表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

謙信の心

更新遅れてしまい申し訳ありません

厩橋で上泉信綱らと出会った景勝は一足先に越後に帰り、信綱達を迎え入れるための屋敷と道場を用意する事を謙信に打診しに行った。


春日山城に入城して、上がって行った所の少し奥に謙信は座を組んでいた。


見た所、謙信は数珠を手に持ち、仏壇にある毘沙門天に向かって祈祷を捧げている。おそらく毘沙門天に祈りを捧げる事が毎日の日課なのだろう。信心深い事だなぁ、僕にはとても出来そうにない。僕の前世は現代人で無宗教、つまり、神を信じてなかったからな。

僕の理念としては、「困った時は自分の力で切り抜ける、神頼みはしない。」と言う現実主義的な考えを持っている。もちろん、ここでもそれを変えるつもりはない。だからと言って他の人にそれを言うつもりもないが。


「不識庵様」


声をかけられた謙信は祈りを止め、

「喜平次か、此の度は何用か?」


「先日厩橋に赴き、新陰流の上泉伊勢守殿らと話をしました。」


「ほう、修行にのめり込んでばかりおる伊勢守に会えたとは…して、会って何をした?」

声には幾ばくかの驚きと少しの好奇心が混じっていた。

「伊勢守殿には私の家臣にならないかと勧誘を致しました。」


「伊勢守殿を家臣にか、面白いがあやつがそうそう頷く筈はない。断られるのが関の山という所であるかな…」


「不識庵様の仰せになられる通り、家臣には断られました。ですが、伊勢守は越後に新陰流指南役としてなら厩橋より越後春日山城の城下町に移住する、と言ってくれました。」


景勝の言葉に謙信は虚を突かれ、口が開いたままになったがそれもほんの少しの間の事、やや間を置いて城内に響き渡る太い笑いを発した。


「はははははは!伊勢守殿を勧誘では無く、此処に移住させるとは、喜平次は面白いのう。」


うおっ、いきなり笑い出したからビックリしたぜ……この反応を見る限り良い印象だから今お願いしてみっか、


「不識庵様、その事についてお願いしたき儀があります。宜しいでしょうか?」


「いいぞ、何じゃ?」


「上泉信綱殿達を迎え入れる為の道場、屋敷を建てたいのです。」


「ははは、構わぬぞ。伊勢守を動かしたのは他ならぬ喜平次、そなたじゃ、それに新陰流の使い手が加わる事は喜ばしい事だ。」


まだ笑いが鳴り止まない謙信は快く頷いてくれた。


ほっ、快く認めてくれて良かった……


「喜平次」


やや真剣を帯びた顔で謙信がこっちを見詰めて来た。


「喜平次は、本当に変わったな。前は心配になるぐらい寡黙だったからまだ政景の事を引きずっているかのかと気にかかっていたが、今の状態なら心配は要らぬだろう。」


一瞬、此方の心を見破ったかのような物言いにドキッとしたが、上杉景勝の行動や性格が変わった事を良いほうに捉えてくれたようで良かった。


僕が転生…いや、この場合は憑依とも言うべきなのだろうな。した事は墓まで持って行く事にする。言っても信じてくれない可能性が大いにあるし、今はまだ戦国の世である。変な言動をする事は隙を見せる事と同義になる。

よく漫画などで織田信長とかがうつけの振りをして敵を欺くということをしているが、僕に言わせてもらえればあれはとても危険な行為だ。


戦国時代の特色は何と言っても下克上だ。下克上とは下の身分が上の身分に取って代わる事である。つまり、上の者、この時代では大名や守護になるが、その政治に不満があれば簡単に交代できるのだ。


そんな時代でうつけを演じたら忽ち器量なしと思われ、最悪の場合追放ではなく殺される場合もある。実際にその例は幾つかある。例えば、嘗て中国地方を支配した大内義隆は舞や酒に明け暮れ、酒乱にふけった為、重臣陶晴賢に討たれてしまった。


更に、抜け目無い事で名を鳴らした斎藤道三も息子義龍と二万対二千という勝算なき戦いを強いられ、討死を遂げた。やっぱこれは斎藤道三の政策が原因だと思う。隣を接する織田と親交を結び、更に自らの娘を嫁がせ、息子には「将来お前達は信長の軍門に下るだろう。」という発言をしてしまったことが一番いけなかった。


この発言は美濃の民や家臣達を他国である織田に売るという意味とも取れる。道三にそのつもりがなかったとしても此れを聞いた家臣達や民はどう思ったか。多分道三の事を裏切り者と言っていたと思う。


民や家臣、そして息子義龍の信頼を失った道三は圧倒的不利による最期を迎えた。


だから僕は武士らしい行動を心掛け、下克上をされて殺されないようにしたい。もちろん死にたくないし!!


「喜平次、あの時は本当に辛い思いをさせた……政景、定満の事は儂も予想してなかった。二人が死んだ責は儂が政景を疑ってしまった事だ。」


政景、定満って言うと、宇佐美定満と長尾政景の事か…


長尾政景は喜平次の父にあたる人で謙信の血縁に連なる人だった。謙信が家督を継いだ時より補佐して来た古参の重臣で、謙信が出家した時もそれを必死で止めた。このように謙信にとっては頼れる存在でもある。


次に宇佐美定満、謙信に仕えた時は既に齢40を超えていた。家督騒動の時に謙信と合間見え、その軍略に惚れ込み忠誠を誓った。川中島の合戦では撤退する上杉軍の殿を務め、倍する武田軍を抑え込んだ軍略に通ずる将でもある。謙信にとっては軍略の師に当たる人で、良く師事をしていた。


どちらも謙信にとっては欠かせない人だが、悲劇は起こる。何と、政景に武田晴信と通じているという嫌疑が掛かったのだ。謙信は始めは全く取り合わなかったが、声を揃えて「謀反の兆しあり」と叫ぶ家臣らの声を無視できず、政景に定満を諮問に行かせた。


定満は政景を池の上に浮かぶ船の上に誘い、暫し話をした後、突如池に飛び込んだ。驚愕した政景は定満を助けようとして自分も池に飛び込み、二人とも浮かんで来なかった。


此れを聞いた謙信は深く哀しみ、二日間は仏堂から出てこなかったという。


僕には定満と政景が此れを予想していて、死ぬ事で謙信を助けたんだと思う。


黙って謙信を見ていると訥々と語り出した。


「政景、定満、あやつらは儂には過ぎた家臣であった。実はな、二人が死んだ後、書状が部屋に置かれてあった。内容を見たら『私達が此処で死す事で景虎様を前に進ませます。景虎様は龍、その行く道を我等の所為で邪魔する事があってはなりませぬ。どうか、上杉を導いて下さりませ。』とな……」


そんな事があったのか…神と歌われる上杉謙信でも完全じゃ無いんだな……


話す声には深い哀しみが含まれていた。


「喜平次……いや、景勝よ、儂にも苦しみや哀しみは人並みにある。此れは景勝だからこそ言える事であろう。」


確かに、此れを他に漏らしたら謙信を信仰する事で成り立っている上杉はガタガタになる。そして滅ぼされる。謙信は当主になってより茨の道を歩んで来たのか……



今日は少し謙信の事が知れてよかったーーだって僕の父だし!!義父だけど……





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