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第一章「入学」 第十五話「とある老人の異世界転生」

 ○SIDE:BLUE


 ●平成二十一年四月六日(月曜)午前三時一二分――【松戸家・地下研究室】


 俗にいう草木も眠る丑三つ時。

 ボクは薄暗い地下室で、鑑賞会を強いられていたんだッ!


『――そこは天空に二重の月を掲げる世界。剣と魔法、神と悪魔、貴族と平民、戦争と平和、平和と革命……力と命がぶつかり絡みあい物語を織り成す大地・ガイアース』


 目の前には二つの映像――一つは中世ヨーロッパ風の剣と魔法のファンタジー世界/もう一つには、大きな荷物を抱えて発光するバケモノから逃げる心友の姿が映っている。


『少年はそんな世界の片隅で、神族、魔族、貴族の労働力としてしか生きる道を持たない最底辺の平民、それも親が誰とも知れない捨て子の孤児として生まれた――貴族を上回る魔力と限りない魔法の才を生まれ持って』


 ただでさえ走りにくい山道を、お荷物抱えて逃げるサッちゃん。

 そんな彼を四足歩行のバケモノが追いかけ、追いつき、その爪を振るう。


『少年はその魔法の才能を開花させ、ついでに男女問わず年上に可愛がられるという特性を自覚・活用し、平民という底辺から大脱出。それどころか出世街道まっしぐら☆』


 とっさに振り向き回転/斬撃回避+回し蹴り――紙一重の攻防/空に舞う血液と髪数本。

 バケモノは一瞬動きを止めるもダメージは無い様子。そもそも光る獣とか……どうみても真っ当な生き物じゃない。ちゃんとソコに存在しているのかすら怪しく思えるんだけど?

 そう。全ては画面の向こう側――ボクを騙す為に作られた特撮、CGの可能性だってある。


『王を救け、魔族を退け、神の干渉を防ぎ――少年は英雄と呼ばれた』


 あ、どうやらダメージが無いと思ったのは勘違い/早とちり――驚きの時間差発動/蹴った場所が突如『パンッ』と弾け、そこからバケモノの身体が大爆発!?

 その効果は蹴った本人にも意外だったのか、爆風を真正面から受けて吹き飛ぶ――とっさに肩に抱えてたお荷物を胸に抱き変え、木にぶつかって止まるまでコロコロ転がりまくった。


『英雄となった少年はやがて青年となり、王の勧めもあって王の末娘を妻に迎えることになった――が、落とし穴はそこにあった』


 頭を振りながら起き上がろうとするサッちゃん。

 直後、なにか違和感を感じたのか視線を下げ――その右手が『お荷物』のささやかな胸に触れている事に気づき愕然/もう恥ずかしいぐらい古典的なラッキースケベで恥ずかしい!


『青年には孤児であった彼を拾い、家族として迎え、育ててくれた平民の家族がいた。貧しくとも暖かな家庭。優しい父、母、そして自分を可愛がってくれる姉……だが、父母は魔族との戦いの最中、彼の弱点として狙われ、捕まり、彼の足枷にならないように自ら命を絶った。故に彼は残された姉を最愛の家族として大切に、大切にあつかったのだが……』


 おーっと、意外にも殴ってお茶を濁す展開にはならなかった様子。

 あんまりな状態にフリーズしたサッちゃんを、妖艶な表情でからかうお荷物さん――胸に触れた手に自らの手を重ねてロック。増々慌てるだろう、って考えての行為だと思うけどソレは逆効果。サッちゃんは誘われればヤっちゃうバカンである。残念ながら。


『青年は、姉が家族としてではなく、異性として彼を想っていたことに気づかないフリをしていた。姉がこっそり自分の服や布団の匂いに身を任せトリップしている姿を何度も見ていながら、見なかったことにしたりしていた』


 あー、案の定、サッちゃんが攻勢に出た/フリーだった左手をお荷物の腰に回して引き寄せる――右手もうまいこと折りたたみピッタリ密着。顔、超近い。


『自分が英雄などになったから、自分にとって大切な人達だったから父母は死んだ――だから彼は姉を壊れ物をあつかうように大切に、自分の手で触れる事のないようにあつかった。姉も英雄となった義弟にただの平民である自分は分不相応とその想いを押し込めた。だが、距離はとるものの互いに決定的に離れることはできず、共に居続けた』


 そんなサッちゃんにお荷物……あー、もう面倒くさい! そんなサッちゃんに『姉さん/蒼井水色』は、戸惑うこと無く対処――その頬に軽く『チュッ』と口付け/攻められる前に攻める/機先を制する攻撃的防御――カウンター食らって見事にうろたえるサッちゃん。

 …………なんだろう。バケモノに襲われるって、ありえない非日常なのに、なんでラブコメれるのかな、この二人? 相手しか見えてないの? まさかこれが俗にいう恋愛脳ってやつ?


