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いつの間にか二人はカップルになっていた

「ななみん、酷い……」


「ご、ごめんね! めぐみん! ほんと……!」


 とてもご機嫌斜めなめぐへ、鮫島さんは必死な様子で謝っていた。

しかしめぐは相変わらず、テリヤキバーガーを伏せ目がちに、はむはむしているだけで、さすがの鮫島さんも困り果てているご様子。


 俺とめぐは現在、駅前のハンバーガー屋で、鮫島さんと蒼太へ、今回のイタズラに関する尋問をしているのだった。


「2人とも、ことの経緯をめぐと俺へ説明してもらうおうか」


 当然、俺はいつでもめぐの味方なので、今回のイタズラを仕組んだ鮫島さんと蒼太へ厳しい態度で接するのは当然のことである。


 なにせ、めぐは昨日、俺へ"俺たちがお隣さん同士"であることは、秘密にしたいと言っていた……というのがわかったのは、彼女が家へ戻ってからしばらく経ってのことである。


「なんか、最近の2人、いっつも同じ方向に帰ってるような気がして……それで気になって……同じマンションくらいは予想してたけど、まさか、お隣さん同士だったなんて……」


「じゃあ今日の勉強会は、私としゅうちゃんの秘密を暴くための、ついでだったってこと?」


めぐの鋭いツッコミに、鮫島さんは「ぎゃ、逆だよぉ! 勉強は本気で教えて欲しかったんだよぉ!」と慌てた様子を見せる。


「シュウ、橘さん! ほんとごめん! 許してくれぇ!」


 蒼太もまた必死な様子で頭を下げている。

かなり反省はしているようだし、そろそろ……


「めぐ、俺自身はそろそろ2人を許しても良いと思っているだが」


「……」


「どうか、俺からも2人を許してやってほしい。この通りだ」


 俺もへ頭を下げた。

すると、めぐは珍しく深いため息を吐くのだった。


「……しゅうちゃんが、そういうなら……はぁ……ななみんも、貝塚くんも、もう良いよ……」


 ようやくめぐからお許しを貰えた2人は、安堵の表情を浮かべるのだった。


「でも、2人が暴いた真実は、他の人には絶対に言っちゃだめ! わかった!?」


「う、うん! 当然だよ! ね、蒼ちゃん!?」


「お、おう! 絶対に誰にも言わないから! 約束するから!」


「約束、破ったら……ね?」


 めぐの冷たい表情と声音に、鮫島さんや蒼太はもとより、俺も背筋を凍らせる。

まるで本気で、ジュライとペストを狩っている時の"異世界のめぐ"に匹敵する、恐ろしさを感じる俺だった。


(さて……この微妙に気まずい空気は、さっさと払拭したほうが得策だな……)


さすがに、このままでは楽しく、美味しくハンバーガーなど食べられたものではない。


「俺から、一つ提案があるのだが」


そう声を上げると、三人は傾注してくれた。


「せっかくこうして4人が揃ったんだ。この後は俺の家で勉強するのはどうだ? 二人まとめて、俺とめぐでビシバシ指導しよう」



ーーこの提案は皆に了承されて、昼食後、俺たちは4人揃って、テスト勉強に勤しむこととなった。



「蒼ちゃん、そこ間違ってるよ?」


「あ? そうなのか?」


「相変わらず蒼ちゃんはダメだなあ!」


「うるせぇ。七海だって、ここ間違えてるだろうが……」


「え? ああ、本当だぁ! ありがと〜」


 勉強の最中、以前よりも増して鮫島さんと蒼太の距離が近いような気がしてならなかった。

近いを通り越え、ベタベタしていると言っても過言ではなかった。

むしろ、この距離感の2人の方が見覚えがあるような……?


「ななみん、もうちょっと真面目に勉強して」


と、めぐから鋭いツッコミが入り、鮫島さんは苦笑いを浮かべた。


「ご、ごめんね。ついテンションが上がっちゃって……」


「テンション?」


「彼氏と一緒に勉強するの初めてだから……」


「は……?」


 珍しく、めぐがぽかんとしている顔を見た気がした。


「あ、あれ……? 言ってなかったけ? ウチと蒼ちゃんが付き合い出したの……?」


「き、聞いてないっ!」


 めちゃくちゃ驚いた様子を見せるめぐだった。

対して俺は、ようやく元の世界でもそうなったのかと、妙に落ち着いてしまっている。

 むしろ、ただの幼馴染同士だった鮫島さんと蒼太に違和感を覚えていたほどである。


「い、いつから!?」


「学園祭の時、ウチから告って、それからなんだけど」


「そうなんだ……お、おめでと?」


「ありがとっ!」


 学園祭の最中に告白とは恐れ入った。

多少、鮫島さんは肉食の気があると思ってはいたが、まさかここまでだったとは。


「おめでとう、蒼太」


「あ、ありがとう……」


 俺の言葉を受けて、蒼太は若干顔を引き攣らせている。

自分自身でも、感慨が言葉にありありと表れていたと自覚している。


 なにせ、俺はあの残酷な異世界で悲劇的な2人の結末を見てしまっているからだ。


「良いか、蒼太。鮫島さんは本当にいい人だ。そしてお前のことを心から強く思っている。だから、彼女を決して泣かすような真似はするな。わかったな?」


 元の世界に、異世界のような命のやり取りや、間近に迫った死は存在しない。

このまま上手くゆけば、元の世界の鮫島さんと蒼太は幸せな結末を迎えることができるはず。


「た、たばっち、なにいきなし恥ずかしいこと言っちゃってんのさ! ね、ねぇ、蒼ちゃん!?」


「ど、どうしたんだよ、シュウ? そんなマジな顔で……?」


「……勉強に集中しよう」


 これ以上、話し続けていると、異世界での嫌な思い出を思い出しかねないと考えた俺は、話題の転換を図る。


「……」


 ふと、めぐが俺へ不安そうな視線を寄せているような気がした。

 もしかすると、俺はまた"異世界のことを思い出している時、特有の険しい表情"を浮かべてしまっているのかもしれない。



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