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第一章「入学」 第十八話「月下狂宴・転」

 ○SIDE:SCARLETT


 ●平成二十一年四月六日(月曜)午前三時三十三分――【斉藤神社・裏山】


 突如飛来したドラゴン。

 東洋の龍ではなく、西洋の竜――トカゲっぽい身体にコウモリっぽい羽を生やしたアレ。ただ、その皮膚は赤でも緑でもなく白く発光している……下にいる化物のお仲間? 同種? でも、こっちは空飛んでるしデカイ。それに、開いた口の奥から光が溢れてくる様子を見るに、竜種お約束の『ブレス』とかも使えちゃいそうだ……――ってヤベェっ!?

 既にターゲットロックオン済!?/真っ直ぐ突き刺さる不可視の重圧――敵意/殺意/攻撃意志――その危機感に急かされて空を蹴る/視線=射線から逃げるように身体をずらし――


 直後、光の奔流が視界を埋め尽くす。


 ……なんとか回避成功/直撃は避けた――が、風に巻き込まれクールクルな状況/再度、空を蹴って立て直し――一歩/風より離脱/二歩/持ち直し成功/三歩――竜目掛けて跳躍ッ!


「ワリィけど、俺にはもう解ってんだよ!」


 水色さんを背負ったままなので攻撃手段は蹴り限定!

 無理な体勢で繰り出す軽~い一撃――狙いは最も当てやすそうなお腹――接触/命中/『ペチン』という情けない音/硬い皮膚に弾かれた感触――即座に離脱! 全力で逃げる!!


「……ナニがワカってるんですかね? ナニが?」


 一連の攻防に呆れた声をあげる水色さん……うむ。彼女から見れば『意味ありげな事言ったくせに、ヘッポコで終わった情けない一幕』であろー。でも残念、違うんだなー!


「――そもそも、この戦いはお師匠様プロデュースの『修行総まとめ』! つまり、俺が覚えたアカツキ闘術を使えば対処可能ッ、って事にサ!!」

「いえいえ。こんなバケモノ相手に武術で対処とか無理だと思うのですよ。普通に考えて」

「大丈夫! 俺の目にはちゃんと視えてる――あのバケモノが爆発したら、お師匠様の言う魔法の源『エーテル』ってのになった。つまりこのバケモノ達の身体はエーテルで出来てて、俺の使う奥義は大気中のエーテルを気合で爆発させて足場にする技。つまり――」

「さっきのバケモノが爆発したのは……」


 言い終わるよりも早く――光を撒き散らして爆散する巨体――その答えは示される。

 で、再度爆風に巻き込まれてクルクル舞う俺達……はい。迂闊な大失敗☆/こっそり全力で逃げてたけど安全距離まで辿りつけませんでしたー!? ついでに爆風強すぎで、二、三歩、空を蹴っても焼け石に水っぽい……せめて水色さんだけでも! と、おんぶから抱っこにチェンジ/庇うように抱きしめ――地面までのカウントスタート/五、四、三、二、一……――


「――まったく。人ん家の裏庭でなにドンパチやってんだか」



 待っていたのは硬い地面ではなく、呆れた声と柔らかな感触。

 えー、なんといいますか……なんかロボっぽいモノにナイスキャッチされました。

 滑らかに動く滑らかな巨体――全長四メートル/二足歩行するずんぐりむっくり/イメージ的にはゴーレム系?/色は黒鉄に金の縁取りで俺好み☆

 で、その肩には我が心友・斉藤縁がニヤニヤ顔で腰掛けてる。何故か巫女服着て……――

 ――……ぐっ!? 白衣と緋袴のコントラストが俺の心の奥底をむず痒くさせやがる! これ以上直視するとヤバイ。マヂヤバイ気がする! はやく巫女服から意識を逸らさないとぉぉ!