『そんな二人の関係をお姫様と結婚話が動かす――姉は自らの心を欺き、栄光の階段を登り続ける彼を祝福、後押しし、彼も姉の祝福に心を決め、姫を娶り……そして、悲劇は起こった』


 でもザンネーン。状況は二人がチュッチュし続けることを許さない! さっき爆発したのと同じ光るバ獣が二匹目、三匹目、四匹……と、数えるのが面倒になるほどワラワラ登場!?

 サッちゃんも姉さんもさすがにビックリした表情で――サッと立ち上がり、合体!/流れるような動作でサッちゃんの背中に飛び乗る姉さん/おんぶ完了/準備完了――飛びかかる獣の群れ/二人は間髪入れず例の技/天翔神速(だっけ?)で跳躍ひしょう――全力離脱。

 ……どうやらバケモノは飛べない様子。制空権がサッちゃんにあるなら逃げるの簡単かな?


『全国民に祝福された結婚式を経て、青年と姫は夫婦となり、夫婦となった以上はそういうことをするワケなのだが……姉は結婚は許せても、実際にそういう事するのは許せなかったらしい。初夜を迎え肌を重ねる二人。その三回戦始まった頃、そっと背後に忍び寄り――青年の背をズブリとヤッちゃって、ついでに自分の首をバッサリ♪ というお姫様にとっての最悪惨劇ENDでその青年の人生という物語は幕を閉じたのでした。メデタシ、メデタシ』

「メデタくないよ! 最悪だよ! 死ぬなら第三者のいないトコで死になよ!!」

「おー、ようやく反応してくれたのじゃ。さっきから姉と心友のイチャコラをガン見して、こっちの話なんか聞いてないかと思ってたのじゃが、そんなことはなかったのじゃね?」

「……ウン。ソンナコトナイヨ?」

「恐ろしいほど心のこもってない返事なのじゃよ!?」

「ウンウン。ソンナコトナイヨ?」


 くー、せっかく全力全開で無視してたのに、あんまりなバッドエンドに思わずツッコんじゃったよ――ボクもまだまだ修行が足りない/反省しつつ、再び画面に集中!

 木々を跳び移るという、なんだか忍者みたいな感じで逃げるサッちゃん。

 律儀に追ってくカメラ――常にベストアングルに切り替わる画面。どういう仕組み!?

 と、気になってチラッとディスプレイの接続先/発信元を確認――すると、パソコンにおバカの持ってた『LOVE☆Phone』とかいうバッタモンスマホが繋がってて、改めて確認するとサッちゃん達が映ってる画面の片隅に『LOVE☆Tunes』という怪しいアプリ名が見えるような気がする。が、そこは全力スルーさせていただく。ボクは何も見ていないッ!


「ちなみに、今話したのはワシこと驚異の天災魔法科学者『松戸科学』の前世の話なのじゃ」


 なんか、子供が言ったら中二病確定な事を、この齢で言ったらボケ確定な老人が喚いてた。

 御老人――禿げ上がった頭+側面から角のように伸びる白髪/御老公様並みの立派なお髭/シワだらけの顔には不敵に素敵な笑み/腰は真っ直ぐ、でも低身長/老いで痩せ細った身体に白衣を纏った古き良き科学者風のコスプレ……をしているのではなく、実際に特許なども持っている本物の科学者だったりする陽気で楽しい街の名物ハカセ。

 ……うん。陽気で楽しい街の名物ハカセだと思っていたのに、こんな人だった。

 おかげで人間知りすぎると碌な事にならないって実感中だよ。何も知らなかったさっきまでの自分に戻りたい。でも、今は嫌でも知らなくちゃいけないんだよね……マヂ哀しいけどッ!!


