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第一章「入学」 第五話「暁の継承者」

 ○SIDE:SCARLETT


 ●平成――年―月―日(――)――――時――分――【斉藤神社・裏山】


『金は力! 力こそパワー!』


 ああ、これは夢だ。夢を見ている。夢だとわかる。

 夢の中のオレは山の中――縁の家の裏山、木々を抜けた先にある草原にいた。

 オレの住むアカツキ市が一望できる見晴らしの良い崖っぷち――目に映るのは周囲を山に囲まれた箱庭のような街。元々の人口はあの街だけで五万人ぐらいだったのに、過疎化や少子化の影響で減少し、近隣の村や町を吸収合併して人口を増やすも、ま~た減少して領土は拡大したのに人口的には下降の一途という未来に不安を覚える街である。ちなみに増えた領土はほとんど山です。ここから見える山にしか見えない場所に人の住む集落があったりするのです。人間っていうのはマヂ凄い……あそこら辺に住んでる人達は街に住んでる人よりも体力というか生命力が強いというのを運動会とかで実感するのです。蛮族バンザーイ。

 で、そんな我が故郷を背景におかしな事を言っているのはオレの師匠――いや、この時にはまだお爺ちゃんと呼んでいた人である。

 赤井厳冬――オレの義妹である茜の血の繋がった祖父/細身だが高身長で筋骨隆々/不敵な笑みに鋭い眼光/凛々しい眉に真っ白短髪、お髭少々――厳しくも頼もしい御老体。

 ……まあ、言動はアレだけどね。弁明するならちょっと言動は軽いけど人付き合いのいいお爺ちゃんってコトで……空気を読まなくてジョークの真偽がわからないのが玉にキズだけど。

 あと確かオレとは親戚ではあるけど血縁はない関係――父さんの姉さんの旦那の父っていう繋がりで、息子夫婦が事故死した際に「老い先短い老人が男手一つで赤ちゃん育てても……」と言って茜を我が家に押し付けた、ちょっといろいろ考えすぎてしまう心底不器用な人。


『おめでとう、不知火皐月――先日の家族会議で正式にオヌシがオレの、この赤月市の影の支配者、赤井厳冬の後継者に決まった。これより先はオレのことを師匠と呼び敬うように』

『うん。わかったよー、お爺ちゃん』

『うん。わかってないな。その大雑把さはあの人譲りか……まあいい』


 師匠はなんだか懐かしいモノを見るような瞳でしばらくオレを見た後、『ゴホン』とわざとらしい咳払いをして話を戻す。基本ですね咳払い軌道修正。


『あ~、これは聞くも涙、語るも涙なお話――』


 ……今度は遠い目で語りだす師匠。忙しい人である。

 そして『パチパチ~』と口で言いながら手を叩くお気楽なオレ……我ながら微笑ましい。


『オレの妻はいまどきのナウい言い方をするならドMというやつだった』


 ……うん。子供相手に何言ってんでしょうかね、この御老体は?

 でも当時のオレはその意味がわからず、意味はわからないが大好きなお爺ちゃんが身振り手振りを交えながらお話してくれることが楽しく、興味津々で聞いていた。無知って怖い。


『傲慢で強引な亭主に虐げられ、それでも尽くす健気な妻という立場にどうしようもない快感を覚えるダメな女だった。好きなプレイはちゃぶ台返し。物を投げつけると恍惚とした顔でゴメンナサイという。罵ると内股でモジモジする……ホント、マヂでダメな女だった。だがオレは、そんなダメな女でも、否、そんなダメな女だったからこそオレが理解してやらないとダメだと思い受け入れたのだッ!』


 難儀だ。物凄く難儀な人だ。

 でも、そのダメな娘だからオレが理解しなきゃって気持ちが凄く良くわかる。オレの身近にもいるからね、ダメな娘。っていうかその女性が茜のルーツなんですね。わかりました。


