第一章「入学」 第十一話「ファースト☆ラブ物語」
○SIDE:BLUE
●平成二十一年四月五日(日曜)午前八時四五分――【赤月市・国道】
ソレは例えるなら黒い稲妻。
愛用の黒ママチャリ『ブラック・ライトニング』を駆る不知火皐月――サッちゃんは激しいダンシングで上体をジグザグさせながら風を貫くように真っ直ぐ激走する。
もちろん濡れた服は着替え済み――その姿は赤月市という辺境に舞い降りた黒騎士/上着からブーツまで真っ黒なオサレ感たっぷりの厨二仕様…………ぶっちゃけ似合ってないね。普段着とのギャップがありすぎて違和感全開。でも客観的な目で見るなら、中の上ぐらい? ボクの好みじゃないけど、さっきよりマシな服装になってることだけは否定出来ないや……。
「――あ! あの服、俺様が茜ちゃんにあげたやつじゃねーか……くっ、茜ちゃんが『縁くん大好きです』クンカクンカって大妄想するオカズにして欲しかったのに残念無念過ぎるッ!」
「キミの、大妄想が、残念、無念、すぎる、ん、だよッ、この、おバカッッ!!」
軽口を叩きながらもペダルを踏む力は緩めない。
少しでも力を緩めれば引き離される確信がある。否、全力で踏んでも既に離されつつある。
――……さすが東の蛮族。中学三年間の自転車通学は伊達じゃなさすぎる!
自転車通学が始まった中学時代、両親不在のため朝の炊事、洗濯、自分の準備をしなきゃいけなかった彼はいつもギリギリの時間に出発して、約八キロの距離を始終全力スプリントしていたらしい。三年生時の自己ベストは十五分。山あり谷ありな通学路をママチャリで原付並みの時速三十キロオーバーとか……冗談かと思われそうだけど大マヂ。どこぞの豆腐屋さんではないが、雨の日も風の日も毎日毎日全速で最速目指してペダルを踏んでいるとソレが出来きるようになっちゃうみたい。サッちゃん以外にも『ギリギリまで朝アニメみたいから!』という理由でソレを実現した同級生が二、三人いたから間違いない。まさに継続は力なり!
「……あー、でも、よくよく考えると、行き先解ってるんだから、別に離されてもよくね?」
「おバカのくせにそこに気付くとは!」
言われてみればそのとーりだよ!
多少離されても現地到着してからの「待った?」「いま来たトコ」「どこ行く?」ってお約束のやりとりしてる間に追いつけるハズ……と思った瞬間/切れた緊張/緩むペダル/一気に遠のく背中…………いや、大丈夫。始終見張ってなくても事件なんかそう起こらな――
――い、とか思ってたら市街地直前の道端でサッちゃんが女辻斬りに襲われてた。
「ワケが解らないんだよッッ!」
「フッ。バカだな春サン。こういう時は『考えるな、感じろ!』の精神でいくんだぜ!」
それはただの思考停止だよ!
でも反省――なにが『事件なんか起こらない』だよ。さっき魔法少女自殺未遂に遭遇したばかりだよ! 見張ってても事件が起こるのに、見てないとこで事件が起こらないはず無いよ!!
後悔しつつも、とりあえず状況確認――地面には真っ二つに大破した『ブラックライトニング』/女辻斬りの手にはギラギラ輝く日本刀……つまり刀で自転車(ホームセンターで購入したお安いスチール製)をぶった斬ったというコトらしい。地味に凄くない?
