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第一章「入学」 第七話「天翔ける少年と白銀の魔法少女」

 ○SIDE:SCARLETT


 ●平成二十一年三月初頭――【斉藤神社・裏山】


「……天翔神足てんしょうかそく?」


 中学の卒業式を終え、高校入学までの長い休みに入った初日――オレは師匠に言われて、おなじみの修行場に足を運んだ。そこで待っていたのは呼び出した張本人。そして熱せられたありえない長さ/百メートル超の鉄板で…………うん。ワケが解らなくて嫌な予感しかしない。


「うむ。それがオレからの卒業祝い――我がアカツキ闘術において最も重要かつ、これが出来なければどうしようもなくなるという最重要な『歩法』の最秘奥義だッ!!」

「そういうのは最初に教えてよッ!」


 思わず大声でツッコム。

 いや、これまでの十年近い修行をいきなり全否定されそうになったんだから声を荒らげもしよう……とりあえず『最も重要』と『最重要』が被ってるということはツッコまない方向で。


「フッ。勘違いするな、バカ弟子。これまでオヌシに課してきた修行は全てこの技を修得するための土台作り――むしろ十年ぐらいじゃ『生身で空を走る』なんてトンデモ技覚えるには足りないぐらいだ。つまり出来なかったら基礎訓練からやり直しって覚悟で頑張れ!」

「……あ~、『空を走る』って、風を蹴って走るとか、そんなの?」

「いいか、皐月。風を蹴るとかファンタジーなこと人間には無理だから。人間そんなに凄くないからな。オヌシも来月には高校生なんだから、厨二は卒業しような……」

「うぐ……じゃあ、どうやってやんのさ、それ?」

「うむ。わかりやすく言うなら、大気に漂う魔法の源、魔力素「エーテル」を使って――」

「ソッチの方がよっぽどファンタジーじゃねーかッッ!!」


 思わず全力でツッコんだ。

 でもしゃーないでしょう。『風を蹴る』を否定された直後に『魔法』なんてものを肯定されたら誰だって声を荒らげてツッコむってんだコンチクショー!


「いちいち話の腰を折るな、バカ弟子。いいか、よ~く見ろ――オレの指先。今ここに「エーテル」が漂ってる。もっとも、これは普通の人には見えない。オレにも見えない。だが、感じることはできる。そして、これまでの修行で五感を鍛えまくったオヌシにも見えなくとも感じることが――」

「――見えないって、そのキラキラしたやつのこと?」

「…………は? キラキラって……マヂか!? なんで、オヌシ……これは見鬼とか妖精眼な魔眼保持者じゃないと視えないハズ……いや、そういえばオヌシの母親はヒーロー体質な四季の奴が道端で拾ってきたワケあり女。神を降ろしその力を借る真性の巫女。神を宿す女が孕んだ子なら、おかしくないのか? だが、そうなると光や睦月にも素養があるということに……」


 唐突にブツブツと自己問答を始める御老人。

 なんだかいろいろ怪しい事言っている気がするが、気にするとドツボにはまりそうな気がするんでとりあえずスルー……ブツブツ言ってる御老人を生易しい目で見守ることに務めます。

 そして時間にして三分後、答えが出たらしい師匠はオレに向かって『ニカっ』と笑い――


「――スマン。これまでやってきた修行、オヌシには特に必要なかったわ」

「……おぅのう」


 話の流れ的に予想できてたのに、その答えを聴いた途端に『ガクン』と膝が折れましたわ。

 なんか自分で思った以上にダメージでかかったらしい……うん。正直にぶっちゃけるなら、たとえ真実でもその結論は聞きたくなかったよ。オレの十年を返せーッ!


「いやいや待て。そう落ち込むな。世の中には無駄なことなどない……今日まで命を削って鍛え上げたその力はきっといつか役に立つ。流した汗はオヌシを裏切らない。大丈夫、大丈夫」


 ……ああ。励ましの言葉って重ねるほどに薄っぺらくなるんだなぁ。

 これから人を励ますときは極力言葉を選ぼう、と決意する。とりあえず『いつか』と『大丈夫』は絶対使わず、極力具体的な解決方法を示せるように努力しようと思います。

 そんな決意とともに立ち上がったオレを見て、師匠は咳払い一つ――『キリッ』とした表情を作って強引に軌道修正/説明再開――


「あ~、いいか皐月。話を戻すが――武術というものには全て【理】というモノがある。わかりやすいのだとテコの原理とかだな。いや、テコの原理は口で説明するのが難しいか……あ、難波走り。古武術に難波走りという有名な歩法があるんだが、あれは両手両足を一緒に出すことで体の捻りを抑えてるから疲れにくいらしいぞ」


 ……『らしい』というトコに思いっきり聞きかじり感はあるが、とりあえずスルー。


「で、天翔神足の原理だが……さっきも言ったが、このエーテルという物質は修行次第で普通の人にも知覚できるようにはなる。が、特殊な交配を繰り返し感応力を高めた魔女の一族でもなければ魔法として使用するのは不可能。残念でした! だがしかーし、基本なんでもありな『魔法』の源だけあって、普通の人間でも『強い感情』を込める事でほんの少しだけ不思議現象が起こせるのだよ! こんなふうに――」


 ノリノリで説明した勢いのままにノリノリでジャンプ――したまま落ちてこない!?

