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3 ジョン・スミスの微笑み

 国王の計らいで三人兄弟も同席することになり、城の奥まった会議室に話し合いの場所を移した。縦長い部屋の形に沿うようにコの字型に会議机が配置されて、国の重役たちがずらりと並ぶ。

 惑星人は部屋の中央に堂々と進みでて、事情を知らない三人兄弟のために名乗ることから始めた。


「王子さま方、お初にお目にかかります。私はジョン・スミスと申します」


 そこでウィーンはぷはっと笑う。二人の兄は反応しなかったが、本をよく読むウィーンには分かった。その様子を見て、帽子の彼はにっこり笑う。


「私の冗談を分かって下さり光栄です」

「どういうことだ」


 エドが隣のウィーンに問いかける。


「ジョン・スミスってのは名無しですよってことなの」

「からかっているのか」


 笑うウィーンとは対照的にアーサーは真面目に怒りを噴出させた。


「失礼」


 コホンと咳払いすると男は居住まいを正した。


「私はノアと申します。世界の果てよりこの地に参上したものです」


 ノアが手をパッとひっくり返すとその手に一輪の青いバラの花が出現した。どよめきが漏れる。魔法を使うなんて、やっぱり彼は正真正銘の惑星人なのだろうか。


「ブルーローザという天空にある島です。神の命を受けた私は巨大な飛空艇へと乗船し、半年前にブルーローザを旅立ちました。神の命とはただ一つです。八年後の七の月と七の日に訪れる世界の終わりから人々を救いブルーローザへ連れ帰ること」

「天空の島」


 つぶやいたウィーンにノアは微笑む。


「夢があると思いませんか」


 ノアは青いバラをウィーンに差し出した。それを受け取るとほのかに太陽の香りがした。


「待ちたまえノア」


 国務大臣が低い声で発言する。


「神が世界の終わりを招かれるとして。人々を救うのがキミの使命ならば、ひとりでも多くの国民をブルーローザとやらへ連れて行くことが……」


 ノンノンノンといながらノアは人差し指を振る。


「神は何のために世界の終わりを招かれるとお思いですか」


 答えを見つけられない国務大臣は「それは」といって考えこんでいる。


「神は絶望しておられます」


 ノアはあっさりとそういって話を続けた。


「この世界を創りし神は大地を人間たちに託しました。願わくば清廉な世界になって欲しいと願いをこめて。けれどその願いに反して人間たちは争いを始めました。多くを望み、傷つけ星の魂を阻害した。よって神は怒りの雨による大洪水で世界を洗い流すことを決意されたのです」


 少し難しいですか、とウィーンに問いかけたが小さなウィーンが首を振ったのでノアは話を続けた。


「世界で清らかな魂を持った三人の人間とその愛する者だけを残し、人類は滅びます。浄化の終わった世界で彼らの子孫が繁栄すると再び素晴らしい時代がやって来ると神は預言しておられます」


 『預言』という言葉にはどこか重みがあって、だからさすがにそれに逆らいたいといい出す者はいなかった。


「我々は皆死ぬということかな」


 国王の達観した問いかけに息をのむ。とても怖い事実だとウィーンは思った。


「残念ですが」

「そうか」

「ですが、三人の王子さま方は生き残ります。なぜならあなた方こそが選ばれた人間だからです」


 ノアは颯爽と手を広げて王子たちに歩み寄った。


「お前の話を信じると思っているのか」

「神のお告げですよ」


 アーサーの叩きつけるような眼差しにひるまず、ノアはにっこりと笑う。


「三人の心優しき子供たち。私はあなた方をブルーローザへと連れ帰るためにこの地を訪れました。三人の子供とそのつがい……おっと失礼。伴侶を選んでブルーローザで世界が浄化されるのを待ちます。あなた方には世界の未来が託されているのです」


「ノア」


 話しかけたのは王妃だった。


「三人とも大切な子です。まだ幼く、手元から放し見ず知らずの者に預けることのできる親がいると思いますか」

「おお、なんと」


 ノアは世界最大の悲劇を見たばかりの観客のような表情でジェスチャーをする。


「私は失念しておりました。あなた方とお子さまとのつながり。それは切っても切れる物ではありません」


 帽子を脱ぐとペコリと王妃に向かって頭をさげる。


「一週間差し上げます。その間にお覚悟をお決めになりますよう」


 話を終えると三人の王子たちは部屋に戻され、国の役職に就いた者たちが早速会議を始めた。話し合っているのは恐らく自分たちをどう手放すかということについてだろう。あまりのショックに盗み聞きする気にもなれず、ウィーンは部屋に籠ってベッドでしくしくと泣いた。


 大好きな者たちが死ぬ。一人残らず死ぬ。そのことも悲しかったが、何より両親と離れることが辛かった。自分はどこかの知らない天空の島へと連れていかれてしまうのだろうか。

 顔をマクラに伏せて泣いているとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。ウィーンは涙にぬれた顔をあげて、ドアの方を見る。居住まいを正した。もうすぐお茶の時間だ、召使いだろうか。


 静かに開いて、入ってきたのはアーサーとエドだった。


「兄さんたち、どうしたの」


 目元をぬぐいながらウィーンは問いかける。気真面目なアーサーはともかく、普段はふざけているエドでさえ真面目な顔をしていた。アーサーが決心したように口を開く。


「ウィーン、家出するぞ」


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