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第一章「入学」 第十四話「月下狂宴・起」

 ○SIDE:SCARLETT


 ●平成二十一年四月五日(日曜)午後七時三十五分――【不知火家・キッチン】


 炊き立てのほかほか白いご飯。

 その隣にはご飯の心友・たくあん。千切りキャベツ&サニーレタスにドレッシングかけただけのサラダ。さらに岐阜にいる父母が送ってくれた朴葉味噌。汁物は手抜きでごめんインスタントなお吸い物――作ってなんだが岐阜の観光施設にあるレストランとかでよくみかける朴葉味噌定食って感じに仕上がった。これだけあれば俺はご飯が三杯は食える! 味噌は美味すぎる調味料!! だがしかーし、俺はここで満足したりしない! 妥協しない!! さらなる高みを目指す――さあ、極めつけの一品を食らうがいいッ!!


「お待たせ! 今日の晩ご飯はカツオのタ――「このヘタレキングっ!」――ダキュイッ!?」


 叩かれた。

 とは言え、虚弱な義妹様の平手打ち――ゼンゼン痛くない。むしろ『ぺち』って感じのヘナチョコさが涙を誘う。稲妻のようなパンチだった過去はないけど泣いちゃいそうだ……うぅ。


「この優柔不断! ワケ解りません! 茜は昨日、『焼き魚』が食べたいと言ったのに、どうしてこうなるんですか!? しかも最初から焼いてあるのじゃなくて、あえてナマ買ってきて、わざわざ焼くとか! そのこだわりがイラつくのです! たまには…………たまには『さすがお兄様』と言わせてください、このヘタレ菌!!」

「キングから菌類に落とされた!?」


 ここであえて弁明するならば『岐阜の名物朴葉味噌は朴葉という葉っぱの上に味噌広げて焼くおかずで、無駄なこだわり純情派な俺は炭火焼きで作ったんで、あくまで、あくまでそのついでで焼いただけなんだぜ☆』とか言ってやりたい。言っちゃいたいのだが……。


「…………いや、ごめん。謝って許されることじゃないが、先ほどのお詫びをこめてデザートにプリンケーキともう一つ用意した。ホント、ごめん」

「さすがお兄様! 愛してます!! さっきの続きしてもいいですよ☆」

「お前はホントにそれでいいのかよ!?」


 いくらなんでもチョロすぎん!?

 あんな事があったというのに、この反応は異常過ぎるのでは……『本当に残念な事だけど、アレは結局ほのぼのレ○プじゃなくて和姦だったんだから別におかしくないんだよね。むしろ最後までしなかった方が大・問・題ん☆ あそこまで言わせて生殺しにするなんてマヂ外道。そう考えるとこの娘を苦しめたいっていう私の目的は一応達成なのかなん? ミッションコンプリートん?』――ああ、聞こえなーい、聞こえな――『じゃ、次のミッションは、身体は美女、心はいやんバっカンな縁ちゃんを快楽堕ちさせて雌豚性奴隷かわいいおんなのこに……』――頼むから黙れよコンチクショー!

 しかし、当たり前ながら願ったくらいでこの厄介な幻聴ざつおんが消えることはなく……とりあえず無我の境地な心構えで黙々とご飯を食べました。自画自賛になるけど美味しかったです。モグモグ、オイチー、オイチー☆


 ちなみに、カツオのタタキは義妹様が『ご飯をおかわりする』という数年に一度の超レアイベントを発生させるぐらい大好評でありました。

 ……俺は何故叩かれたのか、少し納得できませぬ。



 ●平成二十一年四月五日(日曜)午後八時二十三分――【不知火家・居間】


「あん、お兄様のこゆいの美味しいのですよ☆」


 と、義妹様はおっしゃった。

 状況ときはまさに風呂あがり――晩飯を終え、風呂にも入って、暖か気分でちょっと一息な夜のスイーツタイム。就寝前に食べると太るって言われてるけど、義妹様は『茜は食べても太らない体質だから別にいいのです』とか人類の半分以上(女性&心は女性)を敵に回すような事言えちゃう娘なので大丈夫問題ない。……フッ。ならば思う存分喰らうがいい!

 ……でも俺の膝を敷物代わりにするのは勘弁して欲しい。膝上に感じる、風呂あがりでちょっと火照った暖かな重み/洗いたての髪の香り/湿った髪の艶かしさ…………揺れるな俺! これは義妹! こいつは家族! 思い出すなさっきの出来事ッ! 思い出せ世間体ッッ!!


「あー、美味しいと言ってくれるのは嬉しいが……エロマンガみたいな言葉使うな! 濃厚といえ、濃厚と。あと舌を突き出してフォークをレロレロするな、はしたない!」

「あん☆ 茜はくどいくらいこゆいレアチーズは大好きなのですよ」

「あー、喜んでくれるのは嬉しいが……間違ってる! 間違ってるぞ、義妹様! ソレはレアチーズケーキではなく、水分抜いたヨーグルト――通称・水切りヨーグルトを使ったヨーグルトケーキだ! 見た目は似てるが、材料費的には格段にお手頃で懐に優しい一品なのだよ!」

「……ドヤ顔なところ申し訳ありませんが、偽物が本物に迫るならそれはそれで良い事なのです。茜は美味しければ細かい事は気にしないのです。ぶっちゃけ、制作者のこだわりなんて消費者からみたら別にどうでもいい事ですし……水を抜くのは良いのですが水を差すのはいただけないのですよ、お・に・い・サ・マ☆」

「調子に乗ってごめんなさいでしたー!」


 素直に頭を下げて――体勢的に頭だけ下げてな謝罪。

 確かに『こだわり』は押しつけるものではなく、察して貰うもの。美味しいと言ってくれるならそれで良い。それ以上は必要ない……そもそも、ヨーグルトは牛乳をホームベーカリーで発酵/量産したのでさらにお安い感じだったり、プリンケーキの方も牛乳と卵、砂糖、小麦粉あればできるので原価は一ホール二百円ぐらいで、生クリームなんてお高いものは一滴たりとも使っていなかったりするのだ。そう、このケーキの材料費は二個で合計四百円弱。それでさっきのアレを許してもらおうとか……いっそのこと責めて蔑んでくれよ、コンチクショー!


