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第一章「入学」 第十六話「月下狂宴・承」

 ○SIDE:SCARLETT


 ●平成二十一年四月六日(月曜)午前三時一四分――【斉藤神社・裏山】


 ……女の子を『おんぶ』していると何故か安心する。

 それは、背中に感じる温もり、背負った重みが生きていることを実感させてくれるから?

 それとも、その身を預けてくれるという行為に、自分が必要とされていると錯覚できるからだろうか……? とりあえず背中にあたる胸の感触を味わいたいとか、お尻に手を回して撫で回したいとか言う邪な気持ちからではない事だけは確かだと思う。

 ……義妹様、胸ないし、肉付きイマイチだし。春サン男だし、おバカは脱いだら綺麗なんだけど、全体的に薄いスリムボディだし…………むしろ一回味わってみたい気がしてきたわ!

 …………まあ、こんな獣の群れ――否、バケモノの群れに襲われて、紙一重の生/死を感じまくる状況じゃなければだけどさッ!! どうしてこうなった、コンチクショー!?



「――そろそろどういう状況なのか説明プリーズ!」


 とりあえず木の上に飛び乗って大地を駆けるバケモノ達から距離を取る。

 天翔神速――オレが師匠から教わった空を駆る奥義で制空権確保――よし! 追いつかれるイメージが湧かない/逃げきれる――教えてくれた師匠にメッチャ感謝!

 って感じに、ちょっと余裕確保/今のうちに状況確認――尋ねる相手は背中に背負った見た目美幼女な先輩/心友の姉/許嫁/俺に始まりをくれた人――蒼井水色さん/白とピンクのフリフリ衣装が夜の山中に似つかわしくなくて違和感バリバリ。でも、本人はそんなの気にもしてなくて、その表情はこの状況を愉しんでるが如く、ちょいっと愉しげで……可愛らしい。


「説明しろと言われても……私が起きたらこの山の中、アナタの腕枕。だから寝てる隙に襲われて、あんな~コト、こんな~コト、されちゃったでしょ~♪ な事後を疑って、全てを無かった事にしようとアナタの首を絞めてたら、アナタじゃないアナタが起きて、続けてあの変なイキモノが襲ってきて、アナタが起きて、胸揉まれて、頬にキスしてあげて……この状況?」

「知らないうちに冤罪で殺されかけてた!?」


 驚愕の真実に吃驚仰天――したけど、今生きてるなら問題ナシ!

 そんなことより、首に手の痕残ってそうなのが大問題。自分じゃ見えなくて悩ましい……ってか、明日(今日?)は学校行かなきゃいけないのに困る! 『困るのソコなのん?』 だって首絞められた痕なんかあったら絶対教室で浮く。入学したばっかで腫れ物扱いとか、さすがに嫌過ぎるし……『あー、それは既に手遅……リテイク☆/たしかにそう言われるとなかなか面白可笑しそうなシチュエーションかもねん☆』 こ、この外道! テメェの血は何色――


「――うおっと! そうだ、邪妖精!! お前が状況説明しろよ」

「え? 妖精って……アナタ、そういうの視えちゃうお気の毒な人だったのですか………………………………………………ちょ、ちょっとだけ優しくしてあげますね。良い子良い子☆」


 そう言いながら頭ネデナデ。

 なんか本気で同情されてて、さすがに悔しい! が、なんかちょっと嬉しくて気持ちいい。

 ……まあ、妖精が視えるようになった可哀想な子ってのは事実だから、別に甘えてもいいのかも……いやいや! この状況で甘えてはイカン。遺憾だがイカンのですよ!


「えー、えっとですね、そうじゃなくてですね、誠に遺憾ながら、オレの頭ン中には自称妖精な邪悪人格が巣食って……『はーい。ただ今紹介に預かった不知火皐月の裏人格、不知火メイちゃんでーす。よろしくね、お姉様☆』……ちょ!?」

「……あ、あー! さっきまでのアナタが妖精さんなんですね。さすがにこの状況でそんな演技するとは思いたくないので、ひとまず全部信じておきましょう。嘘だったら殺しますので覚悟しといてくださいな。あと、アナタの……皐月くんの身体で女声はキモいです。うん。キモいからなんとかならないですか?」


 ん? さりげなくフルネーム・アナタ呼ばわりから名前呼びに変わってる/喋りかける相手を混同しないための措置だろうが地味に嬉しい。キモいと言われるのは地味にヘコムが!


