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第一章「入学」 第八話「NTR好きのラブコメマスター」

 ○SIDE:BLUE


 ●平成二十一年四月五日(日曜)午前七時二五分――【華乃樹公園・展望台兼駐車場】


「――ちょ!? サッちゃん沈んじゃったよ! ヤバイよ! 救けないと!!」


 と、焦って叫ぶが頭はクール。

 救けに行こうとは思いつつも『この展望台から滝の下まで普通に降りたら十分以上かかる。そんなにかかったら間違いなく手遅れ』とか考えてるボクがホントにどうしようもない。こういう時は頭で考える前に行動だろ? 昨日の今日で進歩なさすぎ!


「落ち着け春サン。大丈夫、問題ねーからサ」

「問題あるよ! 無いわけないよ! 何いってんのさ!?」


 ……くそ、おバカの余裕ぶった態度がメッチャムカつく!

 でも自分以外の誰かから『大丈夫』と言ってもらえると気が楽になる。それがこの心友からなら特に。コイツが大丈夫というなら大丈夫。責任転嫁ではなく、そう信じられ――


 ――川が、割れた。


 文字通り真っ二つに割れて川底が見えていた。

 そして、割れた水壁の間をどっかのモーゼさんの如く歩いてくるのはコスプレ魔法少女。その手には我が心友の足。ズルズル、ズルズル引きずり歩き、川原に上がる。そして、岩でボッコボコの川原にゴロンと捨て置かれ…………いくらなんでもあんまりではなかろーか?


「あ、あの娘って、……もしかしなくても本物の魔法少女とかだったりする、の?」

「うん? 『そんなファンタジーな存在いるわけないんだよ』とは言わねーのか、心友?」

「……まあ、いままでちょっと大雑把だけど常識人だと思っていた心友が、実は空を飛ぶように走ったり、マンガみたいにカマイタチで攻撃できちゃう人だった、という驚愕の事実を知ったお陰でそこら辺、麻痺しちゃってるんじゃないかな? たぶん落ち着いたら情緒不安定になると思うから、その時はフォローよろしくチューニング☆」

「落ち着いたら情緒不安定になるのか……っていうか、もう既に言動が情緒不安定じゃね!?」


 なんか驚愕しているおバカを尻目に、ボクは魔法少女の動向にロックオン! おおっと、魔法少女がサッちゃんの上着を脱がして胸に耳を当ててるよ~――と思ったらバッと離れ、青い顔/半泣きでオロオロ……って、もしかしなくても心臓止まってる? それはマヂヤバくね!?


「お、おおお、おバカ! 救急車って一一〇番だっけ!?」

「いや、たしか一一九番……と、待ちたまえ春サン。慌てる必要はナッシング。あれ見てみ」


 と、指差す先には、ステキなステッキを掲げてブツブツ呟く魔法少女の姿/アニメみたいな魔力光的効果は視えないけれど、ステッキ周辺の空気が歪んで見える不思議現象発生中。


「呪文詠唱? もしかして回復魔法ってやつ!?」


 呪文を唱え終わった少女がステッキをサッちゃんに向ける――と、ビクンとサッちゃんの身体が小さく跳ねる。まるで電気ショックでも与えたようにビクンビクン跳ね……回復魔法?


「盗聴器にノイズ走ってんな……ってコトは見たまんまの電撃か。サッちゃん引きずってたから身体強化系は使えねーみてーだけど、水と雷の二属性操れれば十分優秀だ! 見た目もかなり美少女だし魔法少女的に将来性あるぜ!!」

