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第一章「入学」 第三話「血戦、許嫁!!」

 ○SIDE:BLUE

 

 ●平成二十一年四月四日(土曜)午前十一時五十八分――【一年B組教室】


「……さ、サッちゃぁぁ――――ん!?」


 窓の向こうに消えた心友の名を叫びながら駆け出す。

 目指すは窓際――今更走っても無駄だということは嫌になる程解ってる/見たくないものを見るハメになる/心友が潰れたトマトのようになっている姿なんて見たいはずがない……だから足が鈍る。足を止める。足を止めて、立ち尽くし、ただ絶望する。

 それは、ボクがこの時点で、万が一の可能性を諦めたということ。

 そして、当たり前のことだけど諦めた人間に、奇跡は起こせない。

 奇跡を起こせるのは――



「うおりゃぁぁぁ――――――ッッ!」



 最後まで諦めない者だけだから。

 立ち尽くすボクの瞳に映るのは、窓の向こう側に浮上する心友の――不知火皐月の姿。

 たぶん壁を蹴ってジャンプしたのだろう。火事場の馬鹿力なド根性に驚き……を通り越して逆に落ち着く。その落ち着いた頭で現実逃避気味に考える――普通に考えて、壁を蹴って元の場所に戻るのは不可能/蹴ったモノからは遠のく/サっちゃんの手は窓まで届かない……。

 ……もしボクが足を止めていなければ、窓際まで駆けつけていればその手を掴むことができたかもしれないけれど、もう後の祭り。ボクの手は届かない。諦めたボクには何もできない。

 それでも出来ることがあるとしたら、ただ見届けることだけ――一度は諦めたクセに、いまさらその覚悟を決める/現実逃避を止める/前を向――いた瞬間、バッチリ交差する視線。サッちゃんはただ見ることしかできない役立たずなボクに、『ニカッ』と笑いかけ――


 直後、轟く空気振動オト


 ――飛び込むように教室に帰って……『ゴッツン!』と頭で着地/ゴロゴロ転がり――机に激突/その痛みで再びゴロゴロ転がり、またぶつかってゴロゴロなゴロゴロ三昧でゴロゴロ。


「いってー……っーかマヂ死ぬかと思ったぁ……」

「いやいや、フツーにマヂ死ぬでしょ……っていうか何、今の?」


 肩で息をして呼吸を整える心友に訪ねる。

 極力平静を装って、自分が諦めたっていう後ろめたさを隠すように……――


「――うむ。あれぞアカツキ闘術最源流奥義『天翔神速てんしょうかそく』じゃ!」

「知ってるの、らいで……バカ縁!?」


 いつの間にかやってきていたおバカの話にノリよく乗っかる。ナイスタイミング、おバカ☆


「うむ。あれは古来よりこの街に伝わる秘伝の奥義――極めしものは風を蹴り空を翔け、水に乗り水面を駆け抜ける事ができるらしい。だが、そのための修行は困難を極めるという……」

「……………………へー」

「俺様が聞いた話では――まず水の上に置かれた障子紙の道を走ることから始まり、最終的に焼けた鉄板の上を裸足で走るという荒行を経て修得できるとか、できないとか?」

「え、ナニソレ怖い」


 民明書房の本とかに載っていそうなトンデモ修行のトンデモ技でありました。

 このおバカお得意の口からでまかせ話の可能性急上昇……真実味? なにそれ美味しいの?


「いやー……お師匠様に『師匠の血は何色だーっ!?』って、マヂ泣きして文句言ったのに、問答無用で鉄板の上に転がされた時はマヂ死ぬかと思ったなー。生きてるってスバラシー」


 今死にかけた心友が、過去を思い出しながら死んだ目で黄昏れている……あ、死んだ目はサッちゃんのデフォルトだったっけ? まあ、とにかく、どうやらホントにそんなトンデモ修行をやり遂げちゃったらしい。ご愁傷さまデス……。


「でも一番恐ろしいのは、そんな無茶苦茶な修行の結果、ホントに『風を蹴る』とか『水面を走る』とかできるようになったサッちゃんだよな。恐ろしいビックリ人間で恐ろしいゼ!」

「もうソレ、武術っていうより忍術とか仙術の類だよね……――っていうか、いつそんな修行してたのさ? 中学の時にはそんなのできなかったよね!?」

「フッ。サッちゃんが中学卒業後のお休みに『山籠り』していた事は知ってるだろ?」

「知らないよ! 音信不通だと思ったら何やってんだよ!? こっちは中学最後の休みを一緒に楽しもうと思っていろいろ考えてたのに! そっちはボクに黙って二人でよろしくやってたって事!? 酷いよ、酷すぎるよ!! サッちゃんと連絡取れなかったせいで、連休中ボクはむっちゃんとデートしたり、二人で旅行したり、ボクの部屋で遊んだり、むっちゃんの家にお泊りしたり、二人で……と、とにかくひたすら二人でイチャイチャすることしかできなかったんだからね! ボクの休みの予定台無しだったんだから!! ボクの楽しいお休み返せー!」


 と、ボクが言葉を重ねるほど二人の視線が冷たさとドキドキを混ぜあわせた微妙なモノになっていく……が、彼等がボクにツッコミ入れる前に横からインターセプト!


「――そ・れ・で、二段ジャンプができるからナニ? 私の『ワザ』をそんな一発芸でどうにかできると思っているのかしら? っていうか私をムシしないでよ、このトーヘンボク」

「いや、無視したつもりは……ゴメンナサイ。あと、どうにかできるかって方は――」


 と、サッちゃんは乗り気じゃない素振りで腕を振り上げ――


「――たぶん、どうとでもなるかな?」


 袈裟斬りに振り下ろす。

 そんな謎行為に呆気にとられる一同――通り過ぎる風一陣/舞い散る乙女の命――姉さんの前髪数本が、風に断ち切られハラリと落ちて……えっと、つまり、これは、アレなのかな?


