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愚か者は事故を起こす(前半・山碕視点)


「ちくしょう……田端の癖に生意気だ! 田端の癖にっ!」


 山碕の蹴りを受け、屋上のフェンスが大きく揺れ動く。

 クラスですっかり除け者なってしまった山碕は、これまでずっと出店運営に一切関与せずにいた。

当然、当日の今日も、運営には一切協力せず、こうして屋上で1人屯し、何度もフェンスを蹴り続けているのだった。


「や、やまちゃん……!」


 怒り心頭な山碕へそう声をかけたのは、この間までよく連んでいた川島だった。

同行していた同じく、これまでよく連んでいた豊田は、山碕が盛大に凹ませている屋上フェンスへ呆れ顔を向けている。


「なんだよ、裏切り者?」


 山碕は不快そうに川島と豊田を睨みつける。

 川島と豊田は廊下での一件依以来、山碕とは距離を置き、真面目にクラス出店の手伝いを行なっていたのである。


「やまちゃん、あんまり意地張らないで一緒にやろうよ」


「鮫島さんへは俺らから、話通すからさ。今、田端は運営にいないってか、鮫島さんに宣伝を命じられて、もう戻ってこないみたいなんだよ」


 2人の言葉を受け、山碕の表情が益々怒りに染まる。

 これまでずっと下に見ていたこの2人に気を遣われたことが、腹立たしかったのだ。


「川島……豊田……お前らもか……」


「え……?」


「お前らも、俺を下に見てるんだろ!? ざまぁ、とか、思ってて! この間まで、俺にくっついてるだけだった、モブ風情が!」


「……」


「ダメだこりゃ。諦めようぜ」


 すっかり匙を投げてしまった豊田はそういうが、山碕とは小学校からの付き合いである川島は、未だに引こうとはしない。


「やまちゃん! いつまでもそうやって意地張ってると、もっと酷い目に遭っちゃうよ!」


「ぐっ……」


「良いかげん落ち着いてよ! 目を覚ましてよ! なぁ、やまちゃん!」


 川島の熱い声が屋上へ響き渡る。


 山碕の中で、一瞬、心に揺らぎが生じる。

だがすぐさま押し寄せてきたのは、やはり不快感であった。

 きっと川島もまた、田端のように自分のことを馬鹿にしている。

除け者に転落した自分を、心のどこかでは嘲笑っている。


「うるさいうるさいうるさい! さっさとうせろ!」


「や、やまちゃん……」


「いますぐに、俺の前から消えろっ!! うせろ、このクソバカタレ!」


 ここまで言われて、さすがの川島と豊田も諦めたらしい。

2人は再度山碕へ声をかけることなく、屋上から去ってゆくのだった。


「はぁ……はぁ……はぁ……ちきしょうっ! なんで俺がこんな目に……」


 山碕の中で、勝手な憎悪が膨らみ続ける。

 田端 宗兵が変わったから、自分は立場を奪われた。

だから、こうして最悪な目に遭わされている。


「全部、田端のせいだ……田端の………!」


 山碕は渾身の蹴りをフェンスへ見舞った。

力が強過ぎたのか、フェンスが大きく揺れる。

 だが山碕はまるで何かに取り憑かれたかのように、延々とフェンスを蹴り続ける。

 まるで何かが山碕の運命を引き寄せるかの如く……


「ちきしょう! ちきしょう! ちきしょーーーーっ!?」


 突然、蹴りを放っていた右足が、ふわりとした感触を得た。

目の前に佇んでいたフェンスが外れ、落下を始めている。


「あがっ!?」


同時に、山碕もまたバランスを崩し、フェンスと共に屋上から落下してゆくのだった。


⚫︎⚫︎⚫︎


「はむ……むちゅ……ちゅ、ちゅ……」


「……」


「れろ、れろ、れぇろ……んふ……おいひぃ……!」


「…………」


「あ、あんまり、こっちみないで……恥ずかしい……」


「す、すいません……」


何故か敬語でめぐにそう返す俺だった。

しかしやっぱり、夢中になっているめぐを見ずにはいられなかった。


(チョコバナナを舐めるめぐ……なんだか、とてもいけないものを見ているような気がしてならない……)


しかもめぐはチョコバナナのチョコを最初に舐め取る、といった食べ方がお好みらしい。

本人曰く、小さい頃からこういう食べたかをしているとのこと。


だから人の食べ方にいちいち文句をつけるのはお門違いだと思う。

それにここから、色々と変な連想をしてしまう俺の方がおかしいのだ。


と、そんなことを考えながら、校舎脇で展開されていた露天群をめぐと一緒に回っている時のことーー


「ひぃっ!?」


 突然聞こえた大きな音に驚いためぐは、チョコバナナをしゃぶるのを止め、短い悲鳴をあげた。

すぐさま周囲が騒然としだし、ことの大きさを物語っている。


 近くの植え込みには外れた大きなフェンスが落ちていた。

フェンスの一部が露天のテントの一部を破壊していたが、幸い近くには誰もおらず怪我人は皆無な様子だった。


「た、た、助けくれぇぇぇーーーー!」


 上から悲鳴が聞こえ、視線を飛ばす。

真っ先に見えたのは、男子生徒ように上履きの靴底だった。

 どういう理由かはわからないが、1人の男子生徒が壁にある、エアコンの配管へ両手でぶら下がっていたのだ。


 尋常ならざる事態なのは明白だった。


「すまない! 行ってくる!」


「しゅ、しゅうちゃん!?」


 俺はめぐへ立て看板を渡し、校舎へ飛び込んだ。

そして先ほどめぐと見学をした"山岳部"の部室へ飛び込む。


「緊急事態だ! 借りるぞ!」


 唖然としている山岳部員を尻目に、俺は複数のザイルと革手袋をひったくり、再び廊下へ飛び出す。

そこら中から上がっている動揺の声を聞き流しつつ、まっすぐと屋上へ向かってゆく。



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