「……魔法少女の将来性に『見た目』って関係あるの?」

「哀しいぐれーあるに決まってるじゃねーか! 可愛いは正義なんだぞ!」

「……とりあえずキミが邪悪だということは魂で理解したよ」


 見た目はイケメンなのに中身が残念な我が心友・斉藤縁くんを心底残念に思う。

 その残念イケメンは、おもむろに背嚢からデジカメを取り出していじり始め――「何やってんの?」「未来を激写」と、ワケの分からないやりとりをした瞬間、事態は動いた。


 魔法少女がサッちゃんの頭の位置をなんか弄りつつ……少々の躊躇い、そして恥じらいを見せた後――キス/接吻/口付け――否、人工呼吸を決行したのである。


 どうやら頭の位置を調整していたのは気道確保だった様子。いまどきの娘にしては珍しく真面目に救命訓練を受けていたらしい。感心、感心。素晴らしい。でも気不味い。女の子が必死に何度も口吻を交わすのを双眼鏡で見てるとか、自分が覗きをしているようにしか思えなくてメッチャ気不味い……ボク、何してるんだろうね? いや、ボク等か――


「シャッター・チャーンス☆」

「ホントに何してくれてんの、このおバカ!?」


 カシャカシャと尊い人命救助のワンシーンを、思いっきり邪推し、穢しまくるおバカさん。

 魔法少女が行動に移る前に、この結果を読んで準備するとか……今のボク等は無力な傍観者だけど、何も出来なくてもコレは無い。コレはもう罪と言っても良いのではなかろーか?


「一応聞いとくけど――そんな写真撮ってどうする気?」

「ん? 悪いことには使わねーって。俺様の夜のオカズに使うぐれーさ」

「とことん邪悪だよッッ!?」

「いや、でもさ、許嫁とのデートに向かう途中、行きずりの美少女と情熱的な口付けを何度も何度も繰り返す男とか、かなり唆られる妄想ネタじゃね?」

「いやいや、それはラブコメ的にいいの、自称・ラブコメマスター?」

「俺様的に寝取り・寝取られは大好物だから大丈夫、問題ない!」

「キャラブレすぎだよ、自称・ラブコメマスターッ!?」

「現実はラブコメ、妄想はNTR。俺様、こう見えてもちゃんとわきまえてるつもりだぞ」

「目の前で起こってることを現実として認識しなよ!」


 もーやだコイツ。誰か何とかして!!

 サッちゃんカムバーック! このボクの手には余りまくりな、はみだしおバカ陵辱系をコントロールできるのはキミだけだよ! 黄泉帰ってよボクのヒーロー!!


「……そうは言うがな春サン、冷静に考えてみると、そもそも俺のラブコメ好きはギャルゲー好きから始まったものなんだ」

「そーだね。キミはギャルゲーどころか未成年のくせにエロゲーにまで手を出して……わざわざボクやサッちゃんの家に来て、ノーパソの音量MAXでエロゲーやるような大バカだよね」

「それは置いといて……俺様が思うに、ああいうゲームって『プレーヤーの気に入ったヒロインを主人公とくっつける』わけだから、プレイヤーは潜在的にNTR好きっていっても過言ではないのではなかろーか? とか思うワケよ」

「過言だよ! 暴論すぎるよ! 全世界のギャルゲーユーザーに謝ってよ!!」

「あぁ、自分とギャルゲー主人公を同一視した結果、自分を見失うぐらいの漢がいたら俺様もそんな馬鹿げたことを言い出すことはなかっただろうに……」

「そのひとの人生がバッドエンドしちゃうよ!」

「バッドエンドが怖くてギャルゲーができるかーッ!!」


 ダメだコイツ。どうにもならない……。

 話せば話すほど話が逸れる/疲れる/虚しい……仕方ない。こうなったら――


「……ソレニシテモ、アノこ、イッタイなにものナンダローネ?」


 全力全開で話を変えてやろー!

 失うものしか無い不利で不毛な状況は傷の浅いうちに見切りをつけて、たとえ厳しくとも自分の利益があると思われる戦場へ向かう。これこそが戦略的撤退というやつであろー?


