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宗兵を喜ばせてあげるために(恵視点)

「わぁーん! めぐみーん! 新学期前に会えて嬉しいぃよぉ!」


「はわわ! な、ななみん、ここじゃダメっ! は、恥ずかしいよぉ!」


 ファストフード店の前で、割と本気な抱きつきを披露する七海へそう抗弁する恵であった。

 イギリスから帰国したばかりの恵は、はやる気持ちを堪えつつ、とある考えを実行に移すべく、まずは七海と会っていたのだ。

 そしてーー注文を終え、ほんの少し、状況が落ち着いた時のこと、


「そういやたばっちにはもう会ったの?」


「ううん……」


「マジ!? な、なんで!? またなんかあった!?」


「こ、声大きいよ! な、なにもないよ……むしろ、これから起こそうっていうか……」


「ほうほう、なるほど……あえて我慢させて、いかせるタイプなんだね。めぐみんテクニシャン〜」


「そういうのじゃないよ! タ、タイミングの問題だよ……」


 親しくなってからというもの、七海のやや下ネタめいた発言だけは、どうにも苦手な恵であった。とはいえ、こうして裏表なく接してくれる彼女の存在は、恵にとってとてもありがたいものである。


「あ、あのね、ななみんにお願いがあって……」


「なになに!? めぐみんのためだったら何でも聞いちゃうよ!」


「えっとね……もし大丈夫だったら"貝塚くんのお母さん"を紹介してもらいたいんだけど……!」


ーー恵の家には、母親の形見として、沢山の花が浮かぶ紺色の浴衣があった。

それを着て是非、宗兵と"花火大会"へ行きたいと思った。

しかし残念ながら浴衣の着方がわからず、ネット動画を見てもよく分からず困っていた。

そんな中、常に着物姿で店へ立つ、蒼太の母親である"貝塚 真珠"の姿であった。


「こんちゃー!」


「あら、いらっしゃい! 蒼太によう?」


 暖簾があがるまえの居酒屋貝塚へ向かうと、真珠は七海へ親しげな笑みを送って迎えた。


「今日はこの子が、真珠さんにお願いがありまして!」


「あ、あのっ! 以前、こちらへお邪魔したことのある、クラス委員の橘 恵ですっ!」


「こんばんは橘さん。その説は、うちの蒼太が大変お世話になりました」


 挙動不審で、さらに小娘な自分へ、真珠さんは丁寧に挨拶をしてくれた。

いつか自分も、真珠のような落ち着いた女性になりたいと恵は思うのだった。


「それでご用件というのは?」


「えっと、急なことで、とても不躾なんですけど……わ、私に、これの着方を教えてもらえませんか!?」


 真珠へ向けて恵は深く腰を折りつつ、紙袋へ入れた"紺の浴衣"を差し出した。


「なんか〜めぐみん、大好きな彼氏のためにそれを着て、今週末の花火大会行きたいらしいんですよ!」


「はわ!? か、彼氏じゃないよぉ! しゅうちゃんは、ええっと……」


"しゅうちゃん"と口にしただけで、恵は胸が高鳴りと心地よい息苦しさを覚えた。

そんな恵を見て真珠は、楽しそうな笑みを浮かべた。


「あらあら、うふふ……良いわね、そういうの……乗ったわ!」


 真珠は落ち着いた雰囲気から一点、とても子供っぽいリアクションを示してくれる。


「蒼太ぁー! って……イヤフォン外しなさい! こっちへ来なさい!」


「な、なんだよ、そんな怖い声だし……ってぇ、七海? 橘さんも!?」


 厨房の奥から割烹着を着た蒼太がのっそりと現れた。


「悪いけどお母さん、七海ちゃんとめぐみんちゃんと大事な話があるから。仕込みと、あと営業時間になったらお店をお願いね」


「は、はぁ!? まだ予約の仕込み終わってないんだよ!? しかも今夜ってスッゲェ予約数じゃん!」


「大丈夫よ、蒼太なら! 私なんてもっと売り上げがあった頃、ちっちゃいあなたの面倒を見ながら営業してたのよ?」


「ぐ……そ、それは……」


「お店を継ぎたいって考えてるなら、これぐらいのワンオペはね? さっ、2人とも奥へ!」


 妙にノリノリな真珠に連れられて、恵は奥の座敷席へ向かってゆく。


「蒼ちゃん! ありがとね! あとで蒼ちゃんの大好きな頭なでなでたくさんしてあげるから!」


「なっ……て、てめぇ! お母さんの前で、そういうこと言うんじゃねぇ!!」


 相変わらず仲良しで、羨ましいと恵は思うのだった。


ーーそうして真珠主導による、浴衣の着付け講座が始まった。

恵の予想通り、真珠の着付け指導はとても丁寧でわかりやすく、これなら1人でもできそうだと思えるものだった。


「ありがとうございました!」


「いえいえ。あと、良かったらもう少しお話をしても良いかしら?」


「お話ですか……?」


「ちょっとしたテクニック講座よ。大好きな彼を落とすための!」


「なにそれ! 聞きたいですっ! ウチも聞きたいでーす!」


 恵と一緒に着付け方を習い、派手なピンクの浴衣を羽織った七海が大きな声を上げた。

 七海のように声は上げなかったものの、恵自身も大変興味を惹かれる真珠の言葉であった。


「よ、よろしくお願いしますっ!」


 恵は真珠の前へちょこんと座った。

そんな彼女へ、真珠はやはりノリノリな様子で話を開始する。


ーー久々に宗兵に会える。長く会えなった分、彼を喜ばせてあげたい。その一心で……

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