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修学旅行で北海道に〜激戦の記憶・札幌〜


「っーー!」


 本来、10式MOAが装備するコールドメタルナイフは、人類共通の敵であるジュライやペストを切り裂くために開発された。

しかし、俺はそうした武器でユーラシア連合が所有する量産型MOAオブイェークト148のコクピットを刺し貫き、無力化を図る。


 一瞬、機体同士が接触したためか、通信チャンネルが開いてしまい、スラブ系言語での断末魔が聞こえた気がした。

どうやら最期の瞬間、目の前のMOAのパイロットは"家族か恋人"の名前を叫んでいたらしい。


当初こそ、同族である人類へ刃を向けることに躊躇う気持ちはあった。

だが、今の俺はーー


(この命はもはや俺だけのものじゃない……林原軍曹が、真白中尉が、白石さんが、みんなが、そしてめぐが繋いでくれたものだ……死んでもみんなの願いを繋ぐんだ! 簡単に死んでたまるか!)


 現在、俺は長年生き残った功績を讃えられ"独立遊撃隊"ーー隊といっても、生き残りは俺1人のみーーとして、白石さんのようなワンマンアーミーとなり、独自に作戦活動を行っている。


 一旦、現状を終了させた俺は、通信チャンネルのボリュームを上げた。

相変わらずあらゆる言語の、様々な内容が飛び交っていて、通信チャンネルは混雑を極めている。

そうした通信を注意深く聞き、紐解いて、対処の順番を組み立てて行く。


(北5条西3の遊軍救援が最優先か!)


 俺は夜間迷彩を施したカスタマイズ10式MOAを、札幌駅方面へ疾駆させる。


 そこでは友軍が無謀にも74式MOAで、押し寄せるユーラシアのオブイェークトの大群と対峙していた。

すでに正規軍には現行機である10式MOAはほとんど残されていない。

更に協力関係にあった米軍は、自国の本土決戦に備え、早々に日本から手を引いてしまった。

よって現在の正規軍は旧世代機さえも運用し、しかも少数で、あらゆる敵に対処せざるを得ない状況となっているのだった。


「退けっ! 道を開けろっ!」


 俺は友軍機全てへ通信を割り込ませる


『あれ……まさか、噂の黒王ブラックキング!?』


 誰かが俺のことを指し、そう叫んだ。

 初めてそう二つ名で呼ばれた時は、有頂天になったものだ。

しかし、今の俺は、何も感じず、ただ敵への接敵にのみ集中する。


 そしてあっという間に、眼前を塞ぐオブイェークトを数機、コールドメタルナイフと、速射砲を用いた連撃によって蹴散らした。


(クリア! このまま一気に!)


 突然、コクピット内へ上空から警報が鳴り響く。

そして無数の対地弾頭が降り注ぎ、敵味方問わず、破壊の限りを尽くしてゆく。


『卑弥呼陛下が収めし聖なる地へ土足で踏み込む蛮族! そして裏切り者たちへ、裁きの鉄槌をぉぉぉぉーーー!!』


 混乱する札幌駅前へ、61式、74式、10式、鹵獲したエイブラムスやオブイェークトなどを、共通する燃えるような赤に塗装した尊王派のMOAーーいわゆるクーデター軍が大挙をして押し寄せる。

 どうやら先ほどのミサイル攻撃は、尊王派が仕掛けたものらしい。


 そのため、この場はユーラシア、クーデター、友軍の三つ巴の激戦区と化す。


(さすがにこの状況はまずい……離脱を……)


 そう思った時のことだった。

 乱戦状態の戦場のアスファルトがみるみるうちに盛り、巨大な異形の蔓が生え、あらゆるMOAを空高く打ち上げる。

そしてーー俺も、突然のジュライの攻撃をモロに受けてしまった。


「く、くそっ……状況は……!」


 不幸中の幸いで、激戦区からやや離れたところに投げ飛ばされた俺は、朦朧とする意識の中、現状確認を行おうとした。

すると再び、機内へ警戒警報が鳴り響く。


 夜間でもはっきりと視認できるほどの砂煙と、夜空を覆う無数の黒い影。

どうやら幼体、成体、両方のペストがこちらへ迫ってきているようだ。


「し、死んでたまるか……こんなところで……! 死んでたまるかぁぁぁ!!」



★★★


「しゅうちゃん」


「ううっ……」


「しゅうちゃん、起きて! 飛行機着いたよっ!」


 目を開けると、めぐが少し心配そうな顔でこちらのことを覗き込んでいた。

既に機内には俺とめぐ、そして俺が降りるのを待つ、林原先生の姿のみだった。


「ありがとう、起こしてくれて……」


「もしかして、また見たの?」


「ああ……」


 するとめぐはわずかに震えていた俺の手を強く握りしめてくれる。


「大丈夫だよ。怖くないよ。北海道はきっと楽しいところだよ」


 彼女の手の温もりと柔らかさ、なによりも俺を想う優しい気持ちがとても嬉しかった。


「……ありがとう。行こうか」


「うんっ!」


「あ、あの……めぐ……」


「ん?」


「いくら旅行でも、その、一応授業の一環な訳で、手を繋いだままでは……」


「あ、ああ! そ、そうだよねっ! みんなの前じゃよくないよねっ!」


 めぐは慌てて手を離す。

以前は、こうした言葉を放つと少し寂しそうにしていたように想う。

しかし俺の真実を知り、更に恋人になったことで、安心した様子で手を離すようになってくれている。


「自由行動の時は、ずっと手繋いでいようね……」


 めぐはそういった天真爛漫な囁きは、先ほどまで見ていた悪夢を一瞬で吹き飛ばしてくれる。


 俺は幸せを胸一杯に詰め、"元の世界の北海道"へ最初の一歩を踏み出して行く。


ーーこれから俺たちは3泊4日の日程で、北海道にて修学旅行を行う。

しかも行先の全てが、"異世界の日本"において、俺の思い出深いところばかりだ。


だからこそ、この機会に、平和な元の世界での北海道を訪れることができて本当に良かったと思っている。


(これで終わりにするんだ……あの世界へ想いを馳せるのは……だって、今の俺のそばにはこうして"めぐ"がいてくれるんだから!

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