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俺は256訓練隊へ配属される。

「全員、傾注!」


  俺が教室へ入ると、すぐさま聞き覚えのある声が、凛とした雰囲気で響き渡る。

 俺は思わずどきりと心臓を鳴らし、今は声を張り上げた女の子を見てしまう。


「ひぅっ!?」


 軍服を来た橘さんは、俺と目が合うと"ハッ!"とした表情を浮かべる。

しかしすぐさま、元のキリッとした表情に戻る。


「どうかしたか、橘?」


「あ、いえ! なんでもありませんっ! 軍曹殿に礼!」


 橘さんの合図で、蒼太や鮫島さんを含む、総勢30名ほどの"同期になる訓練兵"たちは一斉に礼をしてみせる。

元の世界の学校では考えられないほど、一糸乱れない、綺麗なお辞儀だと思った。


「急遽だが、我が256訓練隊へ、新たなものを加えることとなった」


 256訓練隊の専任教育官である"林原軍曹"が、まずは第一声を放つ。


(この人って、元の世界じゃ、俺の高校の歴史の先生だっけ……?)


 どうやらこちらの世界線でも"教員"的な立場にあるらしい。


「田端、自己紹介を」


「あ、えっと、た、田端 宗兵ですっ! よろしくお願いします……」


 転校は基より、こうして目立つことさえ初めてな俺は、声を上擦らせてしまう。

しかし幸か不幸か、目の前のみんなからは拍手はおろか、言葉一つさえない。


「この者はとある事情によりずっと兵役を免れていた者だ。故に、様々なことが無知である。だが過日のMOAの戦闘において、単機でジュライを撃滅したのは、この田端の活躍に他ならない」


 林原軍曹殿は"白石さん"と打ち合わせした通りの設定を、皆へ知らせてくれる。

ようやくそこに来て、皆は俺へ関心を寄せてくれる。



ーー「元の世界へ戻る方法を一緒に探してくれるなら、貴方のこの世界での身分は私が保証してあげるわ」


先日の面談の最後、白石さんは俺へそう提案してきた。


どうやら白石さんは元の世界へ帰るためにあらゆる手段を講じていたところ、それが多大な成果となってしまい、諜報員ーー特務の一員ーーとして迎えられてしまい、とても多忙になってしまい、それどころでは無くなってしまったらしい。


そこで、同じ境遇で、暇そうな俺へ白羽の矢を立てたのだ。


他に頼る人も無く、ゆくあてもない俺は、その白石さんの提案を飲むこととした。


結果、俺はこのMOA搭乗者養成所のある“美咲みさき基地”へMOA搭乗者候補生として配属される運びとなった。


 白石さん曰く、この世界で最も安全な場所はMOAの中だし、いきなり天才的な操縦スキルを見せた俺だからこそ、ここへの配属を決めたようだ。とはいっても、彼女の諜報員としてのスキルを最大限駆使して、色々偽造したり、誤魔化したりを相当したそうだが……。


(でも白石さんにもらった資料によると、MOAの搭乗者って士官候補でもあるんだよな? 元の世界で成績が中の下だった俺で大丈夫か……?)


 とはいえ、不安もありつつも、嬉しいところもあって……。


(蒼太も一緒だ、鮫島さんもいるな。それに……橘さんも!)


 出会った当初は銃を突きつけられたけど、MOAの戦闘中も、一生懸命俺のことを応援してくれた橘さんが同じ訓練隊にいる。

元の世界ではお隣さん同士にも関わらず、全く接点がなかった彼女がだ。

せっかく異世界にやってきて、この状況なのだ。

日和らないで、楽しまないとと思う俺だった。


「橘、今後はこの田端を貴様のM小隊へ加える。しっかりと面倒を見るように」


「りょ、了解しました」


 これも白石さんの仕込みだろうか? だったらナイスすぎる!


「田端さん! こちらへどうぞ!」


と、橘さんは早速、空いていた隣の席を指してくれる。


 更に席まで隣と……! 白石さんの諜報員として優秀さ? をまざまざと感じる瞬間だった。

だったらこのチャンスを逃さないわけには行かない!

なにせここはやっぱり待望のだった"異世界"なのだから!


「あ、あの、橘さん……」


 席へ着くなり、勇気を出して声をかけてみる。


「っ!? な、なにか……?」


 橘さんはすごく驚いた様子でこちらを見返してきた。

少し、顔が赤く見えるのは気のせい?


「これから、その……よ、よろしく」


「あ、はい、こちらこそ……」


 おっし! やった! 橘さんと初めて会話ができたぞ!


「あ、あの、田端さん……」


「ん?」


「そろそろ前を向いたほうがよろしいかと。軍曹殿の講義が始まりますので……」


 確かに橘さんのいう通り、初日から睨まれるのは色々と都合が悪そうだ。

そう思い、前へ向き直る。


そして林原軍曹殿の座学が始まったのだが……正直、何を話しているのかさっぱりわからない。

なんとなく、戦術に関して喋ってるのはわかったのだが……。


(こりゃまずいな……帰ったら、白石さんが用意してくれた資料に目を通さないと……)


 とはいえ、白石さんが俺に用意してくれた資料は膨大で、しかも難解だった。

やっぱり、ここに俺を配属したのは間違いだったんじゃないかと、強い不安を覚える。



●●●


「めぐみん、PXいこー!」


 本日は講義が終わり、鮫島さんが橘さんへそう声をかけてくる。


 PXってなんだけ? ええっと……ああそうだ、基地の中にある売店のことだっけ!

こんなことさえ、瞬時に理解できないのだから、不安はますます募る一方だった。

だけど……


「ごめん、ななみん、田端さんに早く基地の案内をしなくちゃと思ってて……」


「あーそっかぁ、そうだよね……軍曹殿に怒られちゃうもんね」


「うん。さぁ、行きますよ、田端さん」


「あ、ちょっと!」


 さっさと教室を出ていってしまった橘さんを追いかける。


(でも、朝の会話の流れから、美人な橘さんが俺の面倒をみてくれるんだ! こんなに嬉しい展開はあるもんか!)



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