巨大リアルロボットを駆って無双の活躍!
「そうら、行くぞぉ! ジャンプだ!」
ジャンプコマンドを入力すると、MOAは背面部ブースターをふかし、膝を折り曲げる。
機体は崩れた橋をあっという間に飛び越える。
多少Gがかかって、お腹の辺りがキュッと締まったものの、我慢できないほどでななかった。
おそらくMOAは専用スーツなしでも、多少は動かせるようだ。
これならなんとか行けそう!
『田端さん! ペスト幼体来ます! 数5! 気をつけてください!』
スピーカーから警戒を促す橘さんの声が聞こえてきた。
(なんかロボットゲームのオペレーターキャラみたいで、良い雰囲気だよ、橘さん!)
興奮ぎみの俺はメインモニターへ意識を移す。
確かにこちらへ砂塵を巻き上げつつ接近してくる5つの低い影があった。
それは硬そうな甲殻に覆われた、ダンゴムシのような不気味な巨大生物。
どこかの超有名アニメ映画に出てきそうなそいつらに、俺はある種の親しみを覚える。
「だけど悪いな! お前らはここで終わりだぁ! バァールカンっ!」
そう叫びつつ、自然と指が右の操縦桿のトリガーを引く。
するとリアルロボットの定番。
頭部に内蔵されている2門のバルカン砲が火を吹いた。
バルカン砲の赤い弾丸が、"ペスト幼体"と呼称されるダンゴムシもどきの甲殻を易々と打ち貫き、肉塊へと変えてゆく。
あっという間に敵は駆逐され、道が開けた。
「すげぇ! この世界のロボットのバルカン砲、めっちゃ強いじゃん! 最弱武器じゃないじゃん!」
『田端さん! す、すみませんが、一度こっちへ戻って来てください!』
そういえば橘さんたちを置きっぱなしで、橋を渡ってしまったと思い出し、元の位置へMOAを戻す。
そこでは橘さん、鮫島さん、蒼太の3人が唖然とした表情をしていた。
たぶん、不審者扱いしていた俺は、見事に戦闘をこなしたことに驚いているのだろう。
(良いんだ、これで! これこそ異世界転移! これこそテンプレ展開っ!)
俺はやはり何故か分かってしまう操作方法で、俺はMOAを跪かせる。
そしてMOAの掌を開いて3人を乗せようとする。
しかし3人は先ほどの巨大蔓から難を逃れた、屋根なしの軍用四輪駆動車に搭乗してしまう。
『た、田端さん! 私たちはこれで、貴方の後を追います!』
確かに橘さんの言うとおり、いくらMOAの手が大きくたって3人も乗せるのは不可能だと思った。
この点は、俺の経験不足は否めなかかった。
そういうわけで、俺は橘さんたちが乗った四輪駆動車をMOAで掴み、ブーストジャンプ。橘さんたちが乗る四輪駆動車を下ろし、くねくねと曲がった山道を疾駆し始める。
すると、操縦席へ一際けたたましい警告音が鳴り響く。
『田端さん、止まって、くださいっ!』
後続する四輪駆動車から橘さんが通信を入れてきた。
「あ? おわっ!?」
突然、山の斜面が崩れ、道を寸断。
さらに、大きなが影が俺のMOAや橘さんたちの乗る四輪駆動車へ落ちてくる。
山肌に突然現れたのは、ビルよりもはるかに巨大で不気味な“奇怪な樹木”だった。
(もしかしてコイツが、巨大蔓の鞭の親玉か!?)
『田端さん! ジュライから離れて! 今の君のMOAじゃ無理、ですっ!』
橘さんの焦った声が聞こえるのと同時に、3人乗った四輪駆動車が、ジュライとかいう巨大な樹木から離れてゆく。
確かにこのMOAは頭部バルカン砲と、右腕に折りたたまれて収納されている鉄杭のような、注射器のような装備しか目立った武器の存在は認められない。
橘さんのアドバイス通り、逃げたいのは山々だったのだが……
「おわっと!?」
樹木が無数の蔓を現し、まるで鞭のように振るって、こちらへ襲いかかってくる。
俺はジャンプしたり、しゃがんだり、機体を翻したりなど……ありったけのゲームでの知識を総動員して、MOAを操作し、無数の蔓の鞭の攻撃を交わし続けている。
『す、凄い……なに、この軌道……?』
スピーカーから呆れたような、感心したような橘さんの声が漏れ聞こえてくる。
まぁ、この展開もテンプレ的で悪くはないんだけど、
(さすがに回避で手一杯だ……このままじゃジリ貧……! でもコイツはどうやって倒せば!?)
