桜舞う季節に
きっかけは些細なことだった。
俺が彼女にこれからの進路聞いたんだ。
そしたら俺と一緒の大学に行くって言った。
でも、彼女はもともと医療系の大学に行くって言っていたから俺に合わせて進路を変えたんだとすぐにわかった。
だから俺は怒った。なんで医大にしないんだって、進路を俺と、俺なんかと合わせたんだって。
でも彼女は進路は変えてないとか、この大学から変える気はないって言ったから俺は本気で怒るしかなかったんだ。
そしてついに彼女、いや、俺の彼女は怒って部屋を出て行ってしまった。そのとき彼女が泣いていたのを俺は見逃さなかった。
「…って感じか」
そんなわけで自分の彼女を泣かせた挙句、一人でさっきの出来事を振り返っている最低野郎こと俺の名前は圭一と言う。
そして泣かせてしまった俺の彼女の名前は佐織、ちなみに容姿はとてつもなく可愛く、俺の好みド真ん中である。
その可愛さたるや学園…いや、世界…いや、宇宙一可愛いと言っても過言ではない……ってか事実、宇宙一可愛いし。
ちなみに黒髪ロングである。俺のことを「けーちゃん(はーと)」と呼んでくれる
俺の自慢の彼女であり、その可愛さたるや………やめよう。これではループだ。
「しっかしどうすっかなぁ…」
そして喧嘩してしまったこの日は二人が一緒に居れる最後の日かもしれない、高校卒業の2日前なのであった……
そうして迎えた次の日、昨日にあんなことがあって眠れるわけも無く、佐織のことを考えてると朝を迎えてしまった。
体調は絶不調!卒業まであと2日!!彼女とは喧嘩したまま仲直りできず!!!そんななかで彼女との仲直りの策を
考えなければいけなかった。俺たちはこれまでにも何度か喧嘩したことはあった。でも大抵は「もっと俺からキス
して欲しい」やら「もうちょっとヤる回数を増やそうだとか(あえて何かは言わない)」そんな街中でいちゃつく
カップルが対抗心を燃やしてしまいそうなとても喧嘩とは言えないような物ばかりだ。しかし今回はガチで喧嘩したので
どうなるかは俺にもわからなかった。
「でもどうにかしないとな……」
そう決意し、家を出るのであった。
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そんなわけで教室。
席に着きしばらく策を考えていると
「どうした?圭一。佐織ちゃんは一緒じゃないのか?」
そうニヤニヤしながら言ってくるのは俺の昔からの親友、大河だ。
「あぁ、昨日佐織と喧嘩しちまってなぁ……」
そうして昨日のことを大河に話した、こいつなら話しても大丈夫だろう。
こういった悩みは普段から大河と話し合っているので大河も真剣になって考えてくれる。
まぁこの前真剣な顔で
「なぁ?白濁液のついた手で女のあそこ触ると妊娠するってほんとか?」
って言ってきた時は流石の俺も大爆笑したが。
「なににやけてんだよ。」
大河が不思議そうに尋ねる。
「思い出し笑い」
「嘘付け!エロイこと考えてただろ!?」
「前のお前のこと思い出してた」
「お前バイだったのか!?」
アホなやりとりをしていると教室に佐織が入ってきた。
大河がいつものよう佐織に挨拶をしにいく
「おはよー佐織ちゃ…ん?」
佐織は教室に入るとすぐに俺をキッっと睨みつけた。
そして何事もなかったかのように自分の席に着く。
いつもなら一緒に登校して同じクラスなのに
「けーちゃんと1m以上離れたくないッ!」
「佐織…これは運命………わかってくれ!」
「そんな!?」
「お前ら仲いいのな…」
みたいな日常がいつもの風景なのにそれが今じゃこれだ。
確かにいつもはやりすぎてる感はあるが。
大河が俺に近寄ってくる
「なぁ……あれ本気で怒ってないか?いつもなら次の日には…いや、その日のうちに
仲直りしていただろ?」
「わかってる。なんとかしないとなぁ……」
タイミングを見計らったかのように朝のHRが始まるのであった。
昼休み。
いつもなら
「けーちゃあああああああああああああん」
「佐織いいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「もはやアホだろお前ら。」
といった風になるのだが今日はそうもいかない。
しかし飯を食わなければ生きていけないわけで購買に向かっている途中のことであった。
俺と同じ購買に行くのであろう女生徒2人が
