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5 厳戒態勢の町で

 ノアに相手にされず、退屈になったウィーンはワイズポーシャの町を散策することにした。

 掃き清められた町にはたくさんの巡回兵の姿がある。事情を知ってしまったから、なんとなくレッドエデンとの戦争に備えての警戒だったんだなと悟ってしまった。いつでも戦えるように、いつでも殺し合えるように。


 道ゆく人々の顔に笑顔はない。緊張したような面持ちで黙って親子が手を繋ぎ歩いている。親子は身を隠すようにさっと路地裏に入ると消えてしまった。

 商店もあるようだが買い物をしている人はごく少なく、露店という物は皆無である。皆、忍び寄る戦争の気配に怯えているのかもしれない。


 つまらない、戻ろう。と思ったとき声をかけられた。


「おい、子供」


 振り向くと厳格そうな兵士がウィーンを見おろしていた。


「はい」

「子供が一人で出歩いてはいけないことになっている。家はどこだ」


 そんな厳しい規則もあったようだ。世界にはそういう悲しい国があるのだ。


「えっと」

「どこの子だ」

「その、ボクは」

「すみません、その子はボクの子供なんです」


 飄々とした声が後ろから降ってきて、驚いて振り向くと決めポーズのノアが立っていた。


「お前はなんだ」

「国王陛下の賓客ですよ」


 国王陛下という言葉で兵士は身をにわかに引く。身を慎んだのかもしれない。


「そうか、それはすまなかった」


 そう謝罪すると彼は速やかに立ち去った。


「ダメじゃないかウィーン、勝手に出ていっちゃ」

「ごめんなさい」


 しゅんとして謝るとノアがにっこり笑う。


「いいよ」


 ノアはそう軽くいって、優しい微笑みのまま手を繋いでくれた。心がじんとする。とても冷たいけれどしっかりとした手だ。小さな手を包む大きな手のひらの感触に、つい自身の父を思いだした。幼きころ父と城の中を手を繋ぎ歩いた記憶を。



――ウィーン、世界には色んな国がある。全て違う国だ。違うということは忌むべきことではないよ。自分と違う文化のことを知り、初めて人や国は成長していくんだ。



 深い父からの学びを思いだす。なんだか居た堪れない気持ちになった。尊い父の教えその物がこの国には理解してもらえない気がした。


「ねえ、ノア。この国にはいたくないよ。帰ろう」

「そうだね、ボクもそう思う」


 言葉を交わして黙って二人で並んで歩く。とても心細かった。故郷の町はそれほどに温かかったのだ。

 吐息して顔をあげると、ふいに走っていく兵士の後ろ姿が見えた。随分と慌てている。


「なにかあったのかな」


 前方には兵士の集団がある。遠慮したが見てよと頼まれると、ノアに肩車されて喧騒の中心をのぞきこんだ。

 一人の青年が数名の兵士たちに押さえつけられて殴られていた。


「貴様、誰に手引きされた。どういうルートで侵入した」


 会話の内容からすると殴られている青年は異国のスパイなのかもしれない。青年は腫れた顔で負けじと声を張りあげる。


「ワイズポーシャこそが侵略者だ。誇り高きレッドエデンの土地にあのような飛行機械を招いて。恥を知れ!」


 兵士は青年の頭を激しく殴りつける。


「あの土地は我がワイズポーシャの領土だ。どのような来客がこようと他国に干渉される覚えはない」


 ぺっと口から血を吐くと拘束された青年はにやりと笑った。


「野蛮なサルどもはラマリエの地から去れ」


 その後数人の兵士に寄ってたかって暴行を受け、青年はどこかへ連行されていった。

 人が去り、騒ぎは静まる。また元の厳格な町に戻った。


 さすがにショックでなにも話せないままウィーンはとぼとぼと歩いた。


「たぶんガリバルダ号を見て、この国が他国から増援を呼び寄せたと勘違いしたんだろうね。敵国のスパイはその動向を探るため」

「どうして仲良くできないんだろう」

「それが大人さ。ああ、でも勘違いしないで。キミはきっと賢い大人になる」

「大人になんてなりたくない」 


 ノアの手を持つ指に力をこめた。今日のノアはふざけていない。だから嫌なことばかり起こるのかもしれない。


「もうじき戦争になる。明日、書状を貰ったら即この国を離れるよ」


 ウィーンはレッドエデンに向かった兄たちの動向が気になった。


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