長篠城攻め
忙しくて執筆する時間がなく、更新が遅れまして、申し訳御座いませんでした。
前話にも載せた通り、1〜2日の間隔で更新をして行きますが、今日のように更新が遅れるかもしれません、しかし、出来るだけ更新は早くします。
また、見切り発車、未完結のままでは終わりません。時間は掛かりますが完結まで行きます。
最後にこの話を見て、少しでも武田を好きになる人が増える事を願い、お詫びとさせて頂きます。
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今僕は長篠城前にいる。
長篠城…長篠の戦いで、武田勝頼軍一万五千の大軍に対し、城方は僅か300の兵しか有して無かったが城主の奥平信昌の気骨溢れる奮闘により、武田軍に長篠城の中に立ち入らせる事を許さなかった堅城である。
尚、この戦いで長篠城を落とせなかった事により、武田軍は兵を牽制の為に兵を割かなければならず、しかもその割いた兵である別働隊が徳川家臣酒井忠次らの奇襲により壊滅した為、背水の陣で織田・徳川軍と戦わなければならず、その結果、武田は無様な敗戦を喫したと言われている。
この長篠の戦いが史実と同じ様に進むか分からないが、唯、最善は尽くして、武田の将兵が無駄に死ぬ事がない様にしたい。
「景勝様、武田軍が長篠城攻めを始める様です、そろそろ出陣ですな。」
僕の補佐の小島貞興が話しかけて来た。
この人って、身体も大きいし、筋肉も凄くて、まさに筋骨隆々とした逞しい武士の様だ。
小島貞興は上杉謙信の小姓として、幼少の頃より仕え、激戦と伝えられている川中島の戦いでは武田軍の猛将、飯富昌景と激しい一騎打ちの末、引き分けになり、武田方の将の首を三つあげる大武勲を上げた。その後も数々の戦に従軍し、その全てで武勲を立て、上杉一の猛将と呼ばれた柿崎景家と並び、上杉の武の象徴と呼ばれる万武不闘の猛将だ。
そんな誰もが恐れる猛将が僕の補佐になり、僕を尊敬するって、どういう事なのか…何でも僕が初めて兵に指揮をした時より尊敬し始めたと言うのだが…僕、何かしたっけ?疑問だ……
だけど、尊敬してくれるのなら指揮に従ってくれるのだから戦がやり易くなるからな、プラスに考えようか。
よし、長篠城を武田軍と共に攻めるか!
兵に出陣の下知を下さんと、僕は手に握っている軍杯を振りかぶろうとした時、突然武田の兵達がざわめきだした。
『三郎兵衛様だ!』
その声と共に、赤い具足を着た男が武田軍の前に踊り出た。
血よりも赤い真紅に包まれた鎧に身を包み、手に持つ朱槍は鈍い光を放ち、鎧の奥に見える眼光は鋭く、周りを睥睨していた。
その赤い武士は唯在るだけで、周囲に畏怖を与える存在だった。
僕には直ぐ分かった。
あの武士こそが、小島貞興と互角に戦い、武田の赤備えの孟者を率い、武田を最強たらしめた武田四名臣が一人山県昌景だと。
山県昌景は前線の兵達を見回し、
「皆の者、今日は良い日和である。この日こそ、我等、武田の戦を長篠城の兵に魅せる絶好の機会、一番槍は我が貰わん!武田の勇猛なる将兵よ!我に続け!」
山県昌景が大喝しただけで、武田軍は奮い立ち、気炎を上げ、先頭に昌景を筆頭にした紅い軍団が地響きを響かせながら長篠城に迫って行った。
それは、まさに真紅の色に黒、茶も混ざり合い、長篠城を飲み尽くさんとする真紅の奔流に見えた。
凄まじきは山県昌景よ、言葉一つであそこまでの戦をするとは
なんて、少し古風に言ったけど、やっぱ凄え…僕も負けたくないな、よっしゃ!燃えて来た!
「我が軍も、山県殿に負けるな!進撃!」
『おおおおおっっっ!!』
お、貞興がとても張り切って居るな、この城落とせそうだ!