「ねー?小さい頃は何して遊んでた?」
「んー…そうだなぁ……おままごととか?」
「あー!やったやった!今思えばなんで今おままごととかしなくなったんだろうね?」
「面白くないからじゃない?わかんないけど」
「別に今おままごとやっててもおかしくはないと思うんだけどなぁ……」
「何?やりたいの?」
「そっ、そんなわけないんだらねっ!おままごとやりたいわけじゃないんだからっ!」
そんな話が聞こえてきた、おままごとかぁ……
そういえばちっさい頃は俺もやったな……
知らない人のために一応説明しておくとおままごとといえば大体小さい頃に遊ぶ遊びである。
お父さん、お母さん、子供、人数によっては兄妹などの役を決めてその役。その一家を演じるという遊びだ。
なんか今おままごとやると、お父さんの浮気相手やら、子供をいじめる小学校の悪がきとかの役を付け加えないといけないような気がするが……
「必死に演じなければいけないだろうな」
と笑う。…ん?待てよ…?演じる……か。
良いことを思いついた。そうと決まれば大河に言って佐織に伝えてもらおう。
俺が言っても絶対聞く耳を持たないと思うし……
俺の購買に行く速度は知らない間に早歩きになっていた。
放課後、明日の件もあるし少し町の中心に来ていた。
ここはこのあたりでは一番盛んな所であり、ショッピングモールやスーパはもちろん
いけないホテルもある。ちなみに俺たちも何度か利用した。
一番びっくりしたことは風呂場にでっかい鏡があって外からは風呂の様子が除ける仕様になっていることだ。
あとは………いや、やめておこう。きりがない。
まぁ明日に備えてぶらぶらするのが一番だろう。
「あと買うものもあるしな……」
そう思い日が暮れるまで町を練り歩いたのであった。
翌日、外はからっと晴れていい感じの買い物日よりの天気であった。
さてと…待ち合わせ時間にはまだちょっとあるな。
「早く行くことに越したことはないか……」
そう思いながらいつもどうり気合を入れて出かけるのであった。
待ち合わせ場所、そこにはもうすでに相手が来ていた。
なんやかんや言ってあいつも楽しみにしていたのかも知れない。
「よぅ」
そういって佐織に近づく
「ん…最初に言っておくけど今日は友人として買い物に付き合うんだよ?絶対デートとかじゃないんだからね?」
「わかってるよ。自分で言い出したことだし。」
昨日の昼休み、飯を食った後俺は大河に
「佐織に明日買い物に付き合ってくれって俺が言ってたと言ってくれないか?」
「ん?こんな状況でデートか?」
「違う。友人として買い物に付き合ってもらうんだ。」
「……どういうことだ?」
「つまりは俺が今デートに誘っても絶対に乗ってくれないだろう?だから友人として買い物に付き合ってもらうんだ。
たとえば仮に大河が今佐織に買い物に付き合ってと言えばおそらくあいつならOKをだすだろう?俺は許可しないがな。
許可すると思ったかあんぽんたん。」
「あぁなるほど…何故罵られたかはわからないがわかった。言ってみるよ。でもなんでその作戦が
上手くいくってわかるんだ?断られたら終わりだろう?」
「そんなの決まってるだろ?佐織は俺の彼女だからな。断られないわけがない。」
「臭いこと言ってくれるぜ」
大河は苦笑しながらそれでもがんばれよと励ましてくれた。
上手くいくかはわからない。それでもやるしかないんだ。
…け……けーちゃ………
「けーちゃん!!!!」
突然の大きな声にビクッっと体が反応する。
「けーちゃん?聞いてたの?」
呼び方はけーちゃんのままなんだな。
「あぁ、大丈夫。ちょっと佐織の事考えてた。」
「っ!?そっ、そんなこと言ったって許してあげないんだからっ!」
「さてと…行くか……」
「どこに行くの?」
「始めは服屋でも見て行こうかな……」
「ならけーちゃんに似合う服探してみるね?」
ノリノリだな……おい。
まぁかわいいから許すんだが。そんなやりとりをしながら服屋までを歩いた。
それと一日置いてデレた佐織はもう可愛すぎて道で襲ってしまいたくなるほどだった。
俺は言うまでもなく髪フェチなのだがもう佐織が歩くたびに揺れる黒髪は誘っているのかといいたくなる
ぐらいに俺のさらさらで…綺麗で……やばい。たってきた。若干前かがみになりつつも店に入る。
店員「いらっしゃいませー…えっと……お客様?おなかの調子でも悪いのでしょうか?
