第一章「入学」 第十三話「脳内妖精メイちゃん爆誕!」
○SIDE:SCARLETT
●平成二十一年四月五日(日曜)午後四時〇九分――【???】
――「……んぁ……ん……だ、大丈夫ですよお兄様。茜はお兄様のこと……大好き、ですから。愛してますから……だから、なにをされても……ぁんっ……」
そこは真っ白な空間だった。
六畳一間ぐらいの部屋――床、壁、天井、全て真っ白な窓も扉もない密室。
そんな気が狂いそうな部屋の中にぽつんと卓袱台が一つ.
そして、その卓袱台の上に仁王立ちする小さな人影が一つ――全長十五センチの凹凸無しスリムボディ/どことなく兄、睦月に似た美しい顔立ち/金色の瞳/ふてぶてしい目つき/色素薄目天然茶髪/髪型はあざといツインテール/服は白一色――一枚の布をまいて、りぼんでゴテゴテ装飾した神話系ファンタジー衣装/背中の蝶の羽が妖精アピール…………総括、人外。
「……あー、これ夢だ」
「夢を夢と自覚する。それは明晰夢への第一歩――でも残念なんだよねん。これは夢だけど夢じゃない、いわゆる一つの精神世界。そして、初めましてだよん、もう一人の私。私はアナタの脳が生み出したもう一人のアナタ……アナタだけに視えるプリチーフェアリー。人呼んで脳内妖精メイちゃんだよん!」
「……どうやら俺はもう決定的にダメらしい」
「どういう意味だよん!?」
「視えちゃいけないものが視えてるからだよ!」
妖精が視えるようになったら社会的に瀕死であろー……どうやら今日一日で脳にダメージ負い過ぎたみたいデス。もしかした現実の俺は二度と目覚めない眠りについてる? それとも廃人? どっちも家族に迷惑かけそうで嫌だな……。
「もう! 我ながら失礼な人だよん。私は、今日一日で頭にダメージ負いすぎたり、心停止したり、電撃受けたり、魔力入りの唾液を流し込まれたり、許容量を超える心的ダメージ受けつつもそれを快楽に変える覚醒を果たした結果、なんか体の中のナノマシンがちょっといい塩梅に暴走気味な自己進化して奇跡的に生まれちゃった緊急時のバックアップなスペア人格! アナタの今後の人生に深刻な影響を及ぼす存在だけど、健康上のサポートは任しとけな安心安全プリチーフェアリーだから安心していいんだよん!!」
「安心できねーよ! 人生に深刻な影響及ぼしたらダメだろーが!!」
「そー言わても、そもそも私って人格はアナタの抑圧された影――春ちゃんを男なのに可愛いと思っちゃってるアナタであり、縁ちゃんを女の子として意識しているアナタであり、私達の全てを狂わせた『あの娘』を無茶苦茶の滅茶苦茶にしたいと思っているア・ナ・タ☆ そーんな人格がアナタの人生をカラフルに彩れると思うのん?」
「………………うん。思わない」
うん。そんな人格が表に出てきたら身の破滅まっしぐらであろー。
現代社会は本音だけで生きられるほど優しくない――適度な嘘/協調/自分を殺して相手に合わせる心こそが人間関係の潤滑油なのだ…………まあ、絶対に譲れないモノはあるけど。
「あ、ついでだから先に言っとくけど――『なんで俺の別人格が女の子?』な質問の答えは陰陽思想的なアレだよ、アレ。白と黒の曲玉がくっついたような絵のアレ。太極図だっけ? 黒と白、陰と陽、男と女、善と悪。善の中にも小さな悪が、悪の中にも小さな善が的なアレ☆」
「……つまり男の俺の中にある女性的な部分がお前ってこと?」
「ザッツライトん☆」
いろいろ納得いかないが、なんとなく理解できてしまうのは元々が一人の人間――元ネタが俺の脳内にある知識だからであろーか? 納得はいかないが!
そしてその理解は和解を遠ざけるだけの情報――どう考えてもコイツは獅子身中の虫! いや、なんか巧い表現な気がするので口には出さない。コイツがオレなら『巧い事言った気?』って嘲笑うだろうから。でも、結局そんなオレの態度をみて嘲笑うんだろうな……と思ってたら、案の定目の前のアヤカシは嘲笑いながら言う。
「つ・ま・り、アナタが善人なら私は悪! 妖精という字は『幼い性』ではなく『妖しい精』と書く! っていうか妖精を『幼い性』って書いちゃう人は絶対ロリコンだよねー……と・に・か・く、私は悪い妖精さんなので悪いことをするんだよー。イタズラサイコー☆」
手を口に当ててのニンマリ笑顔――オレが絶対にしない表情/嫌な予感しかしねー。
「そう。昔の人は言いました――好きの反対は無関心。嫌よ嫌よも好きのうち。愛するが故に憎み、憎むが故に愛す。愛とはそんな複雑怪奇なもの……では、ここでクエスチョン☆」
天才クイズだどんとこい~ってノリで○と×の描かれた赤と白の帽子をどこからか取り出して、ソイツは嘲笑いながら問いかけてくる。
「私はアナタが意識を失ったとき、アナタのカラダを自由に動かすことができるんだよねー。そして現在、アナタは絶賛気絶中」
――「お兄様……嘘でも、いいですから……茜のこと、好きだって言っ……んあっ!?」
「さて――いまアナタのカラダは『ナニ』をしてぇー、いぃー、るぅぅー?」
「○×で答えられねーじゃんッ!?」
巧い事言ってるつもりな笑顔が殺したいぐらい憎らしい!