その時だった。
闇夜に銀旋が現れたかと思うと、そいつは腕に装備しているマシンガンのようなものを放った。
内臓バルカン砲よりも明らかに強力な携帯火器はジュライの周囲に生えていた、無数の蔓の鞭を引きちぎり、あっという間に掃討する。
(このMOAって、確か……さっき、鮫島さんの言ってた白雪姫!)
白きカスタムMOA:白雪姫は弾薬の尽きたマシンガンを空中で投げ捨てた。
代わりに左手にマウントされているシールドの裏から、巨大な実体剣を抜く。
白雪姫は背面のブースターを全力で吹かし、落下速度を加速させ、勢いそのまま実態剣でジュライの根元を盛大に切りつけた。
ジュライは悲鳴こそ上げなかったものの、幹から血のように樹液のようなものを吹き出し、枝葉を震わせている。
『そこのMOA! 枯渇剤は装備しているの!?』
白雪姫から、鋭い女性の声が聞こえてくる。
ジュライの樹液を浴びて、白雪姫は湯気のようなものを上げているが、大丈夫なんだろうか?
『さっさと答えなさい!』
再び強めの声で白雪姫から通信が入る。
「す、すみません! あ、えっと……こ、枯渇剤って……?」
『あ、ありますっ!』
俺の代わりに、通信を聞いてた橘さんが答えてくれる。
『ならさっさと枯渇剤を叩き込みなさい! ぐずぐずせずに!』
『田端さん、急いで、くださいっ! すでに解除パスはこちらから送信済みです!』
「よくわかんないけど……やってやんよ! うおぉぉぉぉ!!」
二人の女性の声に気押され、俺はMOAを一気に上昇させた。
そして、白雪姫に切り裂かれた、ジュライの幹の傷を肉薄する。
メインモニターのロックオンカーソルが赤く点滅し、わかりやすく"LOCK"と表示される。
俺は自然と、右のペダルを思い切り踏み込み、両方のトリガーを同時に押し込んでいた。
「おおおおおおお!! ぐぐぐぐぐ!!!!」
もの凄いGを感じて、内蔵が揺さぶられる。
それほどの速度でMOAはジュライへ接近しているらしい。
「と、とどめだぁぁぁぁぁ!!!」
MOAの右腕部からスパイクが伸びる。
そして注射針のように先端に穴の空いたスパイクが、炸薬によって思い切り打ち出され、ジュライの幹へ叩き込まれる。
すると、突然、周囲の蔓が激しく揺れ始めた。
画面に浮かぶ“注入開始”という表示と、徐々に減ってゆくゲージのようなもの。
そしてーー
「な、なるほど……これがコイツの倒し方なんだ……!」
スパイクを叩き込まれたジュライは水分を失い、塵となって瓦解をし始める。
周囲に生えていた蔓の鞭にも同様の現象が起こり始めていた。
やがて山肌に突然現れ、存在感を示していた巨大樹木ジュライは、塵となって消え去る。
どうやら今の攻撃が“枯渇剤注入”といった、ジュライを倒すためのMOAの必殺技らしい。そのうち、この攻撃にはかっこいい必殺技名称をつけてやろうと思う俺だった。
『だ、大丈夫ですか、田端さん! い、生きてますか!?』
「はいはい、こちら田端! 無事ですよー」
スピーカーから安堵した様子の橘の息遣いが聞こえてくる。
もしかしてこの活躍もフラグだったり……?
(やっぱりこの世界のメインヒロインは橘さんなのか……?)
と、そんなことを考えていた俺の周囲へ、白雪姫と戦闘を終えた他のMOAが近づいてくる。
この展開はテンプレ通りなら、きっと!
『な、なんだ今の戦果は!』
『君は何者なんだ!?』
『助けてくれてありがとう!』
そうそう、そんな感じ!
みんなこんな風に俺へ声をかけてくれるはず!
そして俺の輝かしい、異世界ライフが始まる……てな感じか!