お手洗いなら奥のほうにございますので…」
「大丈夫です……」
言えない・・・髪で『たった』なんて口が裂けても言えない・・・
「ちょっとけーちゃんに似合う服探してくる!」
元気な声で佐織がそういう。やべぇ…かわえぇ……
無邪気な子供ってのも普通にいいよね!佐織はなにしても可愛いけど!
佐織は大抵服を選ぶとき少なくとも10分は簡単に有すのでとりあえずトイレに行くことにした。
「……ふぅ。」
すっきりした。まさか外で抜くはめになるとは。
何を抜くとまでは言わないが。
トイレをでてしばらく適当に服を選んでいると
「あっ、いたいた。けーちゃん探したんだよー?」
「わりぃな。ちょっと動き回ってたからな。」
「ねー?ねー?けーちゃんに似合いそうな服選んできたよ?褒めて褒めてー?」
「よくやったな」
そういって頭を撫でてやる。そうすると佐織は「えへへ...」とうれしそうに笑いながら俺の体に頬擦りしてくる。
かわいい。やばい。かわいすぎる。小動物かこの子は。襲いたい。しかしここはぐっと我慢する。
「ちょっ、ちょっとトイレ行ってくるわ。」
そういって佐織の頭を撫でるのをやめると残念そうに佐織は「行ってらっしゃい...」と言うのであった。
「……ふぅ。」
これで何回目だろうか?服屋で2回、本屋で一回(佐織がちょっとHな本を顔を赤くしながら読んでいたので)、
スーパー食品売り場で一回、(佐織がどうも精力がつきそうな食べ物ばかり買うので)、婦人服売り場で三回(下着売り場だな)、
もしかしなくても頭も体もやばいのかも・・・
そうして日が暮れかけて少し公園によってからもう帰ろうと言う時、佐織がこう切り出した。
「ねぇ…この前の事なんだけどさぁ……」
「ん?」
まずいことになったな・・・
「あのことだけどさぁ…私のほうも少し悪かったかなぁ…って………」
「やめよう、その話は。今日は一日は友人同士なんだ。恋人としてここに来たんじゃないだろ?」
「そんな…仲直りしようと思って買い物に呼んだんじゃないの!?」
「それは違う。俺はただ買い物に付き合って欲しかっただけだ。」
胸が痛む。思っていることと違うとこを言うのはこんなにも辛いんだな…
ほんとは抱きしめたい。俺のほうこそ悪かったって。あいつの言うこともわかるから。高校が終われば普通は二人離れ離れになってしまう。同じ大学にでも行かない限り絶対に二人が会う機会は大幅に減るだろう。
「俺の方こそごめん。」そう謝って今すぐにでも抱きしめたい。
でもそれじゃ駄目なんだ。佐織のことはよくわかってる。こいつは言い出したら絶対にそれをやるやつだ。
俺が生半可な気持ちで佐織を説得しても絶対に俺の行く大学にいくと言うだろう。
だから…だからこそ俺も本気で向かわなければいけない。本気でぶつかってあいつの元の進路に
戻さなくては。それが一番あいつのためになるって知ってるから。
「そっんなっ…あんまりだよ……ひどいよ………」
佐織の声が震えてる。
「こんなっ…喧嘩したまま高校を卒業するなんっ…て……ひぅっ…いやっ…だよ………」
佐織が泣き出してしまう。
俺が泣かせた。俺が佐織を泣かせた…もう後戻りはできないな……
「明日、<恋人>として。話がある。来るか来ないかは自由だ。佐織に任せる。学校の、俺がお前に告白した場所で待っている。」
そう公園に一人泣く佐織に言い残して俺は家に帰るのであった。
ガチャリと家を開ける。
この時間なら家には誰もいない。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
佐織を泣かせてしまった。佐織に嫌われないかな?大丈夫かな?今はもう佐織も家かな?まだ一人で公園にいてないよね?