僕も兵達に負けない様に自らも前線に出て行った。
◆長篠城
長篠城城主奥平信昌は焦っていた。眼前には迫り来る赤備え、更に、其れに続く1万を超える大軍、対して、味方は300人、かつてないほどの窮地に長篠城は陥っていた。
やはり武田につくべきだったのか?だが、徳川様の将来性を期待して徳川についたのだ、今更下れぬ。やるしかないのだ、どんなに絶望的でも…
信昌は顔を平手で叩くと、城を守る兵に命を下すべく、本丸を降りて行った。
「早く城門を開けんか!」
武田方の将が叫ぶと、鎚を持った十人の兵が周りの兵に守られながら城門に肉薄し、城門を打ち破ろうとしていた。
「今ぞ、鉄砲隊!撃てーーい!」
バシュバシュ!!
銃声が一斉に轟き、門を打ち破らんとしていた兵は銃弾に倒れ、屍を晒した。
「ええい!あれぐらいの小城の門ぐらい直ぐに破れぬのか!?」
将は苛立ち、再度、城門を破る様に下知を下さんとした。
「落ち着くがよい。」
声をかけられた将は振り向くと其処には壮年の武将がいた。剃り上がった頭に、決して多くはないが短く、立派な髭をした武将が馬に乗っていた。
声をかけられた将はその武将を見ると驚愕し、驚きの声を上げた。
「此れは、修理亮様!」
その武将は内藤昌豊であった。内藤昌豊、武田四名臣の一人で、武田の副将として、影働きをして来た縁の下の力持ちと言う言葉が良く合う武田の重臣だ。内藤は初めは工藤という名前があったが、父が武田信玄の父、信虎に誅殺され、まだ若かった昌豊は武田を出奔し、関東地方を放浪する旅に出たが、家督を継いだ武田晴信、後の信玄であるが、晴信に召還され、再び武田で働き始めた数奇な運命を持つ武将である。
内藤昌豊は息を一つ吐くと、
「この城は恐らく落とせぬだろう。」
「なんと!?ではどうなされるので?」
「落とせぬならば、城方の虚をつけば良い、今日の所は激しく攻め、武田の武威を見せつければ良い、そうすれば城方も無闇に討って出る事はない。」
「承知致しました。しかし虚をつくとは?どういう意味でありましょうか?」
「今日の夜の評定の後、話す。今は苛烈に攻める事のみ考えよ。」
「ははっ!」
将は昌豊に一礼をすると、攻めを継続するべく、戦に戻って行った。
昌豊は、長篠城に視線を向けた。いや、昌豊が見ているのは長篠城ではない、長篠城のその先に迫っている織田・徳川連合軍に昌豊の意識はあった。
昌豊は顔を歪め、呟いた。
「この戦…どうなるか分からぬな…」
昌豊の呟きは風に吹かれ、消えて行った。
山県昌景は先程から長篠城を攻めていたが、落とせない事に苛立ちを感じてはいなかった。昌景は攻める前からこの城は落ちないと分かっていたので、苛烈に攻める事で長篠城を震えがらせ、織田・徳川連合軍と戦う際に挟撃に出る意思を取り去ろうと考えていたのだ。それは見事に成功していた、長篠城は抵抗こそするが、自分から出撃する事は無かった。
昌景は口笛を吹くと、「そろそろこの戦も潮時だな…」
昌景は肺に空気を貯め、叫んだ。
「この戦、潮時である!退くぞ!」
昌景が叫ぶと、今まで怒濤の勢いで攻めていた武田軍は波が退く様に引いて行った。
小島貞興は城門前で城兵相手に大判立ち回りを演じながらも、その目は油断なく、戦況を見ていた。
武田方が波が引く様に退いて行くのを見て、この戦は此れまでだと気付いた。流石は武田よ、退き際を良く心得ておる。
「景勝様!そろそろ退き時ですぞ!」
景勝様は兵達の先頭に立ち、兵を鼓舞しておられたが、その声を聞くや否や、
「皆の者、この戦はここまでぞ!最後に長篠城の兵どもに我が兵の声を聞かせてやれい!」
景勝の声に従い、兵は長篠城に向かって雄叫びをあげて、威嚇した。
「者共、退くぞ!」
景勝様は戦と言うものを理解しておられる様だ、普通に退くだけでは、敵の士気を上げてしまう、しかし、この方法なら敵の士気を下げ、尚且つ、味方の士気も上がる。
感嘆してしまいましたぞ。
それでは私も退くといたすか。
この日、長篠城は落ちなかったが、武田の猛攻に戦意を喪失する兵が続出して、士気は日を追うごとに下がって行った。