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2人は寄り添いながら新たな道を歩み出す

「ご馳走様でした」


「お粗末様でした」


 お互いに学校の制服姿の俺とめぐは、朝餉へ感謝を捧げた。


 異世界から帰還した4月から今日まで、変わることのない俺とめぐの大切な時間。

でも、こうしたことを始めた当初と比べて、今はだいぶ心持ちが違うと思えてならない。


「そろそろ行こうか」


「うんっ!」


 制服姿の俺とめぐは肩を並べて、外へ出てゆく。

 肩と肩の距離は接するほど近いのは、お互いの心の距離がそれだけ近づいた証拠だと思う。


「……?」


 ふとエレベーターで階下へ向かっている最中のこと。

 めぐの指先が不自然に、何度も俺の手を撫でていることに気がつく。


「ーーッ!?」


 いきなり手を取られ、焦る俺。

 そうしてきためぐ自身も顔を俯かせている。

亜麻色の髪の間から覗く耳を、バラの花びらのように真っ赤に染めながら。


「きゅ、急にどうした……?」


「こ、こうした方が良いと思って……これで、みんなに私が……しゅ、しゅうちゃんだけのものって、知らせることできるから……」


 お互いの汗が手の中で混じり合うのがわかった。

昨晩のお祭りの時以上に、お互いが緊張しあっているのがよくわかった。


「それに……こうしておけば、しゅうちゃんが、私だけの、大事な人って見せられる……!」


「そ、そうだな……確かに!」


 手を握り返すのと同時に、エレベーターの扉が開いた。


 俺とめぐは肩を寄せ合い、硬く手を結び合って、2学期の最初の通学を始める。


「お、おい……あれって!?」


「まさか難攻不落の橘さんが!?」


「相手は……やっぱり噂の田端だったかぁ……ありゃ敵わないな……」


 道ゆく同じ学校の男子生徒はため息や、驚きのリアクションを見せていた。


「ちょ! マジ!?」


「あーあ、やっぱり田端くんと橘さんってできてたんじゃん……」


「みんなに知らせないと!」


 女子生徒たちも、遠巻きにではあるが、俺とめぐのことをヒソヒソと噂しあっている。

 どうやらお互いの目論見通り、俺たちが名実ともに"交際"を始めたことを知らしめられたらしい。


「作戦通りになったな」


「うんっ!」


 めぐは満足そうに微笑むのだった。


 やがて、通学路の先に、俺たちと同じく仲が良い様子で肩を並べあって歩くカップルを見つける。


「ななみん! おはよっ!」


「お、おい、めぐっ!?」


 めぐは俺の手をしっかり握ったまま、先にいる鮫島さんたちへ駆けて行く。


「おっはよう、めぐみん……おおっと! これはぁ!?」」


 案の定、俺とめぐの今の様子を見た途端、鮫島さんはリアクション芸人のような反応を示す。

しかしすぐさま、彼女はニヤニヤ笑みを浮かべた。


「おはよう、めぐみん。その手はどうしたのかなぁ?」


「あ、あのね! わ、私! しゅうちゃんの彼女にしてもらえたよっ!」


 めぐは顔を真っ赤に染めながら、鮫島さんへそう叫んだ。

その言葉受け、鮫島さんは笑みをニヤニヤから、優しいものへと変えた。


「そっか、おめでとう! やったね!」


「うんっ! ななみんのおかげ! ありがと!」


「いえいえ。ところで……どっちから?」


 鮫島さんはギロリと俺を睨みながら、そう聞いてきた。


「あ、えっと……」


「俺からだ。俺からめぐへ付き合って欲しいと伝えた」


「そっかぁ! そっか、そっかぁ! やっぱりさすがたばっち! 男、見せたね!」


 どうやら鮫島さんが望んだ答えを返せたらしい。


「たばっちは、ちゃんと男を見せたってのに、ウチの蒼ちゃんは……」


「だ、だから! 告られた時、言ったじゃん! 俺も告ろうって考えてたって! 七海が先走ったんだろうが!」


「あー、ひっどい! そんな言い方ないんじゃない!?」


「ふ、2人とも! 喧嘩はだめっ、ですっ!」


 と、めぐが勇気を出して割って入り、なんとか鮫島さんと蒼太の言い争いは終結を見せる。


「まぁ、良いよ。今日はめぐみんのハッピー報告記念日だから、この辺にしといてあげる」


「言ってろ!」


「あーそんなこと言うんだ? 言っちゃうんだ? だったら……」


「な、なんだよ……」


「一週間、エッチしてあげないんだから!」


「なっ……! だからお前はなんで外でそう言うこというんだよ!」


「蒼ちゃん、我慢できるかなぁ? できないだろうなぁ? なにせ2人きりになればいっつも発情しちゃう獣だからなぁ」


「だ、だから! 外でそういうこと言うなって!」


 さっさと先に歩き始めた鮫島さんを、蒼太は顔を真っ赤にしながら追いかけ始める。

もはや、俺たちに構っている場合では無いらしい。


(あの2人は相変わらず仲がいいな)


 喧嘩するほど仲が良いというのはよく言ったもの。

あの2人は交際を始めてから、ああした喧嘩は増えたものの、以前にも増して仲が良くなっているように思われた。


「俺たちも、あの2人のようになれるだろうか……」


「ひうっっっ!?」


 うっかり口から出てしまった心の声を聞いた途端、めぐはなぜか素っ頓狂な声をあげていた。


「ど、どうかしたか?」


「そ、そうだよね……いくら落ち着いてても、しゅうちゃんも男の子だし……で、でも、付き合い出したの昨日からだし、まだ手を繋いでるだけで、私、すごくドキドキしちゃってるっていうか……! も、もうちょっと、そういうことは……ゆっくり……」


「ち、ちがうっ! そういう意味では無い! 決してっ!」


 急いで訂正を叫んだ。

どうやらめぐは俺の先ほどの言葉を変な意味として捉えてしまったらしい。


「あうう……ご、ごめんなさい……急に変なこと言っちゃって……」


「いや、俺の方こそすまない。俺はただ、いつの日か鮫島さんと蒼太のように、めぐと仲良く喧嘩をする日が来るのかと思って……」


「仲良く喧嘩かぁ……でも私は……できれば、しゅうちゃんと喧嘩したくないな……いっつも2人で、ニコニコしてたいな……!」


「確かに……俺も同じ気持ちだ」


 気がつけば、俺とめぐは手を繋いだまま、校門を潜っていた。


 道ゆく生徒たちのほとんどが、俺とめぐへ視線を向けたのは言うまでもない。



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