寒くて風邪引いたりしないだろうか?悪い男に引っかかってないだろうか?誘拐されていないだろうか?そんなことがあったら
俺は…俺のせいだ……
しかし、それらを調べる方法はない。ここで佐織と連絡を取ってしまうとすべてが台無しになる。
そうだ…大河に無事かどうか確認を取ってもらおう。そう思いアドレス帳から大河に電話をかけてみる。
「・・・・・・・・」
でない…
「・・・・・・・・・」
「がちゃっ。もしもし?」
「遅ええよごらああああああああああああああああああああああ」
「声がでけぇ!声がでけぇ!!圭一か!?ってかケータイ鳴ってからまだ5秒もたってねぇぞ!?」
「1秒でとれやああああああああああああああああああああああああああああああ」
「うるせぇよ!用件は?」
「そうだ!佐織!佐織は無事か!?」
「んー・・・なんか知らんが佐織ちゃんの無事を確認すればいいんだな?わかった、電話切るぞ。」
さすが親友と言うところか、俺の言いたい事を即座に判断する。持つべきものは友だな。
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
遅ぇ………遅ぇ……………
そしてケータイが震えだす。
「遅ぇよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「うるせぇ!佐織ちゃんは無事だってよ。今からお風呂入って寝るとこだって。」
よかった…本当によかった………
「よかったぁ……って口説いてねぇだろうな?もしそんな事してみろ…こ○す……」
「わかってるって。それに佐織ちゃんはもうお前のもんだろ?いまさら佐織ちゃんが俺を好きになると思うか?
そんな心配してる暇あったら明日の事考えとけ。あとジュース一本おごりだからな?」
「出世払いで。」
「利子1時間に3倍な?」
ツー…ツー……
一方的に切りやがった…
まぁ佐織の無事がわかったし。明日に備えて寝るか。なにせ明日は人生で一番の大勝負になるんだからな。
その夜は不思議と落ち着いていた。どこから来るのかはわからないが絶対的な自信があったからだ。
なにせ、相手は俺の彼女。宇宙一可愛い彼女。佐織なのだから。
卒業式当日。
高校最後の思い出を作るために同じクラスの連中が泣いたり、笑ったり。騒いだり。写真を取ったり。
その日、いつもは授業中で静かだった教室が本当に宴の会場のようになっていた。
知らない間に大河が後ろにいた。
「よう、卒業おめでとうな?」
「あぁ…」
「おいおい…そんな元気ないんじゃこの後どうするんだよ。」
「ん…そうだな。大河、卒業おめでとう。あと、今までありがとな。」
大河は俺と違う進路、専門学校に行くらしかった。
大河にもやりたい夢があるのだろう。しかし、今までずっと一緒だった幼馴染と離れるのは
やっぱり堪えるのだ。だから自然にそんな言葉が出ていた。
「なっ、なんだよっ…いきなりっっ……そんな一生会えない訳じゃないんだから…」
「いやっ、なんかっさ…ほんとにありがとうって思ったんだよ…お前がいなきゃ、こんなに楽しい高校生活はなかったと思う。お前がいなきゃ佐織とも出会えなかった
かもしれない。だからっ、ほんとにっ…ありがとうってっ……」
「っやめろよ…照れるだろうが………」
大河は苦笑いをしながら泣いていた。
「だぁああああ!!!言われっぱなしじゃ生に合わねぇ!圭一、お前もこれまでこんな馬鹿と一緒にいてくれてありがとうな。感謝してる。これからは少し会う機会が少なくなるかもしれねぇがこれまでどうり仲良くいこうぜ!!」
「っーーーー」
確かにこれはやばいな…
目の奥が熱くなってきやがる……
「だからさ・・・お前はもう行け。もう佐織ちゃんが待ってるだろ?あの校舎裏の桜の木の下に」
「あぁ」
大河とはまた合える、しかし佐織は今行かないと合えなくなる可能性だってあるんだ。
だから…また合える大河には……
「じゃあな、大河。また今度!」
「あぁ、また今度!」
そう言って俺は教室を飛び出すのであった。
「ちっ…最後ぐらいは泣かずにカッコイイとこみせようと思ったのにな…泣いちまった。」
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昨日けーちゃんとわかれた後、私はずっと泣いていた。
そして最後にけーちゃんはこう言った。
「明日、<恋人>として。話がある。」
と………
別れ話でもされるのだろうか?
