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Noah【ノア】~天空都市ブルーローザへの旅立ち~  作者: 奥森 蛍
2章 飛空艇ガリバルダ号
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2 ノアの嘘

 ノアの奇怪なお喋りを耳にしながら、しばらく歩いてやっと到達した船の最後尾、廊下の突き当たりに一つ部屋があった。特別室を思わせる両開きの彫刻が掘られた木の扉。随分歩いたけれど、もうこれ以上の向こうはない。


 扉の前でさてと、とひと呼吸置くとノアは取っ手を握りしめた両手に力をこめた。


「さあ、キミたちの部屋はここだよ」


 じゃじゃーんといって彼が勢いよく披露したのは、びっくりするほど大きなワンルームだった。突き当りの壁いっぱいに長大なガラスがはめこまれて空の景色が一望できる。ベッドが窓際に横並びに二つあって手前に一つ。一人で使用するならば城のひと部屋よりも広い。

 ただ配色がどうにもノアの好みのせいか、幾分派手で毒々しい。深緑とマゼンタと赤を接ぎ合わせたキルトのベッドカバーなんてまるで冗談みたいな組み合わせだ。


「気に入らなければカーテン、ベッドカバー、枕全部変えていいよ」


 ノアは上機嫌で扉に背を持たせてこちらの様子をにこにこと眺めている。


「うわあ、すげえ」


 好奇心の塊のエドが窓辺に寄り景色を見て感激した。ウィーンもそばに寄る。

 数十分前だというのにセシルブリュネの国がもうあんなに小さい。


「キミたちを思って用意した特別室さ、絶景だろ。部屋にいながらいつでも外の景色が楽しめる」


 ノアが自慢げに鼻を鳴らした。

 見おろすセシルブリュネの深緑の森はとても大きくて、森が続く限りはセシルブリュネの領土だと家臣から聞いていた。


 そうか、尊愛する父はこの広大な森の王なのかと誇らしく思った。


 案内の間中、ずっと黙っていたアーサーが荷物を置いて手前のベッドに腰掛けるとため息をついた。


「ノア、それでブルー……」

「ブルーローザ?」


 そう、ブルーローザ。といってアーサーは続けた。


「ブルーローザにはどのくらいで着く?」


 当然の疑問だったかもしれない。どこにあるかも分からない天空の島への旅路だ。ウィーンも興味ある。

 そうだねえと顎に手を当ててノアは思案した。視線をあげて頭でなにやら数えながら百面相したあと、にやにやと笑い指を立てて宣言した。


「ざっと、八年だね」

「は」

「はちっ……」

「八年!」


 あまりのインパクトに三人とも目を剥いてしまった。


「ああ、勘違いしないで。いくのに八年もかかるわけじゃないんだ」


 いっていることが理解できなくて三人とも話しに聞き入った。


「大雨から地上のより多くの生物種を救わなくちゃいけないから時間がかかるんだ。この船でのキミたちの仕事はそれを手伝うこと。丹念に世界中を回るとそのくらいは経っているよ」


 アーサーは苛立たしげに吐息した。


「聞いてない」

「いってなかったけ?」

「いってない!」


 エドはそう突っこんだあと、「まあいいや」といって窓際のベッドに飛び乗った。スプリングベッドらしく、ぼよんと体が弾んむ。


「寝てみろよウィーン。気持ちいいぞ」


 ウィーンはエドを真似てもうひとつの窓際のベッドに飛び乗った。城では行儀が悪いと禁止されてやらなかったが、やってみるととても爽快だ。ベッドの揺れが収まるとそのまま横たわり、呪いみたいな色のベッドシーツを握りしめながらこれで八年か、と思った。


 アーサーが手を広げ、憤りをあらわにした


「まずブルーローザにオレたちを連れて行って、要件を済ませた後でセシルブリュネにオレたちを帰し、お前一人で動物を集めれば良いだろう」

「冷たいこというねえ」


 ノアはくつくつと笑った。


「セシルブリュネには二度といかないよ」

「えっ」


 思わぬセリフに三人は言葉を失ってしまった。


「世界の終わりは止められないんだ。例えそれが一国の王子でも。沈むと分かっている国にキミたちを戻すつもりはないよ」

「だって、神さまと対話してそれで……」


 ウィーンの小声をノアは笑う。


「アレは嘘さ。キミたちを救い出すための嘘」


 嘘という言葉に心が凍った。騙されたという思いの洪水が脳内に押し寄せて、頭の中をかき乱す。父、母、城の者たちの大好きな笑顔が一緒くたになり洪水の中へ消えた。

 言葉を無くした三人に向かってノアは快活に伝えた。


「そうそう、ご飯は一日二食にしよう。皆揃って食べるんだよ。ちゃんとお祈りをしてからね。時間は適当でいいよ」


 それをいい終えると部屋を出てどこかへといってしまった。

 ウィーンはあまりにも絶望的な気持ちになり、心の中にぽっかりと穴が空いてしまった。


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