『しかし、その結果……娘に嫌われた』

『ボクはお爺ちゃんのこと好きだよ~』

『ああ、ありがとう。オレもオヌシのことは好ましく思っているよ……で、だ。オレには子供が二人いてな、息子と娘。二人共オレの自慢の子供で、特に息子の方は出来過ぎるぐらい出来た子だった。それこそ母親のダメなところもなんとなく察してくれるような子で……オレに同情混じりの親愛を向けてきた時は嬉しいやら情けないやらで泣いちまったよ。でも娘はな……母親の性癖なんて考えもしない無垢な子だった。そして、母親想いの優しい娘だった。オレのことも嫌ってはいたが歩み寄ろうとはしてくれていたように思う……』


 哀しくも誇らしい、そんな表情。

 確かに嫌いな相手を理解しようとするのは難しい。オレもとても良い子だと思う……が、そんな優しい子だからこそ、母を虐める父というのは許せないように思える。最も簡単な解決方法は母親の性癖を暴露することだが、師匠としては娘に「お前の母親はドMなんだよ」とは言えないだろう……どん詰まってるなー。


『しかし娘が思春期真っ盛りの時に妻が風邪でポックリ逝きおってな……葬式終わった後「アンタが母さんをいじめ殺したんだ」と罵られた。その日は仏壇の前で泣いたよ』

『おー☆』


 のぉぉぉーッ! 和解が一気に遠のいたよ。死んじゃった後で事実暴露してもヘタな言い訳どころか死者に対する冒涜と取られちゃう流れだよ、それ!

 ……てな感じに現在なら理解できる哀しいお話なのだが、当時のオレはたぶんゼンゼン理解してない。完全にノリで返事してやがる。っていうか、そんな重い話をガキンチョにしないで! 全く理解できずに気楽な返事してる自分が情けなくて穴があったら入りたい!!


『そんな感じに決定的にすれ違ってしまった結果、義務教育終了とともに家を飛び出して、勝手に結婚して、勝手にガキをこさえて、その子たちにもオレが最低の人間だと教育している始末だ。この間少々強引に遺産相続を含めた今後の話をしようとしたら「アンタの遺産なんているか、穢らわしい!」と罵られたよ。ぶっちゃけ死にたくなった……』


 とうとう死んだ瞳で黄昏れ始める師匠。

 しゃがみこんで地面にのの字を書くのはちょっと情けないが……その気持ちはお察しする。

 ……過去のオレ、一緒になって地面にお絵描きするな!


『息子も一粒種の茜を残して事故で逝っちまったし、その茜は二十歳まで生きられないだろうとか医者に言われたし………………ホント死にたい。でもな、オレが持っているものは投げ捨てるわけにはいかないんだ。オレが「あの人」達から託されたバトンは責任をもって新しい世代に繋げる必要がある。そうしないとみんなダメになっちまう……だからオレは!』


 喋ってる途中に死んだり復活したり熱血したりと目まぐるしい。

 ……そして、まーた口で『パチパチ』言ってる幼いオレよ、空気を読め!


『と、困ってたら娘の旦那が、じゃあ娘の子――孫娘の婚約者であるオヌシに相続させればいい、といいだしてな。もうオレも面倒臭くなったんでその言葉に乗っかることにしたわけだ』


 ……うん。「面倒臭くなった」はとても余分な一言だと思いますよ、お師匠様?

 でも待てよ……いまの話の流れだと、もしかしなくてもその孫娘が水色さんだよな? じゃあ春サンも師匠の孫ってこと? で茜も師匠の孫だから、二人はイトコ同士? 確かに冷静になって考えると茜と水色さんってどっか似てるけど……見た目幼いトコとか、見た目幼女なトコとか。っていうか、ホントにいまさらな新事実発覚なんですけど。血縁なくても親戚なのになんで知らないのオレ!? もしかしてハブられてる? 村八分状態!?


