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悲劇はもう2度とごめんだ

ーー我々、第256訓練隊は、一週間後に訓練校からの卒業と、正規任官を控えていた。

そんなある日、訓練校付近に、新たなジュライの発生が確認されたとの知らせが舞い込む。



 現在、正規兵の多くは国道20号線を中心に構築されている、南アルプス防衛線での戦闘に駆り出されて、不在であった。



 そこで、関東方面軍司令本部より、何故か俺たち256訓練隊へ、ジュライの掃討作戦が下される。



 敵が小規模で、ダンジョン構築前だから、という上での決定だったはずだったのだがーー



「は、話しと違うじゃん……!」



 現場へ急行すると、既に都市部の大半が緑に覆われ、ジュライの制圧下にあった。



更に真っ赤でたわわに実った多数の"ジュライの果実"も確認される。




ーーそして恐れていた事態が発生した。

苗床である"ジュライの果実"から、同時多発的に"無数のペストの幼体"が発生したのだ。



 まるで巨大な芋虫のようなペストの幼体が、俺たちへ怒涛の如く押し寄せる。

更にジュライまでもが、バインを用いて、こちらへ攻撃を仕掛けてくる。



この敵の攻勢の影響で、俺たち256訓練隊は、同期の約半数を失いつつも、なんとか訓練校にまで帰投することができた。



しかしーー



「や、やだ、俺……俺ぇ……! ぎやあぁぁぁぁーーーー!!」



 戦闘中にジュライからの直撃を受けた蒼太は訓練校の医務室にて、新たなジュライの苗床へとなってしまったのだった。



「蒼ちゃん……いや……いやぁぁぁぁぁーーーー! 蒼ちゃん、蒼ちゃん!」



「ななみん、ダメっ! しゅうちゃん!」



「あ、ああっ!」



 俺とめぐは、泣き叫ぶ鮫島さんを医務室から無理やり引き摺り出す。



 蒼太の死体を中心に生育を続けるジュライ。

その成長を感知し、闇夜から不快な羽音を立てつつ、トンボようなドラゴンのような見た目のペストの成体が飛来し、訓練校へ襲いかかる。



ーー後に、俺たちへ司令が下された時には既に、南アルプス防衛線は崩壊していたのだとわかった。

だから、俺たちのような訓練兵まで駆り出されてしまったのだと。

 もしも……この真実がもう少し早く判明していれば、対処にしようはあったと思うのだが、こうなってしまっては後の祭りであった。



「ま、待ってっ!」



「めぐみん……いままで仲良くしてくれてありがとね! 楽しかったよ! たばっちといつまでもお幸せにね♩」



「ななみん!」



 白兵専用の重武装を施した鮫島さんは、めぐの静止を振り切り、いつもの軽い調子で、訓練校を侵食するジュライの蔓へ生身で立ち向かってゆく。



「返せ……返せ……返せっ! 蒼ちゃんをかえせぇぇぇぇぇぇ!!!」



 鮫島さんの背中はあっという間に、蔓に飲み込まれてゆく。

これが俺とめぐが、彼女の姿を見た最期の瞬間であった。



ーーこの日、関東は大攻勢を仕掛けてきたジュライとペストの影響で、完全に崩落してしまう。



 生き残った俺とめぐは、真白中尉に導かれ、北海道まで逃げ延びるのだった。



★★★



「全く……嬉しい報告を聞けたはずなのに、なんで俺は……」


 勉強会終了後、うたた寝から目覚めた俺は、1人そう愚痴をこぼす。


 おそらく、鮫島さんと蒼太の交際宣言を聞いたためだと思われた。


(でも、元の世界には"ジュライ"も"ペスト"も存在しない。きっと、こちらでは上手くゆくはず……鮫島さんと蒼太はきっと……)


ふと、そんなことをかんがえている中、スマホへメッセージが舞い込む。

蒼太からだった。



・SOOTA

今日は、お騒がせしてごめん……




 もはや、今日の大騒ぎは許している。

むしろ、今、俺にはもう一度伝えたいことがあった。




・宗兵

繰り返しになるが、鮫島さんのことは大切にしろ。


・宗兵

絶対に泣かすような真似はするな。


・宗兵

良いな?



 すぐに既読表示がついたものの、なかなか返事が来なかった。


 ふと我に帰ると、自分がかなり過激な物言いをしていることに気がつく。



(少し熱くなりすぎだ、俺は……いきなり先ほどのような言葉を浴びせられたって、戸惑うのは当然だ……)



 必死に、どう先ほどのメッセージを訂正しようかと考えを巡らせる。



・SOOTA

サンキュ。


・SOOTA

シュウが俺たちのこと応援してくれてるの伝わった。


・SOOTA

ちゃんと七海のことは大事にするから安心してくれ!



 こんな、少しおかしな言動をする俺にきちんと向き合ってくれる。

やはり、蒼太は唯一無二の親友だと思った瞬間だった。



・宗兵

ありがとう。あと、昼間から妙なことを言い続けて悪かった。


・SOOTA

気にすんな!


・SOOTA

シュウこそ、恵ちゃんと頑張れよ!



 親友のメッセージはとてもありがたいものだった。

しかし、同時に、今のメッセージは、最近俺の中で渦巻いている"不安"を浮かび上がらせる。


(もしも、今回の蒼太と鮫島さんの交際は、異世界の因果が影響しているという可能性は無いよな……?)


 先日の、山碕の事故の件もある。

 異世界の因果は好ましいものばかり引き寄せているとは限らない


(もしなんらかの原因で、因果の影響が強まったら、蒼太と鮫島さんは……めぐは……)


 そのことばかりを考えてしまい、その日の俺は明け方近くまで眠ることができなかったのだった。



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