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第一章「入学」 第一話「桜並木の下で……」

 SIDE:SCARLET 


 ●平成二十一年四月四日(土曜)午前七時五十三分――【暁学園前・桜並木】


 春麗ら。

 優しい太陽の輝き。

 花びら舞い散る桜並木。

 見上げればどこまでも高く果てない蒼い空。


「……青い春、か」


 自然とそんな言葉が口をつく。

 青い春/青春……実際に口にするには少々恥ずかしいセリフ。

 でも、恥ずかしいなんて言ってはいけない。何故ならそれは――


「――呼んだ?」


 俺の隣を歩く心友の名前でもあるから。

 蒼井春あおい はる。俺と同じ十五歳……ではなく今日から一足先に十六歳となった幼馴染。

 その容姿は可憐――ショートカットな栗色の髪/童顔で愛らしい顔立ち/小柄で俺の肩ぐらいまでしか無い身長――ゆえに常に覗きこむような姿勢/上目使いで話しかけてくる。

 しかも服は可愛いと評判な暁学園の女子用制服――ギャルゲーの世界でしか見かけないようなピンク/桜色を基調としたセーラー服。さらには少々サイズが合ってないせいで、おヘソが見えそうで見えない&かなりミニスカートな着こなしになっていて……。


「……いや、その格好は何だね春サンや?」

「くっ、やはりサっちゃんの目は誤魔化せなかったんだよ」

「いやいや、『誤魔化せなかったんだよ』って……うん、春サン。春サンは『男』なのになんでセーラ服着てるんだね? 高校デビュー? ついに男の娘として開き直っちまったのか?」

「違うんだよ!」


 何故か俺の腕を抱き/引っ張りながら否定する春サン。

 周りからは女の子と腕を組んでるように見えるだろうが……哀しいから考えるのはよそう。


「話すと長くなるんだけどね……実は母さんが注文用紙紛失した挙句、昨日発覚するまでその事自体を忘れてたせいで学生服が間に合わなかったんだよぉ。でもでも、高校最初の、一生に一度の入学式に出れないなんて嫌だったから……だから恥を忍んで、姉さんの制服を……」

「……一生に一度の忘れられない黒歴史になるだろーなー」


 一生に一度の入学式に女子の制服で出席。しかも今日は春サンの十六回目の誕生日……果てしなく後悔する未来しか思い浮かばない。フォローできる気がしない。誰か救けて……。


「――ダイジョーブ。黒歴史も歴史のうちサ☆」


 ピョロロ~ン♪

 と、突如響き渡るウクレレの音色。

 あ、懐かしい。俺も中学の時に美術の時間で作った覚えがある……そう、何故かうちの中学は美術の時間にウクレレ作ったり厚紙重ねて鎧を作ったりと工作系が多かった。色を塗ったりするから美術といえば美術なのかもしれないが……――と、盛大に話が逸れた。反省。


「あそこだよサッちゃん!」


 指差された先は校門の上!?

 ちなみにこの暁学園の校門は寺社仏閣風の豪華なヤツである。校舎は普通にコンクリ製なのに……と、また話が逸れた。頭を振って雑念消去。とにかく声の方を向く。と――


 そこにイケメンが立っていた。


 そう、その存在はイケメンだった。

 風になびく長い黒髪/高い身長/見事に着こなされた詰襟学生服――シルエットだけでもカッコイイのに、そこに異常に整った顔立ちがプラスされてて見た目はまさにパーフェクト。でもその顔に張り付くニヤニヤした笑みは最大級のマイナス要素。ウクレレ掻き鳴らしてるとこなんか壊滅級。そんな残念臭漂う残念イケメン。その名も――


「……バカえにし

「そう、ここから始まるのは俺様達の歴史。ヒステリー……じゃなくてヒストリ―! ……ヒー・ストーリー? 彼の物語? とにかく――道行く人々よ、俺様のプロローグを聴けー!」


 なんて残念すぎる英語力ッ!?

 ツッコんだら知り合いだと思われそうでツッコミ入れたくない……そんな僅かな躊躇のうちに曲が変わる。新たなメロディは……古き良きギャルゲー、ときメ○(初代)のBGM!?


「――俺の名前は不知火皐月しらぬい さつき。この四月から私立暁学園しりつ あかつきがくえんに通うようになった高校一年生♪」

「いや、『俺の名前は』ってそれは俺の名前だろーが! 突然現れていきなり他人紹介とか何考えてんだ、このバカ! バカ縁!!」

「まあ『彼の物語』だからね……――見た目は平凡で勉強も運動も人並だけど、夢はでっかく市街征服! この赤月市の覇王しちょうになるのが夢な高校一年生。五月五日生まれの十五歳。不知火皐月~、不知火皐月をよろしくお願いしま~す。アダ名はサっちゃんで~す♪」

「って春サン、お前もか!?」


 笑顔で裏切る心友に驚愕。

 ついでに道行く人々の好奇の視線が辛い。このままでは春サンの黒歴史をフォローどころか俺の黒歴史になりそうな流れ……………………って、もしかしなくてもそれが狙いか!?