どうして?こんなにけーちゃんが好きなのに、好きでたまらないのに。
だから私は廊下で一人とぼとぼと歩いていた。けーちゃんは来るか来ないかは自由だと言っていた。
だから行かないという選択肢もある……そんな時
「あっ!いたいた!」
「大河君…」
大河君はけーちゃんの親友であり幼稚園の時から一緒のだったそうだ。だからけーちゃんのことは大体わかる。
「どうしたの?」
「どうしたもないだろ?行かなくていいのか?校舎裏。」
あぁ、けーちゃん大河君に言ったんだ、あの事。
「ねぇ?大河君。もし今校舎裏に行ったとして何を言われると思う?」
大河「そんなのはわからん。いくら親友でも俺は圭一じゃないからな。だけどひとつ言える事がある。佐織ちゃんは行こうかどうか迷ってるんだろ?なら行ったほうがいいんじゃないかな。ここで行かなくて後悔するより行って後悔したほうが良いんじゃないかな?少なくとも俺はそうする。まぁ佐織ちゃんが行きたくないって言っても無理やり連れていくけどな。親友の高校生としての最後の頼みだ。断るわけにはいかない。……頼まれてないけどな。(ボソッ」
最後のほうはよく聞こえなかったが考えがまとまった。
と同時に私の足は校舎裏へ向かって走っていた。
「これで借り2、ジュース2本だな…いや、今回はただ働きでいいか。悪い気はしないしな……」
大河に言われて教室を出た後俺は全力疾走で校舎裏に走っていた。もしかしたら佐織が俺を
待っているかもしれない。いや、もう俺が来ないと思ってもう帰ったかもしれない。
そう思うと歩いて校舎裏になんて行ってられなかった。ただ夢中で走り続けた。
そして桜の木の下に佐織は…いなかった。
考えられるすべての可能性が脳に浮かぶ。
遅かったか?
時間を決めておいた方がよかったか?
もう俺たちは終わりなのか?
こんな、喧嘩したまま終わるなんて、絶対にいやだ。
自然と涙がこぼれる。佐織とすごした日々は楽しくて、幸せで、時には喧嘩もしたけどすぐに仲直りして、笑いあった、
そんな幸せな日々が今日、終わるのか?
「けーちゃん……?」
そんな、聞きなれた、俺の好きな佐織の声が後ろから聞こえた。
「佐織!?」
「けーちゃん?どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。」
「けーちゃん。恋人としての話って…なにかな?」
「佐織、よく聞け。お前は元々行くはずだった大学に行け。」
「なんでよ…なんで!?けーちゃんは私と一緒にいたくないの?そんなのって…そんなのって……ないよ……」
「んなわきゃねぇだろうがっ!!!!」
イラついた、だから精一杯の声でいってやった。
「俺が…俺がどんな思いでここまで過ごしてきたか!俺だって一緒にいたいよ!ずっと一緒がいいんだよ!一緒にいたくない!?ふざけんなよ!こんなに佐織が好きなのに……こんなにもも好きって思ってるのに離れなきゃならない…そんなのってねぇだろ!!佐織と過ごした時間は楽しかった、幸せだった、かけがえのなかった。最後はちょっと辛かったけどさぁ…これが終わりなんていやだろうが……」
感情のままに言葉を発する。
こんな……喧嘩したまま二人が終わりなんていやだから。
だから…だから……
俺はこの日のために取っておいた秘密兵器を取り出す。
「えっ...」
佐織が小さく声をもらす。
「これ、受け取って欲しい。大学を卒業して俺はお前に釣り合うような男になる。
だからそれまでの間、少しだけ待っていてくれないか?」
そうして
桜舞う季節に
二人の物語の終わりと、
二人ではなく、俺たちの物語が始まるのであった。