『よってこれ以上面倒くさくなるのは嫌なのでオヌシに拒否権は認めない。嫌だって言っても引き継がせる。で、肝心のオレがオヌシに渡すものは三つ。「金」と「権力」。そして、その全てをひっくり返せる「暴力」――』


 それはオレ的に子供に与えちゃいけないトップ3デス! 歪むよ、オレの価値観と人生!

 ……と、思ったけどどうなんだろ? 現在のオレは歪んでるのか? 自分のコトは難しい。


『この街の先人達が「星の獣」と戦うために命を紡いで編み出した武術――アカツキ闘術!』


 ……あー。またその「星の獣」ですか。ホント、なんなんですかね?

 でも師匠もその言葉を使っているということは……祖父から孫へ伝えられた厨二設定?


『その拳は光渦巻く螺旋となり全てを貫く。その蹴りは風を纏て全てを別つ。その身は天地を翔け縦横無尽。全ての悪意を覆し、ただひたすら星の瞬く夜の彼方、新たなる黎明を目指し駆け抜ける者――彼の者こそ夜の終わり、暁の扉を開く者なり』

『おおー』


 くっ、心が疼く。

 もう高校生なのに、何歳になっても少年の心はなくならない――これが若さというものか!?

 まあ、その文言の「その身は天地を翔け縦横無尽」な【天翔神速】を覚えるためにオレは焼けた鉄板を素足で駆け抜けるハメになったりしたのですけどね。オレがアチアチ踊ってる隣で師匠はジュージュー肉焼いて美味しそうに食いまくってたんですけどね。その後、オレも思う存分食わせてもらったからいいんですけどね……。その後も、蹴り業【断空】の修行でも死にかけたし、拳のアレは完成と同時に複雑骨折で、せっかく覚えたのに禁じ手にされたしさ。

 ……あ、いま思ったけど「全ての悪意を覆し」って部分は水色さんの使ってた業かな? アカツキ闘術・蒼井流とか言ってからオリジナル技かもしれないけど。どうなんだろ?


『そのために、まずは――』


 そう言って師匠はその手をオレに向かって突き出し、ゆっくり歩み寄り――


『オヌシの「運命力」、試させてもらう』


 そして、どこぞの獅子のように師匠はオレを崖の上から突き落としたのでありました。



 で、その後――崖から落とされた時、反射的に丸くなったオレはうまい具合に斜度を変えるなだらかな斜面をうまいこと転がり、運良く石や岩といった硬いものにぶつからず、運良く木や草といったものに速度を緩めてもらい……そのまま川まで落ちてドンブラコ。

 最後の最後で致命的な気もするが不幸中の幸いというか川の流れは緩やかで、溺れこそしたが、滝に巻き込まれることも川底へ追い込まれることもなく流れに乗ることができ……。

 ……まあ、現在こうしてちゃんと生きて夢見てるので大丈夫だったということです。

 ぶっちゃけ運が良かったとしか思えないけど、もしかしたらソレこそが師匠の試そうとした『運命力』というものなのだろうか? でもオレ的にはこれで『運』使い果たしちゃってないか心配になってくるよ……。

 ……っていうかアレだね。今日アナタの孫に高いところから突き落とされたオレ的には、この行為にすっごい血の繋がりを感じるね。もしかしてそれがこの夢見てる理由かな? うん。自己分析完了でちょっとスッキリ☆ さあこいノンレム睡眠! 夢の終わりへGO!



 そして、夢の終わり――


『――ゲホっ!?』

『お、起きたかドザエモン』


 その声の主は目の前に。

 近すぎて見えない顔。唇に残った感触と熱。

 離れるほどに見えてくる――ありえないほど綺麗な顔形。しっとり湿った黒髪。水滴が滑り落ちる白磁のような肌――肌色全開/一糸まとわぬ姿。

 そいつは子供心にも感動を覚えるほどの、水も滴る……――

過去回想……なのですが前話書いてる時に唐突に入れることにしたプロットでは考えてなかったお話であります。

思いつきで書いた結果、今後の展開が予定と変わらないか心配ではあるけど……頑張ります。

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