聞かせ、中に入るしかなかった。中はとてもきらびやかで、一瞬眩しく感じた位だった。
周りの景色が映し出されるほど磨かれた床、
明かりをともしていないのに窓からの光を反射して輝くシャンデリア。
全てが幻想的だった。
「うわぁ・・・」
「やっと来ましたね」
後ろから声がした。
振り向くとそこには、20代ほどの若い男が立っていた。
「来る時に落としてしまったので心配していましたが……ちゃんとここまで来ていただけて安心しました」
黒い燕尾服をまとったその男はホッとしたように言った。
「あなたは・・・誰?この屋敷の人?」
「まぁそのようなものです。
おっと大変失礼致しました私は次元の守り人、キーラと申します」
キーラと名乗ったその男は、軽いお辞儀をした。
次元の守り人・・・?
「ここは次元の境目
私はここで様々な世界の案内役をしております」
ますます意味がわからない。
「世界の案内役・・・どういうこと?」
眉根を寄せる私を真っ直ぐに見つめ、キーラは笑顔を作って見せた。
説明はどうした。
「まぁいいわ、私は…」
自己紹介をしていないことに気付き、名乗ろうとした。
しかし、私は自分の名前がどうしても思い出せなかった。
それだけではない。此処に来るまでの事はもちろん、
歩んできた人生の記憶すべてが欠落している事に気が付いた。
「あぁ、言い忘れていましたが・・
いま、貴女の記憶及び貴女の元いた世界での存在は消去させていただきました。」
私の意図を読んだかのようにキーラは言った。
記憶を・・・・消・・・去?
理解が追いつかなかった。
私が考えを整理していることは関係ないとでも言うように、
彼は淡々と喋り続ける。
「貴女にはこれからある使命を果たしていただきます
それは・・・」
「・・・・して・・・を・・たの・・・!!」
「はい?」
キーラの言葉を遮るように私は口を開いた。
しかしそれは彼の耳には届かなかったようで、頭に血が上りそうになるのをこらえながら先程口にした言葉をもう一度言った。
「どうして記憶を消したのよ!」
まだ混乱していた私は、このくらいしか言えなかった。
「それは記憶と存在が取引の内容になるためです」
「取引・・・?」
混乱していた頭の中が、「取引」と言う単語によって一時停止した。
「はい、記憶と存在のバックアップはこちらにあります
無事やり遂げましたら、お返しいたします」
少し落ち着いた私は、胸騒ぎを抑え問いかけた。
「やり遂げられなかった場合は・・どうなるの?」
キーラは咳払いをしてこちらに向き直り、今までと変わらない淡々とした口調で言った。
「その時は貴女の魂が消滅します」
「魂の消滅!?」
夢であってほしい。
「使命を果たせなかったこと、それは同時にあなたの魂の消滅を意味します」
キーラは表情一つ変えず言い放つ。
「・・・・どういうこと?」
私が問いかけると彼は懐から小さな石を取り出しこちらに差し出した。
「これは、『優石』といって貴女の"優しさ"の欠片です」
優石と呼ばれたその石は、キラキラと七色に輝いていた。
「私の・・・優しさ・・・?」
「はい、人々が優しく暖かいのもこの石を心の中に持っているからです
しかし、貴女の場合はそれがバラバラになってしまった・・・」
そう言うとキーラはその優石を私の胸元にあてた。
すると、一瞬強く光ったかと思うと、石は消えてしまった。
「この優石を集めるのがあなたの使命です」
あとがき
はじめまして、link@月架といいます。
今回、はじめましてでいきなり連載をはじめてみました。
ここまで読んでくださった方はありがとうございます。
続きも書く予定ですのでその時はまたよろしくお願いいたします。