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厩橋

連続投稿、時間がありましたので。


※少し変更致しました。



「御断り致します。」

硬質な意志が篭った声が質素な部屋に響いた


声を発した人物は齢60を優に越えるかなりの老齢の人だ。しかし、そのただすまいや所作には一切の雑作がなく、一流の使い手である事を示している。目からは巌の様に厳しい視線が対面している武士に放たれている。


厳しい視線を受けた武士は気圧される素振りも全く見せず、唯、こっちを静かに見詰めている。


両者の間に沈黙が降りた。


やがて、武士から短い言葉が発された。


「何故?」


短い言葉だ、しかし、そこに籠められた意味を悟ったのか老人は口を再び開く


「新陰流は戦わずにして勝つ流派、其れを戦いの道具に使うなどと、私は許容出来ませぬ。別に上杉…喜平次殿に仕える事は嫌だとは言うておりませぬ。」


「新陰流は戦いのための道具では無いと」


「然り、斬り結び、此れはあくまでも最終手段に御座る。戦う前に勝敗を決す、此れが我が理想です。」


「ならば、貴殿は兵法を学べば良い。武田信玄、不思議庵様、北条早雲、此れらの様に兵法で敵を打ち負かす。なのに貴殿、いや、信綱殿は剣の道を極めている。此れは矛盾していると私は思う。」


信綱は思う所が在るのか、少し黙る。


「それに信綱殿は長野業正、業盛殿に仕えていた時は戦に良く出ておられた。ご両人は滅亡しておられる。故人を貶める発言になるが、此れは戦う前から既に負けが決まっていたのではないか?」


固く目を閉じて話を聞いていた信綱は目を開けると、


「喜平次殿、此れはある老人の戯言と聞いてもらいたい。」


景勝は僅かに目を見開いたものの、黙って顔を縦に振った。



「私が仕えていた長野業正公は戦乱の世にあって大層な志を持っていた人だった。笑える事に、業正公はこの国から戦を無くして、平和な世界を作りたいという志を持っていた。まだ若かった私はこの世から戦はなくならないと考えていたから無謀な願いと思っていた。しかし、業正公はその言葉通り、主君上杉憲正様に戦を止めて北条氏と和平、もしくは下るようにと進言していた。結局それは叶わず、憲正様は越後に逃亡。業正公は主君への義を尽くして唯一人で戦い続けた……業正公死した後も息子の業盛様に忠節尽くしたが、滅亡してしまった。」


ふうっ、と信綱は息をつくとまた口を開く


「それからです、私が新陰流を作り、戦わずに勝つ事を理念とし始めたのは。剣を極める修行をしても、何処かで業正公の事が心に残っていたのだろう。私は業正公の望んだ世界を見たかった、戦のない世を。」


「信綱殿…」


「喜平次殿、貴方からは業正公と同じ匂いがしている。喜平次殿の目には業正公が望んだ世界が見えている。残念ながら私は老齢故、喜平次殿に仕えるということは出来ませぬ。」


信綱の言葉を聞いて景勝は残念そうに眉を下げたが続く信綱の言葉に驚きに顔が包まれる。

「但し、厩橋にある私の家と道場を喜平次殿の所に移して頂けたらと思います。」


「なんと!?それでは…!」


「はっ、正式に仕える事は出来ませぬが、喜平次殿に新陰流指南をする為に越後に移りたいと思います。宜しくお願いしてもよろしいですか?」


「此方こそ宜しくお願いし申す。」


信綱は景勝に仕えこそはしないが、指南する事で越後に移る事を決めた。


信綱が思い出したように景勝に声をかけた。

「喜平次殿、幾つか家臣に推挙したい者がおりますが、如何なされます?」


「家臣?それはまたと無い事だが、是非お願いしたいぐらいだ。」


「それはようござりました。今ここに集まっているので呼びましょう。」

そう言い、信綱は部屋を退出して行った。




ー上杉景勝ー


いやー!まさか信綱が仕えてくれはしなかったけど、指南の先生として越後に来てくれるってありがたい!最初に「断る」と端的に言われた時は慌ててしまった…その後何とか説得したから良かったわ…


長野業正か、信玄に負けを経験させた関東有数の名将だけど、まさかあんな考えを持ってるとは思わなかったわ。織田信長と同じかあ。先を見通す目を持ってるんだな…先人達って…


ガラッと音を立て、扉があき、信綱が二人の人を伴い入って来た。


二人は素人目から見ても一目で剣の達人と分かる鍛えられた肉体が服の上から自己主張をしていた。


ってか、信綱が推挙する人物ってかなり強いような気がするよ!ワクワク…


「お待たせ致した。喜平次殿に推挙したい者を連れて来ました。御主ら、紹介するがよい。」


「「はっ!」」


数人から一人が進み出た。


「拙者、新陰流門下、上泉泰綱と申す。前々から喜平次様の長篠での武名は聞いております。是非とも仕官しとうござります。」


おお!?上泉泰綱さん来たーー!上泉信綱の血縁だから遺伝子効果でかなり強い事間違いなし!


もう一人の人がゆっくりと前に進み出た。


「私は柳生一族の柳生宗章と言います。父、石舟斎より勘当されてるので彼方との関係は無いに等しいです。今は信綱様と共に厩橋に居ましたが、最近噂の喜平次様にお仕えしたいと思い、信綱様に推挙して頂きました。」


おいおい!二人とも新陰流門下じゃんっ!かなり所か大幅に戦力UPだよ!


「私が上杉喜平次景勝だ。貴殿ら二人が仕えてくれるのは私にとっても願っても無い事。是非とも私に仕えて欲しい。」


「「この身、喜平次様に捧げます!」」


でも何で僕の事二人とも知ってんのかな?


「何故喜平次様が知られているかですか?」

おや、心の声がついでてしまったかな?


信綱が説明するには、僕こと上杉喜平次景勝は長篠で、織田・徳川の大軍相手に一歩も引かず、逆に押し返して引き分けに持ち込んだ名将として全国に武名が鳴り響いているらしい。巷では、『冷静沈着の闘龍』『魔王と渡り合う若き龍』と言う何とも厨二的なネーミングがつけられて居る。

しかも、魔王織田信長は長篠で活躍した?あれ…あんまりしていない様な気がするよ。僕の事を目の敵にしているとか。


えっ、僕魔王に目をつけられているの?まだ若いのに…あんま活躍してないのにね。


人生がもう詰みかけているヨウナキガシマス



取り敢えず、一言だけ


『オーマイガー!(なんてこった!)』


その日、厩橋のとある道場で悲痛溢れる叫び声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。



新陰流三人+信綱により戦力UP!


他にもドンドン人材登用するかもしれません。まあ、魔王に目をつけられた主人公の未来はどうなるのか予想つきませんが…


今後も拙作を宜しくお願いします。


スノウ


追記ーー疋田景兼はこの時期厩橋には滞在してないで、九州地方に居たという情報を頂きましたので疋田景兼は除きました。


御迷惑をお掛けして申し訳ありません。

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