 ……なーんてのは身勝手過ぎる考えなんだよな。


 罪悪感を消すために相手に憎むことを強要するなんて最低だと思う――そう。この娘が責めないなら、求めるなら、どんなに居心地が悪くても黙って側に居る事こそが贖罪ではなかろーか? とか言うのも勝手な考えかもしれないので、とりあえずあるがままに受け入れとく。


「……お兄様。真面目な表情で茜の髪の匂いをクンカクンカしているのですね……それでこそ一回踏み越えると二回目のハードルが低くなる民族・日本人。良い傾向です」

三四さんしがなくて誤解すぎるッッ!」


 解説! 膝上に義妹様が居る→頭を下げて謝罪→後頭部接近=傍目から見ればそう見える状況であり、実際に良い香り……それでも俺は否定する! 否定するしかないからッ!!



「――ごちそうさまでした」


 手と手を合わせて感謝の言葉。

 スイーツタイム終了のお知らせ――義妹様の本日の戦果はプリンケーキとヨーグルトケーキを二切れずつ。

 ……うん。この娘の食が細いのは身体が弱いどうこうじゃなくて単なる好き嫌いな気がしてきた。でも味の濃いものとかはすぐ吐いちゃうし、普段は一日ご飯一杯食べれればお腹いっぱい/食べ過ぎ/吐くのコンボかます娘だからな……『美味しいモノは別腹でしょん?』――って甘いモノじゃなくて美味しいモノはなのか!? じゃあ、吐かれる=不味いって事? 地味にショックな事実発覚だぞ……っていうかその別腹って考え方は嫌なんだよ、オレは! 人間の胃袋は一つだろーが!! ――『別腹とは乙女が標準装備しているシステム外スキルなのであーるん☆』――スキルだったのか、別腹ッ!? 思い込みで肉体強化する系か!?

 と、極力平静を装いつつ脳内妖精とやりとりするオレ/隠し切れない表情の変化等、我ながら不審な自覚アリ☆ に、義妹様は訝しげな視線を送りつつ……突然『ポン』と柏手をうつ。


「あー、そーいえば、あーんな事があったのでスッカリサッパリ忘れてましたが、お爺さまから伝言です――『よー皐月。いや、バカ弟子。元気か? 唐突だが漢の生き様は常在戦場、てことでサプライズで修行の総まとめをやろうと思う。覚悟しとけ』だそうです」


「サプライズなのに予告してどうする師匠!? …………まあ、いいや。それより場所と時間は言ってなかったのか?」

「お兄様にはまず常在戦場の意味を調べることをオススメするのです――で、最後に『ちなみに、この伝言、聞いたら爆発するんでヨロシク』とのことです」

「……爆発すんの、義妹様?」

「はい。お兄様に、仕込んだ、仕掛けが、大爆発です☆」


 直後、俺の身体から自由が奪われた。

 膝から崩れ堕ちる身体/指一本動かない麻痺状態…………もしかしなくてもしびれ薬を盛られた? いつ!? どこで!? って俺の思考/意思とは無関係に身体がビクンビクン♪ メッチャ跳ねてメッチャ怖い/メッチャヤバイ/なんか意識も、薄れ……『あー、こりゃダメねん。身体が麻痺っちゃてるから人格交代しても意味ないよん』――この役立た、ず――『うん? 昔、好奇心旺盛なおバカな心友に同じような薬盛られたあげくヤられちゃったのに、同じ過ち繰り返す愚か者がそーゆーこと言っちゃうのん? ふーん、ふーん……じゃあ、アナタが縁ちゃんとそういう関係だって睦月兄さんに教えちゃおうかなん? でも光姉さんも捨てがたいよねん。せっかく親同士が相談して無かったことにしてくれたのにねん☆』――マヂごめんなさい! 自分調子に乗ってました!! だから姉さんにだけは言わな……――


 ※【常在戦場】――常に戦場にいる心構えで事に当たれ、という意味らしいデス。



 ●平成二十一年四月五日(日曜)午後十一時九分――【斉藤神社・裏山】


 空の月が視界の端に映る。

 緑の匂いを乗せた風が肌を撫でる。

 流れる汗と血が、痛む身体が、激しく脈打つ心臓の鼓動が生きていることを実感させる。

 ……でも理性がそれを拒絶する/目の前に存在するソレが常識と現実を拒絶させる/常識と現実を拒絶して、頭の中に居座る非常識と幻想に尋ねさせる。


「……アレは、なんだ?」

『――アレが星の獣だよん』


 ソレは俺と同じぐらいの体躯を持つ四足歩行の獣。

 獅子と虎を掛け合わせたような姿を持つ……ほんのり白く発光するバケモノだった。

 なんか三ヶ月ぶりの投稿となりました。

 今回で起承転結の転になるのですが、書いてみたら思った以上に駆け足な引きになってしまって反省。義妹様とのかけあいは油断すると膨らんでしまうのでした。反省。

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