妙な行動を取る蒼太
・ななみん
打ち合わせ通りによろ〜
・SOOTA
マジでやんのか……?
・ななみん
ま!
・SOOTA
怒られてもしらねぇぞ?
・ななみん
大丈夫だって!
・ななみん
蒼ちゃんだって気になってるんでしょ?
・SOOTA
タイミングは、そっちで頼む
・ななみん
りょ!
●●●
「おい、集中してくれ」
「わ、わりぃ!」
俺が注意を促すと、蒼太は慌てた様子でスマホを置く。
もう少し、勉強に関して、焦りの気持ちを持って欲しいと思ってならない。
それほど、蒼太の成績の状況は絶望的であった。
「ではこれまでのおさらいだ。鎌倉時代における1185年と1192年、それぞれどのようなことはあったか簡潔に説明せよ」
「あ、えっと……"いいくに"は、鎌倉幕府の成立だっけ……?」
「もっと正しく回答せよ」
「うぐっ……え、ええっと……」
「はぁ……もう一度説明しよう……。1185年は頼朝が諸国に守護・地頭を設置する権限を認めたせた年。1192年は頼朝が征夷大将軍に任じられた年だ。いずれも鎌倉幕府成立の重要な要素ではあるが、85年は実質的、92年は形式的な鎌倉幕府の成立年号であると言える。林原先生ならば、この違いを文章問題として出す可能性があると付け加えておく」
「はぁ……実質とか、形式とか、よくわかんねぇよ……どっちでも良いじゃんかぁ……!」
と、蒼太は頭を抱え出す。
これは予想以上に、難産になりそうだと思う俺だった。
ふと、その時、俺のスマホがメッセージの到着を知らせて来る。
・めぐみん
勉強捗ってますか?
・めぐみん
こっちは、今日、ななみんが来て一緒に勉強してます!
・めぐみん
さっき、休憩時間にななみんとレーズン入りカップケーキを食べたよ!
・めぐみん
しゅうちゃんのぶんも作ってあるから、あとで一緒に食べようね!
メッセージだけでも、めぐの可愛さが十分に伝わってくるメッセージで、つい頬が緩んでしまう俺だった。
・宗兵
ありがとう。
・宗兵
カップケーキ、楽しみにしている。
・宗兵
鮫島さんへの指導を頑張ってくれ。
・宗兵
ちなみにこちらは難産だ……
「うおっ!? まじかぁ……」
突然、俺と同じくスマホに視線を落としていた蒼太が、妙な唸りを上げていた。
「どうかしたか? 緊急のなにかか?」
「あ、いや、ええっと……」
「?」
「そ、そろそろ昼飯にしねぇか!? 腹減っちゃって、あんま頭がよく回んないっていうか……! な、なぁ!」
たしかに時計はそろそろ正午を示しそうな頃合いだった。
俺自身も、めぐのメッセージからカップケーキの存在を示唆されて、少々空腹を覚えていたところだった。
「わかった。じゃあ昼にしよう。なにか食べられそうなものは……」
「そ、外に食いにいかねぇか!?」
台所へ向かおうとした俺へ、蒼太がそう提案をしてくる。
「外へか?」
「お、おう! なんか、今日はハンバーガーが食いたいなぁって……!」
「ハンバーガーか……」
今日はめぐとは別行動のため、彼女が用意してくれる健康的で美味しい昼食は無い。代わりにジャンキーで、不健康な食事をするには絶好のタイミングではあった。
「なぁ、行こうぜ! なぁ!!」
「しかし、外食をしていると時間が……」
「作るのとそう差はないって! だから、行こうぜ! なぁ!!」
何故か今日の蒼太は妙に圧が強いように感じる。
それだけハンバーガーへのモチベーションが高いということか?
そしてそれは俺も、出会った。
(俺も実は、頭がハンバーガー一色になってしまっている感は否めない……。めぐには大変申し訳ないが……)
ーーそうした訳で、俺は蒼太と共に、昼食として駅前のファストフード店へ向かうことにする。
「うげ!?」
部屋を出る直前に、蒼太が妙な声をあげた。
手には何故かスマホが握られている。
「どうかしたか?」
「あ、あ、と、トイレ! ちょっと、わりぃ!」
突然、蒼太は俺を置いてけぼりにして、トイレへ駆け込んで行く。
「なんだ、アイツ……?」
が、数秒も経たないうちに、トイレから飛び出てくる。
「悪い待たせた! 早く、行こうぜシュウ!」
「お、おい……!」
「さぁさぁ、早くっ! じ、時間がねぇ!」
グイグイ蒼太に背中を押され、俺は流れるように靴を履かされた。
蒼太はスマホに視線を落としつつ、俺よりも早くドアノブに手をかけ、扉を開け放つ。
すると俺の眼前を二つの人影が塞いだ。
「ほ、本当にたばっちが出てきた!? こんなことって……!?」
片方の人影はめぐと一緒に勉強をしているはずの鮫島さんだった。
彼女はとても驚いた様子でこちらのことを見ている。
「あわ……はわわわ……!」
そしてもう一方は当然、一緒に試験勉強をしていためぐ。
彼女は俺を見上げつつ、視線を右往左往させている。
動揺しているのは明らかだった。
「まさか、めぐみんとたばっちって、お住まいでもお隣さん同士だったんだ!」
「あ、あ、あ、えっと……! もしかして、外でお昼食べようって言い出したのも――!?」
鮫島さんの言葉から合点が行き、蒼太を睨みつける。
「蒼太、お前、さっきから不信な行動をとっていたのはまさか!?」
「わ、わりぃ! 七海にどうしても協力してくれって頼まれてて! ほんと、わりぃ!」
ーーどうやら俺とめぐは、まんまと鮫島さんと蒼太の罠にはめられてしまったらしい。
こうして俺とめぐの学校外での関係は、あっさり鮫島さんと蒼太にバレてしまった……。