前編
『ヴァーチャルリアリティーで乳が揉めます』
5月の連休中日、両親は出張、友達は旅行で一人暇をもて余していた高校二年生の柳川健はそんないかがわしい名前のフリー配布VRソフトをインターネットの海から掬い上げた。
初めは医療用から開発されたVRだったが、五感を擬似的に感じられるというのは他分野においても非常に魅力的であっため、様々な企業によりVR技術は爆発的に発達した。いまやVRソフトをパソコンにダウンロードし、脳に働きかけるVRヘルメットを通して使うことが家庭でも一般的になっている。
『ヴァーチャルリアリティーで乳が揉めます』は18禁ではないが、16歳以上推奨になっている。
VR技術の開発以来従来のアダルト雑誌と同じようにアダルトな内容のソフトには18歳未満禁止がかけられており、また18禁でないVR内では全キャラクター自他問わず胸と股間は接触・脱衣が出来なくなっている。これらは青少年の健全な育成のため、そして仮想現実であるがために性に対し開放的になってしまう輩の取り締まりが難しいためシステムに組み込んであるのだ。
18禁ソフトの認定を得るには多額の資金が必要であり、ほとんどのアダルトソフトは有料である。もしも18禁認定を受けずにアダルトソフトを公開し発覚した場合、一ダウンロードにつき三万円以上五万円以下の厳しい罰金が配布元に課せられる。
それを考えると大方この『ヴァーチャルリアリティーで乳が揉めます』はいわゆるタイトルだけの洒落で作られた釣りソフトか、逃げ切る事の出来る自信のある猛者が制作したものかのどちらかである可能性が高い。
健は『ヴァーチャルリアリティーで乳が揉めます』の説明画面をじっくりと見る。
サムネイルの画像にはチェックの半袖シャツにオーバーオールといったカントリー系の服装をした女の子が二人、花壇の前で微笑んでいる。片方は巨乳、もう一方は未成年に見える。巨乳の方は健の好みであった。
「いろんなタイプのコがいます。小さいコから超巨乳まで。」
簡素な説明と動作環境しか書いていない。
釣りだとしてもサムネイルに表示されている女の子が3Dで見られるだけでもいいかもしれない、と健は思った。
健はお色気ソフトが大好物であった。規制が掛かっているため、18歳に満たないものは違法ソフトでしか性欲をVRで満たすことは出来ないのだが、ペナルティや開発資金のためにそういったソフトは少ない。お色気な雰囲気を目に焼き付けてあとでというのもなかなかいいものだ。
ウィルスがないことをチラリと確認して、健はパソコンに『ヴァーチャルリアリティーで乳が揉めます』をダウンロード、インストール、デスクトップのアイコンをクリックする。そしてVRヘルメットを被った。
「『ヴァーチャルリアリティーで乳が揉めます』を開始しますか?Y/N」
「イエスっと」
安価なヘルメットによくあるヴォーンという音がだんだん遠ざかっていく。
目の前にいつもVRで最初に出る基本素体が現れた。中肉中背よりは若干背が小さく、ティーシャツ短パン姿である。現実の健の体にかなり近いものだ。
「いらっしゃいませ。『ヴァーチャルリアリティーで乳が揉めます』では顔、髪の毛、肌の色そして服装が選べます。なお、体型が選べないのは仕様です」
体型はディフォルメキャラでプレイするもの以外では大概のソフトで変えられることが多いので、変えられないのは珍しかった。
健は普段はあまり変えない派なのだが、身長、筋肉など少し格好をつけたかったので残念に思いながらキャラメイクをしていく。目と眉をいじり本人よりも若干イケメンにする。
問題は服だ。なぜかマニアックにオーバーオール、ツナギ、チェックのシャツにジーンズなどカントリー系か機械工みたいな格好しかない。
健はまあ、女の子達もそういう格好だし、世界観的なものだろうと思ってジーンズ生地のオーバーオールにフードつきの黄色いトレーナーを選んだ。