「ぉぉお、おバカッ!?」

「おう――って、こんな時までバカ呼ばわりか!? たまにはちゃんと名前で呼ぼうぜ、心友」

「う、あ……ああ。助かったよ――空色」

「お――おおぅ!? って、なんでだよ!? なんで俺様の『真名』知ってんだ!? それは母さんが『生涯の伴侶にしか教えちゃいけないですよ』って言って、オヤジも知らない、まだ水ちゃんにも教えてない名前なんだぞ!」

「ん? お前が前にやらかした時に、伯母さんから教えられたんだけど……」

「おバカでいいんで、その恥ずかしい名前で呼ばねーでください! マヂお願いします!!」

「……アナタ達、余裕あるね。仲良いね。死ねば?」

「「嫉妬する水色さん/水ちゃんが可愛すぎて死ねるッッ!!」」


 ここで、もっと蔑んだ目で見られたいとか思ったら駄目な人であろーか? ちなみに俺の視界の片隅には、なんか頬を赤らめてその御言葉の続きを待ってるおバカがいて……うん。ああはなるまい! ってか、そんな事考えてる場合じゃねーだろ!

 いまは現在進行形で戦闘真っ最中――四足獣型のバケモノはまだまだウジャウジャ。ドラゴンの方だってアレ一匹で終わるとは思えない。気を引き締めて迎え撃て!

 って感じの決意を胸に顔を上げると――空一面を埋め尽くす異形の群れ!?


「うわー、……うん。まあいいや。千里の道も一歩からの精神で一匹ずつ潰してこーか」

「おおう!? さ、さすがサッちゃん。ここは普通なら絶望して逃げの一択だぜ! ちゃんと状況把握できてっか? つーか、限度というものを知らんのか、厳冬さんは……」


 珍しく焦った表情するおバカが新鮮。

 でも、俺を『テンパッて無謀な挑戦しようとしてる愚か者』みたいに扱わないで欲しい。

 確かにドラゴンは恐い/物語のボス敵/最凶最悪、脅威で驚異な存在……でも、目の前のアレはただのマガイモノ/俺の『奥義』が当たれば爆発しちゃう紙装甲――唯一の懸念材料だった水ちゃんをコイツに任せられるなら……たぶん大丈夫? 大丈夫だと思いたい!


「しっかし、これはアレだな、アレ。これ仕組んだのたぶんラスボスちゃんだな。で、演出はカガちゃんか……まったく。確かに『外側カタチを整えれば中身は後からついてくるモンだ』とは言ったが、そこに非日常を盛り込んだらダメダメだってーの。非日常なシチュで盛り上がった恋は日常に帰還すると一気に冷める危険性があるんだぞ! 吊り橋効果はあくまで日常の中で狙うものだというのに……これだからラブコメ素人さんは困るんだよなー」

「何を言ってるのかよく解らんが、人を『素人』呼ばわりするほどお前はプロなのか?」

「自称ラブコメ永世名人!」


 ああ、お前の中ではそうなのか…………可哀想に。

 しかし、『ラスボスちゃん』とは何者だろう? ちゃん付けするってことは女の子? 加賀なんて苗字の知り合いはいないし……後で全部ゲロってもらおう。今後の身の安全のために!


「まあいいや。んじゃ、ちょっくら行ってくっから、あとヨロシク!」

「いやいや、ちょい待てや、サッちゃん!?」

「待てと言われても相手は待ってくんねーだろ……って、ちょ、コラ! ズボン掴むな! 摺り下ろすな! お前にはいまにもブレス吐きそうな竜の群れ――その数五十三匹と同じ数の獣の群れで合計百六匹。さっき倒したの合わせて煩悩の数と同じ百八匹が見えんのか!?」

「だ・か・ら、急ぐからこそ聞けっての! あんだけの数が天地両方から攻めてくるんだぞ。一匹一匹倒そうとかゼッテー無理! 撃ち漏らしで俺様達がシャレになんねーって!!」


 くっ! ちゃんとした理屈を言われたら聴かざるをえない。

 敵は複数に対しこっちは前衛一人……上に対処してる時は下がお留守。一匹一匹潰すとか非現実的。考えなくても無理・無茶・無謀だってわかってる……でも、だったらどうしろと?


「そこで俺様の出番だ! 時間稼いでくれれば俺様がサクッとやってやんよ! ってコトで、その下準備をだな…………とりあえずこっちむけ心友! 水ちゃんはあっち向いてホイ!」


 で、素直に上を向く水ちゃんがマヂプリチー!/その瞬間、素早く踏み出すおバカ――既視感/蘇る記憶/昼間のトラウマフラッシュバックで反射的に進路妨害した結果――

 俺の唇がおバカの唇で塞がれました。


 ――……はい? 水ちゃんを狙ったように見えたのはフェイント? 本命は俺の方?


