6 金貨の価値
早朝、一行は息子に案内されながら町の裏山で植物採集を行った。種の収穫できるものは種を取り、種の無いものは植物本体を土ごと採取する。それぞれ持ってきたリュックやバッグに簡素に梱包して植物を入るだけ詰めこむ。小さく可憐な花や花の無い植物、「どれも大事な未来の生き物だよ」とノアは歌うようにいった。
採取をあらかた終えて休憩をする。陽は良く照り、長袖が少し暑いくらいだった。
「あのさ」
エドが呟いた。話しかけられた息子が耳を傾ける。
「子供を売るっていうのはさ、やっぱりお金がないから?」
エドの思考はウィーンやアーサーに比べてゆっくりで、でもちゃんとしっかり考える。そもそもの所から気になっているのだろう。
息子はそれに答えなかった。
「お金があれば売らなくて済むのか」
ウィーンはエドのリュックの中身が気になった。差しだそうとしているものとその決意。それが優しいエドの本性なのだと思う。
「あなた方には分からないことでしょう」
息子の声に皆耳を傾けた。
「良い洋服をまとい、学術調査だとか崇高なことに人生の時間を費やせて、食べるのにも困らなければ生きるのにも困らない。手にしていたおもちゃの価値だって知らなかったでしょう。アレがあれば一週間は暮らせるんだ」
「あのさ、オレのおもちゃ……」
「あの子が初めてではないのです」
息子の言葉に心が凍る思いがした。
「これまでに子供を六人売った。皆いい金になりました。生きていくために仕方がないのです」
エドは言葉の続きがいえなくて押し黙る。
「目的を終えられたのであれば、早く町を出た方がいいです。昨日、金貨を渡されたのでしょう。専らの噂です」
「ああ、あの子喋っちゃいましたか」
ノアは頭を抱え、アーサーをじっと睨む。
「あの子は昨日殺されました」
「えっ」
全員で声を漏らした。
「金貨を受け取ったところを誰かに見られて、殺された挙げく金貨は奪われた。こんなことをいいたくありませんが、あなた方がおいでにならなければ、そもそもあの子は死ななくてよかったのです」
エドは唇を噛み、今にも泣きだしそうな顔で地面をじっと見つめている。
「そうですか、では我々は採取が終わり次第、この地を去ると致しましょう。なんというか、この地はあまりに……」
ノアが皮肉をいいだしたのをアーサーが咳払いで押しのける。
「目的は遂げた、ガリバルダ号へと帰ろう」
宿屋に戻ってあいさつするときになっても、エドはしょんぼりと沈んでいた。家人と対面して、一夜のもてなしに感謝する。三人の子供たちが寄ってきたので、エドはしゃがんで視線を合わせる。
子供たちの顔を見て、エドは声を詰まらせるとリュックを下ろして荷物をバラし始めた。
家人たちは驚いていたけれど、エドは全てのおもちゃを出し終えたあと、涙交じりの声で「全部あげるよ」といった。
みんな驚いてエドに視線を向ける。家人たちもさすがに嬉しいなんて笑顔は浮かべていなかった。
「本当に?」
「本当だよ」
子供たちは喜びを噛み締めるようにじわじわと笑顔になっていき、おもちゃをむさぼるように手に取ると室内を嬉しさいっぱいに跳ね回った。
「キミたち……」
老人がなにかに打たれたようにぽつりと呟く。
「アーサー兄さん、アレも出して」
エドは涙を拭いながら、手をアーサーの前へ伸ばした。
アーサーは躊躇していたけれど、エドが強い口調で「早く」と急き立てたため仕方なく応じた。
金貨が山ほど入った袋。それを手渡しながら、エドは自らの思いを告げる。
「子供、皆売らないで欲しいんだ。大きく立派な大人になるまで育てて欲しいんだ」
中身を見た老人たちが驚愕の表情を浮かべる。
「こんな物受け取れば……」
「オレたち誰にもいわないから。約束する。だからこっそり少しずつ使ってほしい」
家人は最初躊躇していたけれど、感激した様子で受け取ると何度もお礼を繰り返し、姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
 