 オレより背の高い、体重五十キロ後半な老人が空中に立っていた。開けた場所なので上に樹の枝とかはない。ワイヤートリック不可能。つまりトリックではない。お見通し出来ない!


「まあ、問題はその強い感情というやつなんだが……最低限、生死の境で『死にたくない』と願うぐらいの激しい感情が必要になる。火事場の馬鹿力が理屈に合わないパワーをみせるのもこの理屈なんだが……」


 そして師匠の視線が先程から絶えず熱せられ続けている鉄板へ向けられ――


「――ということで、とりあえずオヌシにはあの焼けた鉄板の上を裸足で走ってもらいマス」

「師匠の血は何色だぁぁ――――ッッ!?」


 と、心の底から叫んで抗議したけど聞き入れられませんでした。

 直後、力尽くで持ち上げられて鉄板の上に『ポイっ』されたオレは……。



 ●平成二十一年四月五日(日曜)午前七時二三分――【華乃樹公園・赤月堰堤】


「ふッ、ざ、けぇんなぁぁ――――ッッ!!」


 ――生命の危機が呼び起こした過去回想/走馬灯終了。

 現実に戻ったオレの目に映ったのは碧い川/緑の木/灰色の岩――そして白銀の衣装/魔法少女風コスプレをした中学生ぐらいの女の子。

 そんな娘が休日の朝っぱらに滝の上に立っていた。普通に進入禁止だから転落防止の柵などない場所に。滝壺をじっと見つめながら。思いつめた表情で……その姿が何故か我が義妹様に重なり、次に起こることを連想した瞬間、頭が真っ白になり――気がついたらトんでいた。


 ――……やっちまったい! でも、いい。後戻りできないなら突っ走りゃいいだけだ!!


 覚悟とともに魔力素エーテルの光を意識する。

 大気に舞う蛍火のような光。最近なんかやたらと増えてきてる気はするけど、それは置いとく。それより集中――肌に感じる風から風向き確認。エーテルは空気より軽いらしいので風の影響をモロに受ける。風に流されることを計算し、目標への最短ルート/光の道を幻視する。


 ――……世の中には無駄なことなどない、か。


 今やったのは目がいいだけじゃ出来ないコト――鍛えた五感/触覚の恩恵。


 ――……でも、それでも届きそうにないんだよな、コンチクショー!


 少女の身体は既に傾きつつある。落ちる前に掴むことは不可能――なら落ちた後に掴むしかない/軌道修正/それでも足りない分は速度で補う/身体を捻って上下反転――一歩前へ/加速/女の子が落ちた/加速/加速/滝の頂点通過/加速/一歩進む度に際限なく加えられていく勢い/加速/心が恐怖に削られる/加速/再浮上可能限界点通過/加速/加速/加速――


「と」


 手を伸ばす。


「ど」


 少女との距離は縮む。


「けぇぇ――ッ!」


 滝壺/水面までの距離も縮む――が、心が慣れたのか、それともマヒしたのか、もう恐怖は感じない。好都合! 全力全開の一歩を踏み出して最大加速ッ!!


「――ぐぇ!?」


 手が届く。

 マントの襟を掴む――と、首が絞まったようで女の子らしからぬ呻き声。と同時に脱力/気絶/とりあえず無視/今は助かることだけ考え――少女をお姫様抱っこで抱え、体勢確保。

 水面までの距離四メートル弱。

 方向修正とっくに不可能――なら、全力でブレーキ/速度を限界まで緩めて……。


「天翔神足、第二法――」


 足が水面に触れる。

 足裏から響く衝撃/激痛/耐え難い痛み――それでも耐える! 耐えて――


「――減走ッ!」


 水面に立つ。

 あの日、師匠が見せてくれた境地――天翔神足、三つの段階の二番目。

 第一法【空走】――空を蹴って駆ける基本技。

 第二法【減走】――水や空を舞う木の葉の上に立つ応用技。

 第三法【無走】――……残念ながらまだ教えてもらっていない最終段階。

 とりあえず約一ヶ月の山籠りでオレが習得できたのは第二法まで――空を駆けるという一瞬一瞬の連続使用よりも同じ場所に立ち続ける方が格段に難しかった。今も一応できるというレベルで気を抜くとすぐに解除される。全神経集中しても三十秒が限界。って事でとりあえず早く岸に行かねば……――


「――ん、ん?」

「お、気がついたか魔法少女」

「…………生きて、る、のですか?」

「おう。誠に勝手ながら救けさせてもらったぜ」


 こういう時のお約束――相手を安心させるために『ニコ』っと微笑みながら話しかける。

 が、それは『イケメンに限る』奥義であり、残念ながら俺には無理なのでありました……少女は自分の身に起こったことを瞬時に理解し、目を見開いて、ヒステリックに――


「なんでッ!? なんで死なせてくれなかったのッ!!」


 と、叫んだと思ったら後頭部に『ガツン』!?

 お姫様抱っこしている女の子から膝蹴りもらったという事を理解しつつ『ボッチャン』♪

 ……そして、オレの意識は身体と一緒に暗く冷たい場所へ沈んでいったのでありました。


 ☆現時刻午前七時二四分――残り時間一時間三六分。

おかしい……もっと学園ラブコメになる予定だったはずなのに、どんどんファンタジーよりになっていく。まあ、舞台裏では魔法少女が戦っている世界設定なのでしゃーないといえばしゃーないのですがね。

次は春サン視点で救出見学&お悩み相談盗聴の予定。

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