幕間 うたた寝するめぐ
「ふわぁ……」
とある日の夕食時、めぐは盛大なあくびをした。
そういえば今日は学校でも終日、とても眠そうにしていたと思う。
「夜ふかしでもしたのか?」
「あ、うん……ちょ、ちょっと昨日、変な夢見ちゃって、その後からあんまり眠れなくて……」
めぐは何故か、顔を真っ赤に染めてそう答えた。
デリカシーというものを考慮し、これ以上突っ込まない方が良さそうだ。
「ご馳走様。今日の冷しゃぶ、美味しかったよ」
「そっかぁ……良かったぁ……!」
体をゆらゆら揺らしつつ、ほんわか笑顔。
眠そうで可哀想だが、それでもこういう雰囲気のめぐもなかなか可愛いと感じる。
そして今夜は、俺の方から積極的に動いたほうが良いのかもしれない。
「んー? なにしているのぉ……?」
「せめて洗い物くらいは、とな」
「あー良いよぉ……やるよぉ……?」
「良いから。めぐは帰るなり、ソファーで休むなり好きにしてくれ」
「ありがとぉ……しゅうちゃん、やっぱり優しいねぇ……ふへ」
最後は奇妙な笑みだったが、それを含めても、こうして緩み切っているめぐは本当に珍しい。
だからこそ、たまには楽をしてもらいたいと思えてならない。
いつも、色々と俺の面倒を見てくれるめぐへのせめてものお礼だった。
「うー……うー……」
「帰ったほうが良くないか?」
洗い物をしつつ、リビングのソファーに座って、ゆらゆらしているめぐへ聞く。
しかしめぐは相当眠いのか、立ち上がるそぶりを見せない。
(これは送り届けたほうが良さそうだな)
しかし、俺は未だにもめぐの部屋へ立ち入ったことがなかった。
たとえ、緊急事態で、めぐが朦朧としているとはいえ、女の子の部屋へ勝手に上がり込むのはどうかとも思う。
(どうするべきか……いや、やはりここは……)
と、そんな中、めぐがゆらーり立ち上がる。
「帰るぅ……」
そういうが、かなり足元が危うい。
もう、女の子の部屋へ上がり込むことを躊躇っている場合ではないのかもしれない。
俺は洗いかけのお皿をおいて、すぐさまめぐのところへ向かってゆく。
「あ、しゅうちゃん……!」
「ほら、しっかり立って! 送ってやるーーうおっ!?」
「んふぅ……」
めぐは一瞬笑みを浮かべると、そのまま俺へもたれかかってきた。
「お、おい! だ、大丈夫か!?」
「ぐぅー……」
咄嗟に受け身を取ったので、めぐも俺にも怪我はない。
だが俺はめぐに押し倒される形で床に寝転んでしまっている。
「お、おい! こんなところで寝るな! 起きろ!」
「ううん……」
「ーー!?」
めぐは離れるどころか、俺の身体へ手を回し、ギュッと抱きついてくる。
すると俺の胸の辺りで、ふにゅ、っとめぐの存在感のある双丘が潰れる。
乱れた長い亜麻色の髪が、俺の顔面へ思いきり降りかかる。
さすがにこの体勢で、興奮しない方がおかしい。
しかし幸い、そのあたりはめぐの体に触れていないため、大丈夫そうだった。
(いや、今はそんなことを考えている場合じゃない!)
俺は何度もめぐの肩を揺すっては「起きろ!」と投げかける。
しかしその度に、めぐは「ううん」と唸るりつつ、より強く俺を抱きしめてくるではないか!
「すぅー……すぅー……」
かなり安心しているのか、めぐは穏やかな寝息をあげている。
(そういえば異世界のめぐも、抱き枕がなければ寝れない感じだったな)
と、MOAの中にまで抱き枕を隠し持っていたことを思い出す。
すると、恥ずかしさもあるが、懐かしさも込み上げてきた。
(異世界のめぐはこんなにも穏やかな顔で寝ていたことはなかった……)
あの過酷な世界で、こんなにまで穏やかに眠れる方が少なかった。
それはめぐであっても同様だった。
だけど、ここは元の平和な世界。
こうして深く眠っても、次にはまた新しい朝が、ほとんど必ずやってきてくれる。
たとえ異世界のめぐと、元の世界のめぐが別の人間であろうとも、こうして彼女という存在が、穏やかに眠れている姿を見られたのはとても嬉しい。
「しゅうちゃん……」
呼ばれた気がしたので視線を映す。
次いで聞こえたのは、やっぱり穏やかな寝息。
どうやら夢を見ていて、更にその中には俺もいてくれているらしい。
「どんな夢をみているんだか……」
しかし俺の胸の上で寝ているめぐはとても穏やかな顔をしている。
きっと良い夢を見ているのだろう。
そしてそんな彼女を見て、彼女の暖かさを感じていると、自分自身も段々と眠くなってくる。
今回、こういう体制になったのは偶然だった。
でも、いつか、こうして二人で寄り添いながら眠りにつきたい。
今度は不安や寂しさを埋めるためではなく……
俺はめぐが寝ていることを良いことに彼女をギュッと抱きしめた。
久々に感じた彼女は、異世界と変わらず、柔らかく、そして温かい。
俺もまためぐにつられるように、眠りへ落ちてゆく。
「ふにゃ……ーーーーっ!? え? ええ!? この体勢、な、なに!? し、しかもしゅうちゃんも私のことギュッて!?」
「くぅー……すぅ……」
「ね、寝てる、よね……?」
「すぅ……」
「ああもう……これも昨夜見ちゃった夢、のせいかなぁ……なんで、夢の中で私、しゅうちゃんと、あんな……エッチなこと……」
「すぅ……」
「うううっ……も、もう一度だけ、しゅちゃんの胸、お借りしますっ……!」
ーー結局俺たちは、明け方までその体勢で眠ってしまった。
お互い慌てふためいたのはいうまでもない。
ここまでありがとうございました。
この作品が再び陽の目みたことが嬉しくてたまりません。
またジャンル別にはなりますが、初めての表紙入りができたことにとても感謝しております(なろう歴約8年の中で初めてでした)
これも皆さんのご支援の賜物です!
さて、一つ区切りとなりましたので、以降は毎日12:00の1話更新とさせていただきます。
どうぞご理解のほどをよろしくお願いいたします。
またブックマーク・評価点・レビューなどを是非していただければと思います。
ここまで本当にご支援を頂き、ありがとうござました!
そしてこれからもどうぞ宜しくお願いいたします。
是非、カクヨム版以降の展開まで書かせてください!