夏休み最終日のお誘い
ーー夏休みもお盆を過ぎて、後半戦もほぼ消化。
残すところあと一週間となっていた。
宿題もとっくに終わっている俺は今、久々に蒼太だけを家へ招いて、レトロゲーム機であるスガサターンを引っ張り出し、ヒーローガーディーアンズという名作ゲームに興じている。
このゲームはモブの老人までプレイアブルキャラとして操作できる、名作である。
「なぁ、シュウよー」
蒼太は一般兵Aという雑魚キャラで、俺の操作するMOAによく似た魔神機兵をちまちま攻撃しながら、呼んでくる。
「なんだ?」
「彼女ってさ……やっぱ良いもんだよな」
隣でコントローラーを握る蒼太は突然惚気始めたのだった。
その隙に、魔神機兵の必殺技である、真っ赤な魔導砲で、蒼太の操作する一般兵Aをなぎ倒した。
「お前は最近どうなのさ?」
「どうとは?」
「恵ちゃんとのこと」
「近々……告白しようと思っている」
夏キャンプの後から、俺はそう決心していた言葉を口にする。
「んだよ、近々って。もしかしてビビってるのか?」
「お前が言えたことか。お前が付き合いだしたの、鮫島さんから告白してくれたからだろ?」
「な、なんでそのことを!?」
「めぐ経由で聞いた」
「七海のやつ……!」
「俺は未だ告白をしていないのはタイミングが悪いからだ。めぐは今、イギリスへ行っている」
ーーキャンプの翌日から、お盆が過ぎた今日まで、俺はめぐと会っていない。
なぜならば、彼女はお父さんに連れられて、遠戚がいるイギリスに滞在している。
どうやらめぐの愛らしさは、わずかに残る英国人の血が影響しているのだろう。
「別にメッセージおくりゃよくね?」
「絶対に嫌だ。俺はちゃんとめぐへ自分の言葉で伝えたい」
「勇ましいねぇ。まぁ、距離が離れてりゃ、そうもなるか……」
「まぁ……」
と、寂しさを覚えいる最中、スマホが震える。
俺はコントローラーを放り投げ、急いでスマホを手取った。
そして、送られてきた写真があまりにも愛らしく、胸が大きく高鳴った
・めぐみん
本場のものを着てみたよ!
スマホの画面には、お城の中のような場所で、コスプレ用のものではない、本場のメイド服を着ためぐが映っていた。
相変わらず恥ずかしそうにしているものの、笑顔なため、楽しんで着用してる様子だった。
・宗兵
すごく似合っている。
文末にあわや"可愛い"と付記しそうになったものの、慌てて削除し、短いメッセージを返す。
恥ずかしかったためだった。
・めぐみん
ありがと!
・めぐみん
日本で同じようなの見つけたら、それ着て今度夕飯の支度をしてみるね!
側にいない寂しさはある。
だが、めぐはイギリスに行ってからも、こうして毎日何かしらのメッセージを送ってくれている。
だからこそ、そんな流れの中で、大事なことを伝えたくはなかったのだった。
「おっと、もうこんな時間!」
「店か?」
「いいや、七海との約束。そいじゃあな」
蒼太はそう言い置いて、さっさと出ていってしまった。
1人でゲームをやり続けるのも虚しいので終了とし、夕飯にすることにした。
「ええっと、今日は……」
冷凍庫にはめぐが作り置いてくれた、パウチ詰めされている様々な食事があった。
その中から、今日はハンバーグの気分だったので、温めることにする。
「いただきます……」
冷凍されていてもめぐのハンバーグはすごく美味しかった。
だけど、物足りなさを感じるのは、やはり目の前に彼女がいてくれないからだろう。
(早く帰ってきてくれないだろうか……)
めぐからは夏休みの終わりまでイギリスから帰らないと聞かされている。
(告白はやはり新学期になってからか……)
と、そんなことを考えていいた時のこと。
・めぐみん
急だけど、帰国することになりました!
不意に、とても喜ばしいメッセージが舞い込んできた。
・めぐみん
お父さんの仕事の都合で今からイギリスを経ちます!
俺は小躍りしたくなった体を無理やり押さえつけ、震える指先でメッセージ打ち込んでゆく。
・宗兵
お帰り!
・めぐみん
早速なんだけど……花火大会、一緒に行きませんか……?
・めぐみん
間に合うから!
花火大会とは、この界隈で実施される地元のものだ。
しかも今年は日取り的に、夏休み最終日に当たる。
めぐは夏休みが終わるまで、イギリスにいるので、行けないものばかりと思っていたのだが……
・宗兵
是非!
・めぐみん
ありがと!
・めぐみん
また連絡するね!
・めぐみん
待っててね!
そこで今夜のやりとりは終了となった。
「ようやく帰ってきてくれるんだ……」
思わず安堵の声が漏れる。
だが、やがて、自分がにわかに緊張し始めていることに気がついた。
(いよいよ、その時が来たということか……)
今、俺の頭の中は"元の世界のめぐ"のことで一杯だ。
そのためか、白石さんのご助言通り、ここ最近俺の周りでは"異世界の因果"と思しき、妙な事象は確認されていない。
(みんなを、めぐを、異世界の因果から守るため……それも確かにある……だけど……!)
俺は心の底から、めぐの存在を欲している。
彼女のことが、欲しくて、欲しくて堪らない。
だからこそ、伝えるのだ。
俺の正直な気持ちを。
めぐをこれからも、ずっと、ずっと、ずっと、愛してゆくということを!