『今はなんともならないのん☆ でも、自由に動ける外部端末を科学お爺ちゃんに制作依頼したから乞うご期待だよん!』

「ほう。手のひらサイズの可愛い妖精さんの姿になったら私が飼ってあげましょう。小さな首輪、足枷に鎖、あと虫カゴ用意しなきゃですね」

『おぉぅ。自由が速攻遠のいてく気がするんだよん……でもそれが水ちゃんの愛なんだね。アタシはその愛に応えるべきなのかなん? でもできれば虫カゴじゃなくて鳥カゴでお願――』

「――そんなことより状況説明ッ!」


 さすがに話が逸れすぎであろー?

 木の上まで追いかけてはこれない様だが、先程から『ドガドガ!』と木に体当りして落とそうとしてくる――アイツ等を振り切らないことには本格的な一息はつけないらしい。

 ……まあ、今のやり取り聞いてるととてもそんな状況に思えないけどさ!



『では、僭越ながら、このアタシ不知火メイちゃんがこの状況に至った流れを端的に説明してあげましょー☆ ――アナタが義妹様に薬を盛られ意識を失った後、いかにもその筋な黒服さん達がワラワラやってきてアナタを回収・移動。この山の中にポイッと産廃の如く捨てていったと思ったら、春ちゃんがやってきて、アナタを発見。驚いた顔で……背中に背負っていた水ちゃん(可愛く熟睡)を、アナタに腕枕させて、恋人同士とか事後に見えるような体勢を何パターンか試して、写真撮って、放置して去っていったのん☆』

「あの愚弟はなにをやってるのですか!?」

『悪気はないんだよん。春ちゃんは息を吸うぐらいの無意識で状況を自分にとって面白可笑しく演出しようとしちゃうだけなのん! ただ純粋に自分の愉悦の為にいろんなものバッサリ切り捨てちゃうだけなのん!! そう。春ちゃんにとっては全部、善意と好意の行動なのん!!』

「姉としてちょっと否定してあげたいけど、思い当たるトコが多すぎるのです……」

「いやいや。たしかに春サンはちょっと困難な状況を一歩引いた場所で楽しんでる節はあるけれど、ホントに困った時はさりげなく手を貸してくれる良い子だって」

「それは本当に助けているの? その手助けのせいで余計に苦労した覚えはないですか?」

「え? いや……えっと……そんなこと……ない、と思うけど……あれ?」


 改めて聴かれると不安になるのが人のサガ。

 だって、そんな事言われてから思い出そうとしたら、少なからず疑ってしまうだろう?/普段の何気ない言葉、仕草が作為的に思えてしまうだろう…………さ、さすがにこんなのはフェアじゃない! と、頭を振って、疑念を振り払う/とりあえず今現在は関係のない話として置いておく/多少強引にでも話を逸らすことにする! 考えるな。考えるな~……。


「――そ、そんなことよりどうすればこの状況を打開できるか考えよう!」

「このまま木を飛び移って街まで逃げればいいんじゃないですか?」

「いきなり一番いけそうな意見が出たッ!?」


 言われてみればその通り!

 なんで俺はアレを倒さなきゃいけないとか思い込んでいたのだろう? たしかにお師匠様の課した試練と思えば、俺としてはアレを倒す前提で話を進めなきゃいけない――が、それに水色さんは関係ない。この人を危険にさらしてまで挑まなきゃいけない試練とは思えない。今考えるべきは、いかにしてこの人を無事日常に帰還させるかだろう。それこそが最優先事項だ!


『……それやると、あのバケモノが人里におりてきちゃうんだけどん?』


 でもそんな俺の考えを俺自身が否定する。

 ソレはたしかに御尤もな意見――しかし、世の中には適材適所という言葉があるのである!