なので自分自身を殺すつもりで殴ってやりました――自分の頬を! 気絶状態で気絶することが目覚めに繋がるんじゃないか? って打算的なこと考えつつ…………………………――。
「――ちっ」
遠くなる意識が最後に拾ったのは妖精の悔しそうな舌打ち。このアヤカシが悔しそうな表情しているのがとても嬉しかったので、普段しないような満面の笑みを浮かべて罵ってやる。
――……ザマーミロ☆
●平成二十一年四月五日(日曜)午後四時一〇分――【不知火家・玄関】
人を呪わば穴二つ――『相手を呪い殺すとその返しで自分も死ぬんで墓穴は二つ必要! つまりこっちも死ぬ気でやれば相打ちぐらいはできるという前向きな言葉サ☆』――と、半分間違った事を言ってたおバカを思い出す。ぶっちゃけそういう前向きさは嫌いじゃない。むしろ好きだ。見習いたい。でも俺は思うのだけど――
「……お兄様?」
「…………」
人を呪うなら穴二つじゃ足りない。世界は二人だけの問題で解決するほど簡単ではなく、そのゴタゴタに巻き込まれる被害者は絶対にいる。家族とか、警察とか、そんな感じのが……。
「あの……その……できれば一思いに……」
「………………」
――『さあ、この娘もこう言ってることだし、ヤっちゃえ、ヤっちゃえー☆』
俺と脳内妖精の争いにこの娘が巻き込まれたように!
はい、現実逃避終了――現実を見よう、現実を!/悪夢よりひどい現実を視て世の無情を噛み締めよう――と、目覚めた俺が視たモノは俺の下で喘ぐ義妹様/半裸……否、ほぼ生まれたままの姿/涙の跡と引き裂かれボロボロになった服がここに至った経緯を大主張……。
――『う~ん。ショーツが黒なのはともかく、ブラを始めからしてないのはダメダメだよねん? 例え胸がなくても、つけているという事実こそが大事だと私は思うんだよ☆』
――だまれ邪妖精ッ!
「……や、やっぱり……ゴム、使いますか? こんな事もあろうかと、こっそりお兄様のお財布の中に入れときましたけど…………私は、その、いいんですよ? いえ、別に二十歳まで生きられないって聞いた時からちょっと自暴自棄になってたということもなく、それでいていつかお兄様の心に絶対に消えない傷を残すような事して死にたいとか考えていましたが、赤ちゃん産んで死ぬっていうのも王道ですよねー、と憧れてて、でもそんなチャンスこないだろうなー、お兄様ってヘタレだしなー、って絶望してたんですがついにキタコレなタナボタラッキーで、漢なら獣欲の赴くままググッと一発必中ヤっちゃってくださいと思うわけでして……お兄様は失恋のショックを刹那的快楽で忘れることができ、私は望みを一つ、あわよくば二つ叶えられるというウィンウィンな肉体関係で……でも、できれば死んで生まれ変わっても忘れないぐらい痛く、乱暴に、メチャクチャにしちゃってくれると嬉しいかなー、とか思ったりしないワケでもなく……えっと……愛してます、お兄様!」
「……………………」
潤んだ瞳を向けられつつテンパる妹に何と応えればいいか解らない/何を言われてるのかは理解できるがしたくない……って言うか、もうぶっちゃけどうしようもない気もする。空気読むならこのまま流される方に一票。でもなけなしの理性が選ぶのは謝罪一択……うん。どう謝ればいいか解らない/だから無言/沈黙/静寂/気まずい空気……。
結果、ただ何も言わず離れることを選択し『土下座』という態度で気持ちを示す。
その行為が招くのはさらなる沈黙。そして――
『「……ヘタレ」』
はい! 返す言葉もございません!!
――でもテメーだけには言われたくないんだよ邪妖精ッッ!!
……あー、それにしてもヤバかったー。義妹様の身体が未成熟だったが故に準備に手間取ってたのが勝利の鍵――『快楽堕ち狙ったのが敗因だったんだよ。人の尊厳徹底的に奪っちゃおうと欲張ったのがいけなかったんだね。失敗、失敗☆』――……うん。死のう。こんな邪妖精と一緒に生きてける気がしねーわ――
「――荒縄ねーかな、荒縄……って農家でもねー家に荒縄はねーか?」
「ほえ? お兄様、荒縄欲しいなら茜が持ってますよ。使いますか?」
「いやいや、何で持ってんの?」
「衝動的に死にたくなった時用にお小遣いで買ったのです☆」
「…………うぉう」
「でもお兄様、茜的には縛られるのはバッチコイですけど、縛るのは勘弁してくださいね☆」
「うん。どっちも勘弁してください」
結論、とりあえず一生懸命生きようと思いました。
じゃあ、とりあえず晩飯の準備でもしよう。生きることは食うこと。難しいことは食ってから考えよう。さて、メニューは…………そうだな。魚でも焼いてみよーかね?
皐月を英語でメイ。
と、単純に命名したのはいいけれど、書き上げた後で「トトロ!」と思い出し大後悔。それでも他にいい名前が浮かばず……そのままいくコトとなりました(;一_一)
更に言うなら書き上げたのはクリスマスだったのだけど、内容的にその日に投稿するのがやるせなかったので今日まで修正を繰り返してたという……とりあえず、次回は起承転結で言うと転になる予定。頑張って書く!