開戦
大幅に更新が遅れました…次話の見直しにかなり悩み、時間が掛かりました。
字数は少ないのですが、自分が納得出来る文章になっているか。そこで壁にぶち当たりましたが、更新致します。
次の投稿もかなり遅くなりますが、完結まで持っていく方針は変わりません。
今後も拙作を見ていただけたら嬉しいです。m(_ _)m
五月中旬から始まった梅雨も終わり、大地を潤した雨が止み、木々が生命溢れる緑を巡らし始め、夏の到来を示して来る七月の月に戦いの火蓋は切られた。
戦いの火蓋が切られたのは、日が上がり始めた早朝、朝の七時ぐらいだ。
この日の両軍の布陣は以下の様な布陣だった。
◆
武田軍…説楽原の川を背にして鶴翼上に広がる事で敵を包み込んで殲滅する構えだ。
主な将としては、以下の者が参陣している。
・武田勝頼
・小幡信貞
・山県昌景
・馬場信春
・土屋昌次
・真田信綱、昌輝
・内藤昌豊
・武田信豊
・武田信廉
・原昌胤
・一条信龍
・穴山信君
などの武田の諸将が説楽原に勢揃いして勇壮なる布陣となっていた。
此れに対する織田・徳川軍も、主な武将だけを挙げても、
・織田信長
・徳川家康
・佐久間信盛
・丹羽長秀
・羽柴秀吉
・滝川一益
・徳川信康
・石川数正
・本多忠勝
・榊原康政
・大久保忠世
・大須賀康高
・鳥居元忠
と、武田軍を超える豊富な兵力、重厚な人材を有しており、陣も野戦陣地とは思えないほど堅牢になっていた。
其れまでは武田・織田の両軍は静かに睨み合っていたが、南側に陣どっていた山県昌景率いる赤備え4000が坂を駆け下り、対岸の徳川陣地に突撃し始めた。それを契機にして北側の馬場信春も織田軍の佐久間隊と交戦を始め、中央では真田信綱・昌輝兄弟に率いられた上田衆を先頭に中央の羽柴・滝川の陣を攻撃し、ここに戦端は開かれた。
「進撃せよ。我が赤備えの勇士達よ!」
昌景の言葉に応え、歓声をあげながら赤備えは先頭に立って采配を振りながら片手で敵兵を切り倒す昌景に負けじと唸りを上げて敵兵に槍を叩きつけ、其れに徳川の三河兵も応戦し、色取り取りの旗が入り乱れる乱戦となって来た。
昌景は馬上で指揮を取りながら、唇を少しばかり歪め、徳川の陣を見た。
ほう…徳川三河の陣中々固い、意外と三河守は遣りおる。此れほどの野戦陣地を作り上げる手腕、名将の器に足る者だ。
だが、其れがどうした?我ら赤備えは武田家最強。その武で押しつぶせば良い。
昌景は天に向かって采を大きく振り上げ、声を発した。
「皆の衆。」
朱色の具足を着た兵は足を止めて昌景に注目した。
「徳川、思いのほかやりおる。」
兵達は其れを認めた。徳川三河守、我ら赤備えの攻撃を受けても尚崩れぬ。
認めよう、徳川は強兵なりと、
「だが、徳川が防御を鉄壁にしても、それ以上の攻めを!猛攻を見せてやれば良い!」
そうだ、我らは攻めればよい、敵が防御を固めるならばそれ以上の攻めで打ち破るのみ。
「進め!紅き猛者達よ!!!」
『おおおおおおお!!!!』
山県昌景率いる赤備えは昌景の言葉に触発され、今までも激しかった攻勢を強め、其れは烈火の攻めに変わり、守りに徹する徳川軍は更に過酷になった攻めに徐々に後退し始めた。
ー徳川軍ー
徳川の三河兵達は武田の猛攻に晒されながらも頑強に抵抗し、崩れぬ様に良く支えていた。だが、其れでも赤備えを押し返すには至らなかった。いや、無理なのだ、余りにも赤備えが強過ぎるのだ。反抗を許さず、永遠に続くと錯覚してしまいそうな激流の様な攻勢。
今や、徳川軍はじりじりと後退をしていた。
それを止める為に徳川軍から一人の武将が飛び出した。
武将は戦場に置いてかなり目立つ格好をしていた。首には大数珠を提げ、兜は鹿を象った両角が屹立している。
武将は一呼吸すると、颯爽と赤備えに一騎駆けをして、槍を奮った。
槍を奮うその力は凄まじく、一振りだけで数人の兵が吹き飛ばされ、下から近づいてつき殺さんと兵が迫るとすぐさま、敵兵の喉元に突きを放ち、敵兵を近づけさせなかった。
武将はあっという間に5人以上の兵を討ち取ると、遠巻きに囲む赤備えに向かって言い放った。
「拙者は本多平八郎忠勝と申す。拙者が居る限り、ここを通す事罷りならぬ。命が惜しくないものは遠慮なく掛かって参られよ!」
忠勝の放つ覇気に押されて取り囲んでいた兵達は一歩後ずさった。
その時、赤備えの中から他のものとは違う立派な紅い鎧武者が現れ、忠勝に一騎で向かって忠勝に槍を向けた。
鎧武者は忠勝を見て、目を細めた。
「貴様が本多平八郎か、確かに先代の御屋形様が認めるだけはある。中々の勇猛ぶりよ。」
忠勝も油断はせずに鎧武者を睨み付け、
「そう言う貴殿は何者で御座ろうか?」
「見て分からぬか?赤備えを率いる者よ。」
忠勝は更に緊張で顔を固くさせた。
「貴殿が武田最強と謳われる山県昌景殿か。此れは良き敵見つけたり、その首貰わん!」
「若造が」
野獣の様な雄叫びを上げ、両者は一騎打ちを開始した。
昌景が槍を振るい、忠勝の頭に振り下ろし、忠勝は槍を掲げて受け止めたが存外に強い昌景の力に押されたが、渾身の力で弾き返した。
直ぐに横に昌景の薙ぎ払いが来たが忠勝は落ち着いて受け止め、逆に昌景の喉元目掛けて突きを繰り出した。
ギィィン!!