「そういう時のために警察――いや、『猟友会』がいるのさ! そう。歴戦の狩猟者さん達の団体・猟友会! 有害な鳥獣の始末とかするエキスパート集団! うん。バケモノもケモノ。大丈夫。彼等ならきっとヤッてくれる! 俺はそう信じるッ!!」

『おー、たしかに餅は餅屋だよねん。レッツ、丸投げ☆』


 最後の最後でとても心外なことを付け足しやがった邪妖精を無視りつつ、確かな確信を胸に拳を握り締め――決断/覚悟完了!

 目的は下山/進路は街――難しいことは考えず、細かいことは後回し/無理はせず、一番大事なことだけを実行する――……ああ、そうさ。俺がやるべきことは水色さんの安全確保!


「――さあ、いくぞ! 全速全開でブッチギリだ!」

『いくよ、いくよ! お師匠様の試練なんて全力全開でブッチするよん☆』

「最初に案出したの私ですけど、ホントにそれでいいのですか……?」


 水色さんの呆れ声も無知りつつ行動開始ジャンプ

 加速/加速/加速――バケモノ達の群れを引き離し、楽勝ムード!


「おお、速い速い! アハハ☆ いいです。いいですよー! このまま行けば楽勝で逃げきれそうですねー…………でーも残念☆ 物事がそんなに上手くいくハズないのです。縁ちゃん風に言うなら『こういうイベントがそんなに簡単に終わっていいハズがない!』ですねッ!!」

「なんでそんな不吉なフラグを立てるの、水色さん!?」


 その直後――まるで待ってましたと言わんがばかりにソレはやってきた。

 木々を飛び駆ける俺達を覆う巨大な影――トカゲに似た身体/嵐巻き起こす翼/俺の三倍近い巨体で空を翔ける存在/ファンタジーな物語に出てくる幻想種の象徴――ドラゴン!


「って、ラスボスがドラゴンとかシナリオが単調! 脚本家出てこい!!」

『普通に考えれば試練を課したお師匠様なんだけど、これはちょっとノリが違うかなん。ドラゴンを倒してお姫様を救う勇者様……そんな恥ずかしい乙女チック妄想垂れ流すのはあの義妹様かもよん?』

「……だな。お師匠様なら適当なチンピラに義妹様を襲わせるなり何なりして殺人童貞卒業させるくらいが妥当だろうな」

『普通の童貞は実の姉に奪われたけどねん☆』

「……おかげで一家離散したんだよ」


 姉は逃亡、行方知れず。母が精神的に病んでしまい田舎療養――両親揃って他県へ移住&商売開始、物理的に距離を取られた。俺から離れられない義妹様を別とするなら、俺の側には兄さんしか残ってくれなかった……だから俺は兄さんが大好き! 兄さんのためなら死ねる!


「えっと……それマヂですか? 正直ひくんですけど……」

「『しまった、聴かれた!?』」


 何たる迂闊! 家族の恥をよその人に聴かれてしまった。しかもご近所にバレたらお引越し考えなきゃいけない致命的な情報を! くっ、数秒前の自分を殴ってやりたい――でも今更後悔しても吐いた言葉を飲み込むことは出来ない。どうする、どうする、どうすればいい!?


 ※答え――そんな悩みを抱く暇はありませんでした☆


 スッカリ忘れてたが今は極めつけの非常時/日常生活では使わない単語『戦闘中』!

 ドラゴンが口を開いたと思ったら、そこから青白い輝きが溢れ出し――次の瞬間、俺達はその光に飲み込まれて吹き飛ばされちゃったのだから。

 設定では主人公の誕生日設定は5月5日……ってコトで、多少仕上げが甘い気はしますが、とりあえず投稿。

 今回は『ラブコメ・エロゲー主人公の家には基本両親がいない』設定の説明をブッこんでみました。地味に世間体を気にする理由としては重すぎるかな~、と思いつつとりあえず、このまま突っ走る!

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