「……もしかして『カマイタチ』ってやつ?」

「風使いだ!」「うわ、ファンタジー!」「異能者よ!」「え、マヂ!?」


 ざわつく教室……うん、クラスメート達よ。キミ達、同級生が窓から落ちた時よりも反応しちゃうのはいかがなものかな? でも、いつの世も異能力者な厨ニキャラは少年少女の心を惹きつけるモノだし…………うん。ボクもちょっと憧れる。さすがサッちゃん!


「――ひどい、ことするのね。髪は女の命なのに……私の自由や未来を縛るだけじゃ飽き足らず、戯れで私の大事なものを奪って弄ぶ……この鬼畜! 変態! レイプ魔!!」

「人聞き悪ッ!?」


 姉さんの酷い言いがかりにサッちゃんが驚愕する。

 ボクも姉さんのいままで見せたことのない狼狽えっぷりに驚愕する。

 ……まあ、直接攻撃であればどんな攻撃も無効化/反射できちゃう姉さんにとって、魔法のような間接攻撃ができるらしいサッちゃんは天敵。初めて出会った脅威であろーが……。


「このバカ、バカ、バーカ! アナタみたいな滅茶苦茶な人……もうファンタジー世界にでも召喚されちゃって、そっちで頑張って勇者様にでもなればいいのよ!」

「異世界召喚には憧れるけど、俺には俺なしじゃ生きていけない可愛い義妹がいるんで無理」

「え、やだ。シスコン、キモい」


 その素の御言葉にサッちゃんが膝をつく。

 うん。殴る蹴るは肉体にダメージを与えるが、言葉は精神に直接くる。身体は鋼でも心はガラスってパターンはよくあること。バリーンときたのであろー……が、それにしても……。


「なんかいきなり低レベルな痴話喧嘩になった感じだね」

「フッ。俺様、こういうの嫌いじゃない」

「まあ、確かにお前の好きそうなラブコメっぽい掛け合いではあるけど……じゃあ、このまま姉さんがサッちゃんを殴って話を有耶無耶にしちゃうって流れかな?」


 それはラブコメで男女が口論したときの常套手段/王道展開。

 ボク的には暴力ヒロインってあんまり好きじゃないんだけど、不利な状況を打破する方法として『暴力』っていうのは最も直接的で使いやすい手段だ。そもそも姉さんは許嫁の存在が嫌だからってその相手を殺しに来るような直接的で直情的な人である。……短絡的ともいうが。


「いや。俺様が思うにこの流れは――」 



「――じゃあ、明日私と『デート』しましょう」


 一瞬、ボクはその言葉の意味がわからず「へう?」とかマヌケな声をこぼす。

 ボクがバカ縁と少し話をしていた間に何がどうなってそういう結論に至ったのかサッパリ不明。でも確かに今、姉さんがサッちゃんをデートに誘った。おバカの『大好物デス☆』って感じの至福顔&サムズアップを見るに聞き間違いではないらしい。うん。イラッと来るよ。


「アナタが私をデレさせたらアナタの勝ち――結婚だろうがなんだろうがしてあげましょう。その代わり三食オヤツ昼寝付きで共働きはナシ。夜の生活も私から求めた時のみ、が条件で」

「……俺になんのメリットが有るんだ、ソレ?」

「可愛い幼妻がいると自慢できます」

「…………じゃあ、それでいいや」

『それでいいのッ!?』


 さすがにその返事はないと驚いたボク&クラスメート一同――「カワイイは正義だからモーマンタイ。さっすが心友、わかってるゼ☆」とか言ってるおバカの戯言は全力でスルーする。

 ……うん。もしかしたら風とか水の流れを読む力を鍛えすぎた結果、場の流れに流されやすくなってしまったのかもしれない。そうであって欲しいと思う。そうであってくださいな!


「じゃあ、明日九時に駅前集合で。プランはアナタが考えるがいいわ! ま、せいぜい私を楽しませてみせることね。バーカ、バーカ、バーカ!」


 奇妙な捨て台詞を残して去っていく姉さんが妙に可愛いく見えてしまうのは状況についてけないボクの脳がみせた錯覚――「ああ、やっぱカワイイは正」――聞こえない、聴こえない!


「いろいろ滅茶苦茶な人だけど、なんか可愛く見えてきたな……」

「……義兄にいさんと呼ぼうか? ボクのほうが誕生日早いけど」

「気が早ぇよ!」

「語るに落ちたな心友――『早い』ということは、そういう未来もアリとか考えてるだろ!」

「……サテ、帰りましょうか春サンや」

「うん――で、明日はどんなプランでいくの、義兄さん?」

「ちょ、俺様置いてくなよ! 鞄とってくっから待っててプリーズ!!」


 無言で歩き出すサッちゃんに笑いながらついて行くボク。続くオーバーアクションおバカ。


 春麗ら――優しい太陽の輝きの下、桜の花が風に舞い、どこまでも高く果てない蒼い空へと吸い込まれていく……でも空に舞った花びらはいつか地に落ち踏み躙られるもの。さてさて、我が心友は風に乗ってどこまでも高く登るのか、それとも地に落ちのるか……『イチバンのおトモダチ』っていう一番近くて遠い特等席で見させてもらいましょ―か。最期まで……。



 ――てな感じに、ボク達の記念すべき高校初登校は終わったのでした。ちゃんちゃん♪

二話からめっちゃ時間かかったけど書くのを諦めたわけではないのです。

……そうワシはまだまだ登り始めたばかりなだから。このラノベ坂を!

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