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ロッカーから鳴り響く音!?


「わぁー! なんも変わんないねぇ!」


「そりゃそうでしょ。同じ作りなんだから。つーか、個人部屋うらやまし!」


「それな!」


「ってぇ、サッキー、あたしと一緒じゃ嫌なのかぁ!?」


「あひゃひゃ! くすぐんのずるいー!」


部屋へ入ってきた佐々木さんと加賀美さんは、突然二人でいちゃつき始めた。

ちらちらと肌色が見え隠れしているので、正直目のやりどころに困る。


「わぁ! 田端くん、折り紙が趣味なんだ!」


 井出さんは机の上へ置きっぱなしの折り紙恐竜をみて、目を輝かせている。


「うお! この折り紙恐竜クオリティたっけぇ! これ田端くんが!?」


「あ、えっと、まぁ……」


 実際は橘さんが俺の参考にと作ってくれたものなのだが……話が色々と面倒な方向へゆくと困ることになりそうなので、そう応えておいた。


「じゃあ、田端くんに作り方教わろうか!」


「それな!」


「え? い、今から……?」


 どうやら佐々木さんたちはすぐに帰ってはくれないらしい。

それにロッカーには橘さんが隠れっぱなしなので、あまり長居をされては彼女に申し訳ない。

とはいえ、せっかくこうして来てくれたのですぐに追い出すのは邪険にするようで悪いわけで……


「消灯時間も近いから、一回だけ、な?」


「ノリ良いねぇ!」


「んじゃやろやろ!」


 正直、元の世界ではこんなにまで女子に囲まれたことがなかった。

なので、かなり興奮している感は否めなかった。


「あ、あのっ!」


と、そんな中、突然井出さんが切羽詰まったような声を向けてくる。


「ど、どうしたの?」


「えっとね……そ、その……折り入って、田端くんにお願いが……」


「な、なんだい?」


 ずっと俯き加減でモジモジしていた井出さんは、意を決したかのように、頬を真っ赤に染めながらこちらへ熱い視線を向けてくる。


「田端くんの筋肉、触らせて貰えませんか!?」


「は、はいぃ!?」


「でたー井出の筋肉フェチ! でも私も確かに気になるなぁ〜」


「サッキー、奇遇。実は私も〜!」


 なんだか話がおかしな方向へ行きつつあり、ものすごい不安を覚える。


「いや、なんで、俺の筋肉なんかを……?」


「だってここ最近、田端くん、鍛錬頑張ってて! すごく良い体になってきてて! 私、一度、同い年の男の子の筋肉触ってみたくて! はぁ、はぁ!」


 井出さんは鼻息荒く、やばい目つきで熱くそう語った。


 さすがにロッカーの中には橘さんがいるので、これはまずいと思うも、


「ほれ!」


「井出、今だぁ!」


 佐々木さんと加賀美さんが両脇から俺をガッチリホールドしてきた。

女子であろうとも、普段から鍛えている二人の拘束は容易に解けそうもない。


「ちょ! ま、まって!」


「わぁー! 田端くんの上腕二頭筋、すっごいじゃん!」


「わかるー! こんなんで、ギュッとされたら、私イチコロかもぉー!」


「はぁ……はぁ……! 田端くんの……男の子の筋肉……はぁ、はぁ……!」


 焦りとか、恐怖とか、興奮とか。

色々な感情がごちゃ混ぜになっている俺へ、井出さんはにじり寄ってくる。


 するとそんな中、部屋中へ"ドンっ!"といった、激しい音が響き渡った。

 井出さんをはじめ、左右の二人も驚いたのかビクンと背筋を伸ばす。


「な、なに、今の音……?」


「ロッカーから……?」


 3人の視線が、橘さんが隠れているロッカーへ向かって行く。

 俺の難はとりあえず逃れたが、また次の問題が発生してしまっている。


(このまま体を触れるのもまずいし、ロッカーの中を覗かれるのもマズい! どうしたら良いんだ……!)


 そう俺が頭を悩ませている時のことだった。

突然、部屋の扉が開け放たれる。


「君たち、青春はいいけど、ちょっとうるさいぞー?」


「す、すみません! 真白中尉殿!」


 この際、懲罰でもなんでも受ける覚悟で、中尉の名前を叫んだ。

すると3人はすぐさま、俺の拘束を解き、中尉殿へピシッと敬礼をしてみせる。


「「「もうしわけございません、中尉殿!」」」


ようやく3人から解放された俺もまた、中尉殿へ敬礼をする。


「もぉ……美咲基地うち、課業外の時間は、わりとゆるゆるだけどさぁ……そういうのはねぇ……もしもこれを見つけたのが翠ちゃ……林原軍曹だったら、どえらいことになってたよ? たぶん、明日からのお休み取り消しとか!」


 真白中尉の言葉に佐々木さんたちは顔を真っ青に染めている。


「そういうことはね、バレないようにやる! これ鉄則! 今回は見逃してあげるけど、次は無いからね? それじゃ解散っ!」


「「「りょ、了解!」」」


 3人は再度背筋を伸ばし敬礼をすると、脱兎の如く、俺の部屋から飛び出して行くのだった。


「田端くんも、ちゃんと反省するんだぞ?」


「は、はい。あの……」


「んー?」


「中尉殿は、今のでよろしかったので……?」


 なんだかとても寛大すぎる処遇に、思わずそう聞かずにはいられなかった。


「まぁ、私みたいに緩い人が一人ぐらいは居ないとね。それにさ、私だって、あの翠ちゃんだって若い頃は経験あるし!」


「そうなんですか?」


「本当は規則的にダメなんだけどさ……でも、私個人としては、みんなにも人並みの青春を送って欲しいなって思ってるんだ。なにせ、こんな世の中だからね……」


 真白中尉は少し寂しそうにそう語る。

たしか、中尉たちの世代まではまだ"普通の学校"が存在していたと白石さんの資料から知っていた。

だから中尉殿が何を思っているのかは、なんとなく察しがついた。


「と、いうわけで、今後はくれぐれも気をつけるように! 特に翠ちゃんには! 良いね!」


「は、はい! 寛大なるご処遇、ありがとうございました!」


 真白中尉も居なくなり、ようやく嵐の去った俺はロッカーへ向かって行く。

すると、俺が扉へ手をかける前に、中から橘さんが出てきた。


「お、お疲れ様。長い時間、隠れさせてごめんね」


「……明日、遅刻しないよう注意して、ください!」


「あ、お、おう」


「お休みっ!」


 ちょっと厳しめにそう言って、橘さんは部屋を出て行ってしまった。

今回はちょっと、マズってしまったのかもしれない。

でも、状況が状況だったから、どうするのが正しかったのか、わからない俺でもあった。


(明日からのキャンプでちゃんと今夜の埋め合わせをしないとなぁ……)

 

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