で、肝心のサッちゃんは、直前に飛び降りでもして事なきを得たようで――女辻斬り/暁高校制服着た女生徒と対峙/刀の間合い一歩外の距離で睨み合い中という状況でありました。
「……ふむ。この勝負、次の一撃でケリがつくだろう」
「キミ、それ根拠無く言ってるよね? なんとなく意味ありげなこと言ってるだけだよね?」
でもボクもそう思う。っていうか刀相手に持久戦とか想像できないし……。
そんなボク達の想像を肯定するように、数分の対峙の後――同時に動き出す二人/一瞬の交差/一撃の攻防……結果はサッちゃん無傷で大勝利という決着となりましたとさ。
ちなみに辻斬り少女は外傷なしで気絶。その直後に嘘臭いぐらいタイミング良く現れた謎の中学生男子が引き取って行ったんだけど……もう深く考えるの面倒くさいから深く考えない!
ソレより考えるべきなのは『辻斬りを退治しても壊れた自転車は直らない』ってコトだよ!!
この時点で八時五〇分。近くにバス停も駅もない。もう遅刻確定……――でも、それでもサッちゃんは走りだした。自前の足で目的地目掛けて駈け出した。
たぶん残り距離は十キロ弱。そしてサッちゃんの長距離走はキロ四分ぐらい。本気出せばそれより少々早くは走れるだろうがやはり絶望的。それでも走って、走って……駅近くにきた時には九時二五分。約三〇分オーバー……こ、これなら事情を話して謝ればもしかしたら――
――とか思ったら怪しい黒服集団が女の子を誘拐しようとしているトコにバッタリ遭遇!?
サッちゃんは呪われてるのだろ―か?
いや、そういえばさっき見たアビリティのトコに『奇跡の女難』とか書いてあったね。辻斬りも女の子だったし、誘拐されそうになってるのも女の子だから……そーいうことなんだね。ボクの中であのアプリの信用度が鰻登りだよ、コンチクショー!
まあ、そんな場面に遭遇したボクのヒーローが取る手段は一つ――女の子/中学生?/高そうな私服、誘拐されそうになってることからお嬢様と推定――を捕まえていた黒服の一人に触れたかと思ったら、相手の上下がクルリと反転……って、『天(転)地』!? なんで我が家に伝わる奥義使えちゃうの!? もしかしてこれが【器用貧乏】アビリティの恩恵!?
そんなボクの疑問を置き去りに事態は転がり続ける。
女の子を確保したサッちゃんはジャンプ一番――民家の屋根の上まで一飛び。脅威のジャンプ力に驚く黒服集団……だったけど、それも一瞬。すぐに邪魔者の排除と標的の確保のために動き出す。その手には黒光りする例のアレが握られてて……おかしいな、ここは平和ボケ国家日本なハズなんだけど、なんか気づかないうちにパラレルワールドに来ちゃったかな?
でもボク的には昨日の衝撃よりマシなため平常心確保/冷静な頭でクールアクション――ピポポと一一〇番。場所と状況を伝えて待つこと数分でサイレン鳴らしたパトカー到着。鮮やすぎるほど鮮やかに退散する黒服集団/捕縛数0…………まあ、サッちゃんが助かったなら問題無し。連絡に使った携帯もボクのじゃなくておバカのだからホントに問題ナッシング☆
それを話したらおバカは「勘弁してくれ……」と疲れた顔でお巡りさんの方へ。
その姿はまるで出頭する犯罪者――でも二、三話しただけで帰ってきたよ? お巡りさんもおバカの事知ってたみたいだったけど……昔厄介かけたとかそんな関係かな? まあ、おバカが警察のご厄介になったことがあってもボクは気にしないよ。ボク達友達だもんね☆
ちなみにその時サッちゃんは救けたお嬢様に不意打ちのキスされて狼狽えてました。
お口とお口のディープなやつ……ボクは天を仰ぎながら『ああ、また妹キラーの犠牲者が一人』と嘆きつつ、ちょっと笑う。裏事情を知ってるとかなり滑稽で面白い。でも、ラブコメ大好きなおバカは「なにがそんなに楽しいんだ?」と不満顔。
……これってラブコメ展開だと思うんだけど? なにがダメなの、ラブコメマスター?