「ん? 知りたいのか――じゃあ、仕方ないから教えてやろう! いいか、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ☆」


 ……意外にもおバカはボクの強引な話題変更にノリノリで食いついてきた。

 なんかボクの返事も待たず――胸ポケットからメモ帳&ボールペンを取り出しペラペラ/ペン先を舌でペロリ/ノックをこめかみに当てて――


「え~、まずは【基本データ】から――名前は天野白銀。十二歳、西南中学校一年A組在籍。銀髪碧眼のハーフ。体重身長は……この年頃の子供は日々変わるのでパス。中学女子にしては高身長だけどぺったん娘なスレンダー体型とだけ言っておこう。【交友関係】――恋人なし。男友達なし。処女。主な友達は同級生の同姓の友達。斉藤ライム、桐咲緋色、日ノ本黄色。この三人に白銀ちゃんを加えた四人で『イロモノ・カルテット』と呼ばれている。その件に関して本人はノーコメント。【家族構成】は数年前に借金残して死んだ父親が彼女的にはかなりダメな人だったらしく男に嫌悪感MAX。逆に苦労しながら育ててくれた母親には感謝しまくりマザコンMAX。【趣味嗜好】――食べ物に好き嫌いはなし。食べれるだけで幸せ。趣味はお金を数えること……うん。お金は大事だよな。【チャームポイント】は外国人な母親から受け継いだ銀色の髪が自慢。それゆえ基本の髪型はロング一辺倒。リボンやカチューシャでオシャレを演出するタイプ。でも財政的な理由で所持数は少ないのでプレゼントとしては効果的と思われる。【弱点】、と言うか目下のお悩みは周囲の娘達の胸が段々大きくなり始めてんのにいまだぺったん娘な事。ここら辺は食糧事情が関係していると思うので極力スルーするべし。あと最後に俺様による【キャラクター考察】――家族構成、誰に対しても『です・ます』調な丁寧語、友達に一度もお悩み相談とかしたこと無い。という三点から他人に本心を見せないタイプと推測。最初に嫌われる覚悟でガツンといくのがオススメ、かな? 好きの反対は無関心。嫌よ嫌よも好きのうち、って気持ちで強気にGOファイッ!」


 勢い良く食いついてきた理由がわかった――というか絶対喋りたかっただけだよコイツ。情報だけでなく考察まで入れてくるとか、どんだけだよ!? マヂで頭痛くなってきたよ……。


「……勝手に個人情報流すのは問答無用でギルティじゃないかな?」

「春サンはギャルゲーの友人キャラを全否定するつもりか!?」

「そんなのはファンタジーな存在だと実感したよ」


 うん。実際にいたら超厄介な犯罪者デスヨネ。

 警察は一一〇番で良かったよね。ピ、ポ……いや、コイツをお縄にする前に、いまはサッちゃんの安否を確かめねば。ウッカリ忘れてたよ。アハハハハ……。

 と、改めて見ると――ボク等がバカやってた間にも救助活動継続中でありました。

 肋骨バキバキ必死な心臓マッサージとマウス・トゥ・マウスの人工呼吸を交互に――時間にしてもうすぐ三分/蘇生限界寸前/それでも魔法少女は諦めずに唇を重ね――た瞬間、サッちゃん再起動/激しく咳き込む魔法少女……どうやら蘇生時に少女の口内に水とかを吐き出しちゃった様子。たぶん少女の方が焦りで蘇生の兆候を見逃したために起こった不幸な事故――


「――く、幼気な少女の中にぶちまけるとは、さすがサッちゃん。斜め上をいってくれる!」

「……もうお願いだから黙っててよ」


 こうして我等が心友は死地より帰還しました。

 …………っていうかボク等、マヂで何やってんだろうね?


 ※ホントに人工呼吸する時に直接触れるのはダメダメです。ハンカチ等で顔を覆ってその上からいたしましょう。事後はうがいも忘れずにネ☆

お悩み相談盗聴できずΣ(´∀`;)

相談は次話へ持ち越しです。ちなみにワシの好きな友人キャラは元祖友人・早乙女好雄。彼になら攻略しなかったヒロイン取られても良い……。

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