鈍い音を立てながら槍を弾かれた事を忠勝は自覚した。
だが、それを悔やむよりも先に昌景の槍が眼前に迫って来た。忠勝は何とか反応して交わしたが、ギリギリの回避であった。
忠勝は一度距離を取った。
昌景が笑いながら、
「本多平八郎、噂に違わぬ実力、天晴れなり、だが、もはやお主に構っている暇は無い。者共、本多平八郎に構うな、徳川の陣を崩せ。」
その声と共に紅い軍団が再び地響きを立てて進撃を再開した。
「ぬぅ、させるか。」
忠勝は再び赤備えの前に回り込もうとしたが、昌景に止められた。
「本多平八、貴様の相手は昌景で充分じゃ、赤備えの進撃は止められぬ。」
「ならば、貴様を打ち破るまで!」
その声を合図に再度両者は激突した。
山県昌景と本多忠勝が一騎打ちを繰り広げている間に、北側に布陣して居た佐久間隊は馬場隊と交戦していた。
「くっ、者共、防げ、防がんか。」
声を張り上げ、必死に兵を鼓舞しているのは織田重臣、佐久間信盛だ。佐久間信盛は先程から馬場隊と交戦しているが、かなり押され気味になっていた。
交戦当初は佐久間信盛の指揮によって互角の状態になっていたが、途中から側面にいきなり鉄砲隊が現れ、射撃をされ、怯んだ所を馬場信春率いる直属の騎馬隊に突入され、そこから穴が空いた様に押されっぱなしになり、今に至る訳である。
佐久間信盛は必死に兵を指揮しながら、焦りを募らせていた。当初の予定では適当に相手し、誘き出す予定で有ったのに此れでは誘き出す前にこっちが敗走しかねない。
どうする、戦いを続け、馬場隊を留めるか、予定通りに犠牲を覚悟の上で誘き出すか…
信盛は頭を目まぐるしく回転させて知恵を巡らしたが、天は信盛に考える時間を与えなかった。
必死に防戦する佐久間隊の背後に回り込んだ土屋昌次隊が馬場信春と連携して佐久間隊は両隊から挟撃される形に成ってしまった。
事、ここに至り、信盛は決断した。
「退けい、退けい、柵の中まで退け!」
遂に佐久間隊は柵の中への退却を決意した。
それを馬場信春は微動だにせず、眺めた。
「ふむ、佐久間隊は柵へ退いたか。者共、今より柵を突破する、じっくりと腰を据えて攻め掛かれ。」
馬場隊はゆっくり進み始めた。
馬上で思案顔をしている馬場信春に人影が一人近づいて来た。
馬場信春に近づいて来たのは先程馬場信春と共に佐久間隊を挟撃した土屋昌次だ。
彼は馬場に近づくと、
「信春殿、まずは初戦は上手く攻め切れましたな。」
信春は一つ頷き、
「うむ、しかしまだ戦は始まったばかり、油断はならぬ様に。」
「はっ、では私は中央の源太達を手助けに行きます。其れでは。」
昌次は会釈をして馬で駆け去った。
信春は重厚に建設されている織田・徳川軍の陣を見て、溜息をついた。
まったく織田と徳川は厄介な柵を作りおる…あれを破る儂等も大変じゃ、此れは持久戦の備えも必要かも知れないな。
まあ、その必要がない様に儂等が奮起せねばな。
信春は自らも前線に出るべく、馬を躍らせた。
武田にはロマン感じるなあ…




