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白石 姫子特務中尉との出会い

「君、良い加減白状したらどうだ?」


「だ、だから……はぁ、はぁ……俺は……ふひゅ……!」


 全てを言い終える前に、目の前の尋問官らしいおっさんは俺の顎を掴んできた。


「異世界から来た異世界人だと? ふざけるのも良い加減にしろ! お前はユーラシアのスパイなんだろ!? だから、我が国のMOAを容易に操縦できた! そうなんだろう!?」


ーーMOAにて敵であるジュライを倒した俺に与えられたのは賞賛の声ではなく、厳しい尋問だった。

どうやら軍のMOAを勝手に操縦したことが原因で、スパイかなのかと勘違いされているようだった。


そのため俺は戦闘終了後、軍に拘束され、厳しい尋問をかれこれ数時間受け続けている。


「おい、薬を用意しろ」


 尋問官が不穏な言葉を放つ。

すると、脇でじっと俺のことを見下ろしていたもう一人の男が、銀のケースから薬液の入った注射器を取り出す。

それを見た途端、俺は総毛立った。しかし椅子に縛り付けられているため、文字どおり手も足も出ない。


「な、なんだよ、それ! なにするつもりだよ! やめてくれよぉ!!」


 俺はしゃがれた声で、涙ながらに訴えかける。

そんな俺を見て、尋問官は嗜虐的な笑みを浮かべつつ、注射器を持った男へ視線で指示を送る。


『そこまでだ! その者の身柄は"特務"の預かりとなった。すぐに引き渡せ』


 腕へ注射針が刺さりそうになったその時、聞き覚えのある女性の声が部屋へ響き渡った。確か、この声って“白雪姫”から聞こえてきていたような……?


「ちっ……国の雌犬め……! おい、行くぞ」


 先ほどまで俺へ散々拷問を仕掛けていたおっさんは、もう一人を引き連れ、あっさりと薄暗い部屋を出てゆく。


 代わりに入って来たのは、鋭い目つきが印象的な妙齢の女性だった。

女性はさきほどまでおっさんが座っていた真正面の席へ腰を下ろす。


「田端 宗兵君、貴方に聞きたいことがあるわ」


「な、なんですか……?」


「……コミケ」


「へ?」


「コミケ、という言葉に聞き覚えは?」


 予想外の質問にとても、というか、かなりの戸惑いを覚えてしまった。


「あ、あの……」


「答えなさい。わかるの? わからないの?」


「わ、わかります! い、行ったことはありませんけど! 海浜展示場で夏と冬に行われている同人誌の即売会のことですよね!?」


 女性に気押される形で、ありったけの知っていることを捲し立てた。

すると、女性の表情が氷解してゆく。


「あの、なんでそんな質問を……?」


「この世界……いえ、"この日本"にコミケなんてものは存在していないわ。それを貴方は知っていると答えた。つまりそれは、私と同じ世界か、もしくは近い世界からやってきたと推察できる」


 女性は俺を椅子へ縛り付けていた、縄を解きながら続ける。


「確信が欲しいからもう少し色々と聞かせてちょうだい。年号、周囲の環境、好んでいるアニメの話などなんでも構わないから話して聞かせて」


 もはやこの場で頼れるのはこの女性だけだと思った俺は、言われた通り、自分の頭の中にある記憶を洗いざらい話したのだった。

すると先ほど以上に、女性の表情がや和楽なってゆく。


「凄い偶然ね。どうやら私と貴方は、同じ世界線の、同じ時間から、ここへやって来たみたいね」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。しかも"元の世界"の住まいもかなりご近所よ。もしかすると、貴方と私は何かしらの"因果"で繋がっているのかもしれないわね」


 女性はすごくリラックスした、フランクな物言いで、ずっと緊張しっぱなしだった気持ちがようやくほぐれた。


「改めて……貴方との同じ世界から"異世界転移"をした【白石 姫子】よ。こちらの世界では、内務府管轄特別任務班……通称、"特務"で主に、軍内部の内定や、戦場での監視任務を行なっているわ」


「あ、えっと! た、田端 宗兵、高一ですっ! もうちょっとで高二でしたけど……」


「あら、そんなに若いの? ふふ……青春真っ盛りなのね!」


「あ、あの、白石さん。なんで、俺のことを同じ転移者だって思ったんですか……?」


「きっかけは押収された貴方のスマホね」


 そういって白石さんは厳重に封をされた、俺のスマホを差し出してきた。


「この世界にはコミケと同時にスマホも存在しないわ。しかも、これって、"元の世界"であたしが使っていたのと同じ機種で、これはもしかしてと思ってね。あと、先ほどまでの君の尋問の様子も私の興味を引いた要因の一つだわ」


「そうなんっすか?」


「貴方、しきりに自分がMOAを動かせたのは"バーチャリオン"ってゲームをしていたからと答えていたわよね」


「ええ、まぁ……」


「私はそのゲームのことを知っていたわ。逆に、この世界にはゲームなんて楽しめるほどの余裕はない。だからもしかすると、この子は私がずっと探し続けていた、同じ境遇の人間なのではと思ってね」


 白石さんは急に鋭い目つきになって、俺のことを睨んでくる。

そうされて体へ緊張感が走った。


「田端 宗兵くん、貴方はどうやってこちらの世界へ来たの! 教えて! 私は元の世界へ帰るヒントが欲しいのよ! 私はどうしても帰りたいのよ!」


 先ほどまでとは打って変わり、白石さんはやや感情的に聞いてきた。

 もしかしたら元の世界に大事な家族や、恋人でもいるのかもしれない、といった具合の勢いだった。


「お、俺もよくわからないんです! 気づいたらこの世界に来てて!」


「そ、そうなの……?」


「はい。まぁ、ここ最近、色々とあって"異世界に行きたいなぁ"とは考えていましたけど……だから、帰る方法に関してはちょっと……」


「なんだ、そうなの……」


 俺の言葉を聞き、がっかりしたのか白石さんは項垂れてしまった。


「なんかすみません……」


「良いのよ、仕方ないわ。やっぱり貴方も私と同じで、いきなりこんなクソみたいな世界に連れてこられてしまったのね……はぁ……武雄には未だ逢えないのね……」


 街はボロボロ、敵は不気味な巨大怪獣、そして先ほど受けた拷問……この世界はあまり、人に優しいところでないのは、ここにきてまだ1日もたっていないけど……白石さんが"クソ"と言った気持ちはなんとなくわかった。


「それで貴方はこれから、この世界でどうしてゆくつもりなのかしら?」


 しかしさきほどの落胆ぶりから打って変わって、こちらのことを心配? してくれるあたり、白石さんは本当に優しい人なんだと思う。


「どうって言われましても……どうして良いのやら……」


「……良かったら、私から提案があるのだけど」


 どこか含みのある白石さんの物言いだった。


 しかしこの世界が、俺にとって楽園でないのは十分にわかった。

そんな俺へ、同じ境遇だと語り、更に優しく接してくれた白石さんの提案なのだ。

これを聞かなわけには行かない。


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