 何が何だか理解不能。ワケ分からないままに、ただ蹂躙されていく口内――絡む舌/混じわる体液――柔らかいとか甘酸っぱいとかってトキメキ感触を感じる間もなく、激しく、熱く、ひたすらにクチュクチュクチュクチュと侵され、冒され、犯され続けて三秒間……。

 ……終わった後に残ったのは、一方的に貪られた敗北感。汚された。汚されちゃったよ俺。

 対するおバカは『ぷはっ』とかやりきった表情でご満悦? お前、心は漢とか言ってなかったっけ? なのに男とキスしてソレはどうなの、コンチクショぉぉぉぉッッ!!


「これで俺様とサっちゃんの魔力経路というかパスというか、『縁』は完全復活だ!」

「…………復活? 俺とお前にそんな不思議なモンあったか?」

「俺様が前にやらかした時に、破瓜の血で作られた運命の赤い糸的なモンが出来ちゃってたらしー。母さんが気づいて封印してくれたんだけど、まあ緊急事態ってコトで……」

「……ソノ話、モウチョット、詳シク」

「うん、水ちゃん。笑顔で足踏むのやめて☆ あとでサッちゃんを煮るなり焼くなり好きにしていいから、今は俺様の話を聞いてくれないかネ?」

「勝手に自爆しといてそれは無いんでないかネ、心友?」

「……まあ、つまり、いまのでそのパスを復活させたんで俺様の超必殺技の準備がチョッパヤで終わる。さあ、俺様がカッコよくキメるために、ヤるぞサッちゃん!」

「まあいいけど……ところでソレ、副作用的なモノとかねーよな?」

「俺様が死んだらサッちゃんも死ぬ。サッちゃんが死んだら俺様も死ぬ。強い痛み、快感を共有するから……………………………………自家発電したらお互いにわかる、とかぐれーだ☆」

「嫌じゃボケェェェ――――――ッッ!!」


 をっと、思わず声を荒げてしまった、反省……する必要はない! 普通嫌だろ、そんなの!

 いや、でも待て。俺は嫌だが、コイツはそうでもないのか? コイツは身体は女で心は漢と言い張る倒錯者。女の子が性的に大好きだけどツイてない。そこを俺ので感覚だけでも代用とか……いや、それはいくらなんでもコイツを侮辱しすぎか? いくらなんでもそこまで……。


「もうねー、ぶっちゃけ『俺様のものはサッちゃんのもの。サッちゃんのものは俺様のもの』でよくね? 俺様単体で女の子と付き合うとか、世間体的にいろいろ無理だから、サッちゃんと俺様タッグ組んでいこーぜ! もう3○《ピー》なノリでイッちまおうぜ!」

「最低! お前、最低だよ! 世間体って言葉の意味辞書で調べろや!!」

「許嫁の前でする話じゃないことは確かですね。なんですか、その場合、私が二人のお嫁さんにされるんですかね? それとも私と縁ちゃんの二人がお嫁さんになるんですかね?」

「サッちゃんを女装させて、サッちゃんと水ちゃんが俺様の嫁な方向で!」

「「この大バカが……」」


 シンクロ溜息――なにか水色さんと深いところで通じ合えた感覚/同情と紙一重の共感。

 ……しかし、そんなキズの舐め合いをしている暇はないのデス。

 今こうしてバカ話できているのは少年漫画のように解説中は時が止まっているという訳ではない/事態は現在進行形――ただ単に、敵さんが集合しつつ、陣形とっている僅かな時間を無駄話で潰しているだけの事。ホント、ろくでもねー……。


「さあ、行こうぜサッちゃん! こっから先は俺様達の無双タイムだ!」


 俺の背中をグイグイ押すいい笑顔がなんか憎らしい。

 俺様達は、と言いつつ自分は必殺技とやらのタメの為に動かないトコも憎らしい。


 …………まあ、『嫌い』ってほどじゃないんだけどさ。


 下書きを修正するのに削りまくる今日此の頃。

 下書きだけなら25話まで書き進んでるのに、このていたらく…………それでも書きたい気持ちのままに書くのです。

 次回は「月下狂宴・結」! 原稿用紙で一ページ分削る修正を必要とする戦いの終わり…………(;一_一)

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