 高いところにいるバカを『キッ』と睨みつけると、そのバカは『ニヤリ』と笑い――


「そして、俺様はそんなサッちゃんの心友・斉藤縁さいとう えにし――ラブコメマスターを自称する漢だ!」

「うわ、自称って言っちゃったんだよ!?」

「……言ってやるな。アイツはあたまが不治の病に侵されてる可哀想なやつなんだよ」


 そう、世界は理不尽な哀しみに溢れている。

 コイツは見た目は気圧されるぐらいのイケメンだが、こう見えて友情にあつく、お気遣いもできちゃう本当に良い奴なのだ。それなのに生来の性癖のせいでこんな残念な奴になってしまったのである。まったく、男も女もない小学生時代のコイツを返してくれよ……。


「いいか諸君、俺様はラブコメが大好きだぁぁ――――――――――ッ!!」


 そんな俺の気持ちに気づく事なく、我が心友様は道行く学生たちに向けて叫んだ。

 恥も外聞もなく、熱く、熱く叫んでいた……もう何考えてるかさっぱり解らない。解らないからもう少し付き合ってやろうと思う。たぶんこの気持ちは友情ではなく同情だろう。


「イメージしてみろ! 幼馴染や妹に叩き起こされる目覚めを!」


 とりあえずイメージ………………ベタだな。


「イメージしてみろ! 登校中に美少女転校生(トースト装備)とぶつかる出逢いを!」


 もう一回イメージ……………………ベッタベタだな。


「イメージしてみろ! 突然親が決めた婚約者フィアンセが押しかけてくる未来を!」


 イメー……いやいや、ソレはいくらなんでもファンタジーすぎるだろ?


「イメージしてみろ! 友人の恋愛相談にのってるうちに芽吹く恋の花を!」


 それ俺のトラウマなんですけど! 知ってて言ってるだろ、このおバカ!!


「イメージしてみろ! 女の子み~んなとラブラブ・ウハウハなハーレム状態を!!」


 ……うん。他人がやってるのを見るのはムカつくけど、自分がそうなりたいとは思わねー。


「俺様は憧れる! そんな幸せな世界に憧れる!! ゆえに俺様は宣言する――この学園を、そんなラブとコメに溢れた楽園にしてみせると! そこかしこで男子と女子がエロハプニングを起こし、それでいて甘酸っぱい触れ合いイベントも忘れず、でも最後まではいっちゃわない健全さを保持した『楽園』をここに、俺様の手で創りだすと!!」

「……俺には生き辛そうな世界だな」

「黙れ、血の繋がらない義妹に兄妹以上の好意を持たれてるラブコメ野郎ヤローッ!」

「…………既に生き辛い世界だったわ」


 背中に突き刺さる視線が痛い。

 何故か『血の繋がらない義妹に好かれている』というだけで世間は俺を敵視する。

 義理だろうが妹は妹。だから、絶対に手を出したりしないと言っているのに…………そもそも、そんな事になったら親が泣く。誰にも祝福されない恋愛とか俺的にはマヂ勘弁ですよ?


「このバカサッちゃん! 自分が幸せであることに気づかず文句を言うなど、もはや罪! ギルティ!! そんなエロゲ主人公、俺様が粛清してやるぅ――――――ッ!!」


 絶叫と共に俺目掛けてダイビングキック――


「――って、マヂ飛んだ!? ホントに何考えてやがるバカ縁ぃぃッ!」


 避けたら地面、避けなかったら俺激突コース/反射的に受け止めようとする俺の耳に――


 校舎からチャイムの音が鳴り響く。


 瞬間、横捻り/体重移動で軌道修正――俺の目の前にストっと着地。って顔近ッ!?


「……フン。どうやら運命を司るデウス・エクス・マキナが俺様達を呼んでいるようだな」

「で、デウス・エク……ワケわからん。日本語喋れよ!」

「たしか、物語で収拾つかなくなった時『唐突に現れて超展開でこんがらがった状況を解決してくれる神様みたいな存在』のことじゃなかったかな?」

「……つまり『俺たちの戦いは始まったばかりだ!』みたいなやつか?」

「「違う」よ!!」


 何故か怒られた。無理矢理収拾つけるって意味では同じだと思うのだが…………ああ、これから高校生活を始めようっていう俺達には不適切な例えだったか。反省。


「「――さあ、行くよ、サッちゃん」」


 と、二人が俺の腕をそれぞれ掴み……春サンが右手を俺の右腕にからめ、バカ縁が左手で俺の左腕を掴んで進む。おかげで前後逆。何故か後ろ歩きをしている俺。傍から見たら引き摺られているようにも見えるだろう。いっその事引き摺られた方が楽かもしれない……。


 ――……ああ、桜が綺麗だ。


 青い空を仰ぎ見る。

 風に流れる白い雲、風に舞い散る桜の花――なすがままなその姿が美しい。

 ゆえに、俺は考えるのを止め、なすがままにズルズル引き摺られての初登校を果たしのでありました…………………………………………………………………………幸せってなんだろう?


 ……さあ、俺の高校三年間は始まったばかりだ!!


最近さっぱり書けなくなってきたので、初心に戻って「書きたいように書こう」と思って始めてみました。楽しんでもらえれば幸いです。

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