●平成二十一年四月五日(日曜)午前十時三〇分――【赤月駅・周辺】
そんなこんなで再び駅前間近。
重い足取りで一歩一歩進むサッちゃんを見ているこっちはドキドキハラハラ。
現時点で待ち合わせ時間から一時間三十分オーバー……初デートで盛大に遅刻。これで待ってたら奇跡。否、居たら私刑確実の修羅場確定コース。むしろ居ない方が後々フォローしやすい気がする……居ませんように! お願いマイシスター!!
「……ねえ、おバカ。サッちゃんの初恋相手って姉さんだと思う?」
それは現実逃避――否、無意識にこぼれた疑問/微かな確信。
さっき魔法少女に語ってた過去話に出てきたミノムシは姉さんで間違いない。あの二人にそんなラブ伏線が張られていたことに驚きつつも、やっぱ幼馴染に家族のことを隠蔽するのは無理あったよね~、と反省しつつ、これはこれでかなり都合の良い展開かも、とニヤリん☆
「いやいや。サッちゃんの初恋相手は茜ちゃんに決まってるだろ? 物心付く前から一緒に居た病弱義妹だぞ。あの娘のせいでサッちゃんの人生山あり谷ありジグザグロードになってんのに、それでも憎むどころか世話焼いてんだ。愛がなきゃできねーよ」
驚いた。
斉藤縁と不知火茜はボクから見てかなり親密な友達関係を築いてた――携帯で連絡取りあって義兄の尾行を依頼/協力するぐらいには。サッちゃん家で遊ぶとおバカの膝の上に茜ちゃんが乗って傍目イチャイチャしてるように見えるぐらいには。バレンタインにチョコを贈り、ホワイトデーには十倍返しするぐらいには。いまだに一緒にお風呂入るぐらいには……。
まあ、サッちゃんも同じことしてるけどね。
この前のバレンタインに『昨日義妹様が裸リボンで身体にチョコ塗りたくって「お兄様、茜のチョコ食・べ・て☆」とか言ってきたんだけど……』と死んだ目で人生相談してきたのは記憶に新しい。ちなみに相談内容はホワイトデーの御返しで、ボクの答えは『愛』の一言。
「……愛ってなんだろうね?」
「躊躇わないことサ」
どこの宇宙刑事サ!?
っと、盛大に話が逸れちゃったね。軌道修正、軌道修正……え~、ボクが驚いたのは、このおバカがサッちゃんのデコボコジグザグ人生は茜ちゃんの『ため』ではなく『せい』と言ったことに対して。その二つは似ているけど真逆。普通は相手を責めるときに使う……つまり、このおバカもサッちゃんと茜ちゃんの歪な関係には思うところがあるってコトかな?
「……じゃあ恋ってなんだろ?」
「いやー。俺様、初恋もまだだから、恋する気持ちとかホントはイマイチわかんねーんだわ」
「ホント何言ってんの自称ラブコメマスター!?」
おおっと、そんなバカ話してるうちにサッちゃん、ゴール……するなり土下座!?
でも今はおバカの対処優先。あっちも気になるケド、今日のボク等はあの二人を見守るのが目的だけど……それでも目の前でおかしな事言われたらそっち優先しちゃうのが人の道!
「わかんなくても問題ないだろ? 外側を整えれば中身は後からついてくるモンだと俺様信じてるからな! ペットだってオスとメスを狭い場所に押しこめてりゃ増えるし!!」
――……え、本気で言ってるの?
その疑問を口にすることを何故か躊躇う……って言うか、なんか怖かった。このおバカの身の上/欠陥はモチロン知っているが、正直なところここまで酷いとは思わなかったかも。
「ふ、ふーん。じゃあ、キミが思う最高のカタチ――ラブコメシチュエーションってなに?」
「そりゃモチロン――」
――この後、ボクはこの質問をしたことを最高に後悔することになる。
巻いていこう、としたのに仕上げるのに時間がかかってしまった今回。
でもなんとか皐月ゴール。次は三角関係のお話になる予定…………あくまで予定です。