「……えー、つまり科学さんは自称・異世界転生者って言いたいのかな?」

「自称は余計じゃ。とは言え、実際は赤ん坊の頃から前世の記憶があったのではなく、とある出来事がキッカケで思い出したんじゃがな…………聴きたい? 聴きたいじゃろ! ここまで言われたら気になるものな! 実はじゃな、ワシが前世に目覚めたのは大学卒業して――」

「いや、別に聞きたくないんだよ。それよりサッちゃんの方が気にな――」

「妻と結婚して初夜を迎えた日――三回戦に挑んだ時、ビビッと全てを思い出したのじゃ☆」

「ホントのホントに聞きたくなかったんだよッ! もう、もう、もぉーッッ!!」

「ちなみに現世妻は、思いだした記憶にあった前世姉に瓜二つじゃった。髪や瞳の色は違ったがそれ以外の見た目も声も仕草も性格も、違うところを探すほうが難しいほどそっくり……さあ、想像してみるのじゃ。自分を殺した相手が自分と繋がっていた時の衝撃をッ!」

「微塵も考えたくないんだよ!!」

「驚きすぎて呆然として、気がついたらワシは……もうちょっと生活安定してからと思っていた子供がウッカリ出来ちゃうような事をワシはーッッッ!!」

「とりあえず黙ってプリーズ。それとも物理的に黙らせようか、フリーズ?」


 もうやだこの御老人! でも、おバカと比べればまだ許容範囲内/下には下がいる/見限るにはまだ早い………………うん。まだ利用価値はある。我慢だ、ボク!


「おおう。春サンってばニコニコ笑いながら人を殺しそうな綺麗過ぎる笑顔浮かべてて恐いのじゃよ。反省するのじゃ。話を戻すのじゃ。だからその笑顔はヤメて欲しいのじゃ! そんな顔で見ないで欲しいのじゃよーん!」

「……で、前世の記憶思い出したからどうなったんだよ?」

「う、うむ……それまでのワシは、この名前のせいか実験や発明が大好きで、自他ともに認められるような偉大でマッドな『科学者』目指して勉強してたのじゃよ。そこに思い出した前世の魔法知識加えて、ついでにこの世界独自の魔法理論とかも加えて新たな魔法体系――『混沌系』を作り出し、チートなマジックアイテム作成者となってやりたい放題し放題♪ みんなの知らないトコで世界の在り方を変えまくり! しちゃったのじゃよ☆」

「…………ナニシテクレテンダヨ?」


 なんということでしょう! 気がついたら世界が手遅れでした……。


「……あー、もう! そこら辺はあんまり関わりたくないからもういいよ! そんな事より、サッちゃん達が何喋ってるか解るようにしてよ!! そのバッタモンで盗聴できるんだよね?」

「残念。LOVE☆Phoneの機能は盗撮・盗聴どっちかしか出来ない設定になっておるのじゃよん♪ 両方やったらプライバシーの侵害じゃからね」

「片方でも十分侵害してるよ!」

「でも二台使えば両方できるという抜け道があるのじゃよねん。ウヒヒヒ☆」

「をい、製作者……」


 完全無欠の確信犯……でも、ボクの目的を果たす為に今は放置しよう。今は!

 そう。警察に突き出すのは後でもできる。とりあえずポイ捨てするのは利用出来るだけ利用してからで……と、暗い考えに没頭することで殺意を抑えこむボク/そんなボクから全力で目を背け、テキパキ作業開始する科学お爺さん/流れるような手つきで機器を接続/マウスでポチポチ/残像が見えるほどの高速タイピングでなんかプログラムを組んでいく……こういうトコだけ見てると凄い人に見えるんだよね。そこが余計に残念なんだよ!



 そして数秒後、狭い室内に響き渡る心の叫び――


『――そろそろどういう状況なのか誰か説明プリーズ!』


 ……うん。頑張れサッちゃん。ボクも頑張るよ! でも世の中には知らない方が良い事もあるんだよ!! と、矛盾する決意を胸に、ボクは再び黒幕(?)に向き直ったのでありました。


 そう言えば設定では4月4日は春サンの誕生日だったな~、とか思いつつ、15話書いてもまだ一章終わってないことに心が折れそう…………とは言っても予定では20話で一章終わる予定なんですがね。さあ、頑張って書くぞー!

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