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山碕を懲らしめる

「ちくしょう……てめぇ……なにしやがる……」


豊田は地面の砂を握りしめ、呪詛のような言葉を放つ。

しかし、あまりに殴られ過ぎたため、指一本動かせずにいた。


「や、山ちゃん、やめてよ……そんなに自分を追い込まないでよ……!」


小学校から付き合いのある川島は痛みを堪えて、山碕へ訴え出る。

そんな彼の言葉を受け、山碕は唾を吐き捨てた。


「うるせぇ! 裏りぎやがって! お前らと絶交だ! 田端と仲良くしたきゃ好きにするんだな!」


山碕はそう言い捨てて、自らボコボコにした川島と豊田に背を向けて、体育館裏から校舎へ進んでゆく。


「ふざけんな、田端の野郎……目にものみせてやる……!」


 怒りを孕みつつ、山碕は廊下を歩む。

 目指すは自身の所属クラス、2年6組。

 彼は怒りにませて、すべてを破壊するためにそこへ向かっている。


(川島も豊田も、ひよりやがって……やってやる……俺1人でも……!)


 思えば高校2年になってから、なにもかも上手くいっていないと彼は思った。

全ては"人が変わったかのように逞しくなった田端のせい"だと。


 気に食わなかった。


 ついこの間まで、自分にビクビクしていた奴が、急に逞しくなり、皆に慕われ、あまつさえ、あの橘 恵と親しくなっていることが気に入らなくて仕方がなかったのだ。


(ぶっ壊してやる……何もかも……!)


 山碕は6組の扉を力一杯開けた。

そこには、これまで皆が、作成した学園祭へ向けた装飾品が並んでいる。

これを皆が、田端の指揮のもと作り上げたことが気に食わなかった。

 この間まで自分にいじめられ、ひぃひぃ喚いていた田端が。


 だから何もかもを壊して皆を困らせてやろうと思った。

田端を慕ったばかりに、こんな目にあったと思いしれば良いと思った。


 そして、自分と同じ気持ちだろうと、つるんでいた川島と豊田をこの行動に誘った。

しかし2人は山碕のこの行動に意を唱えた。

だから彼は制裁を加えたのだった。自分に従わず、意を唱えた2人へ……。


「ちくしょぉぉぉーー!」


 放課後の誰もいない教室に山碕の絶叫と、ダンボールで作った装飾品を踏み抜く音が響き渡る。

山碕は自らが踏み抜いた装飾品を見て、薄ら笑いを浮かべる。


「は、はは……! やったぞ……! やってやったぞ! ざまぁみろ、田端……!」


と、その瞬間、背後から彼へ向けてシャッター音のようなものが響き渡る。


●●●


「何をしている、山碕!」


「た、田端!? なんで、お前!?」


 スマホで山碕の犯行現場を押さえた俺は、奴を睨みつけた。


「たまたま帰ろうとしたところ、随分とボロボロにされた川島と豊田を見つけ、2人へ聞いたんだ」


「アイツら……!」


 ここ最近、皆で学園祭の準備を頑張っている最中、山碕の不審な態度が気になり、ずっとマークをしていた。

そして奴は、こうして皆の頑張りの成果である装飾品を壊すといった暴挙に出た。

もはや、これを見逃すわけには行かない。


「お前の犯行現場は抑えさせてもらった。今、この場で引けば見逃してやる。どうだ!」


「く……な、なめんなぁぁぁぁぁ!!」


 逆上した山碕は大きく腕を振りかぶり、殴りかかってくる。

 先刻の不良もそうだったが、訓練を受けていない人間は、どうしてこうも体の動きに無駄があるのかと苦笑を禁じぜざるを得ない。


「ーーッ!?」


 俺は身を僅かに引くと言った動作で山碕の拳を交わす。

そして間髪入れずに、奴の腕を取り、そのまま床へ引き倒した。


「うがっ!」


「山碕、これまでだ。大人しくしろ」


 山碕は俺に腕を固められ、苦悶の表情を浮かべている。


「もう一度言う。今、この場で大人しく引けば、先ほど撮影した画像も、川島と豊田を殴った件も、俺からは黙っていてやる!」


「い、づっ……ぐぅ……! た、田端のくせに……!」


「どうなんだ、山碕! これ以上俺たちの邪魔はしないか! どうなんだ!」


「お、お前わかってるのか! こんなことして、もしも俺がチクったら、お前だってただじゃすまねぇぞ!」


「元より承知の上だ」


 俺が澱みなく、そう回答すると山碕は驚愕の表情を浮かべた。


「皆の頑張りが守れるなら、俺のことなどどうでもいい。お前がもう2度と、皆の邪魔をしないとこの場で誓わせることができたのならば!」


「あがっ!」


 さらに腕を締め上げ、山碕へ迫る。山碕は苦悶の表情と共に、苦しみで顔を真っ赤に染めている。


「わ、わかった! もうしないから腕を離してくれぇ!!」


 限界を迎えただろう山碕はそう懇願してくる。


「本当だな? 誓えるか!」


「ち、誓う! もう2度と邪魔はしない! だからぁ!!」


「……良いだろう」


 言質がが取れたと思った俺は山碕を解放する。

奴が再び、こちらへ向かってくる気配はない。

むしろ、俺へ"恐れ"の視線を向けている。


「もう一度言う。もう2度と俺たちの邪魔をするな。もしもしたときはわかっているだろうな?」


「くっ……わ、わかった……」


「川島と豊田へは俺から口止めをしておいてやる。あの2人から、今回の件が漏れないことは約束してやる」


「……」


「家へ帰れ! 速やかに!」


「っーーーー!!」


 山碕は脱兎の如く教室から走り去った。

これぐらい痛めつけておけば、少なくとも学園祭の期間内は大人しくしてくれているだろう。


(脅威は去ったが、しかし……)


 山碕のせいで、装飾班が一生懸命作ってくれた、装飾の柱が見事なまで踏み抜かれている。


(しかたあるまい。直しておくか……)


 明日皆へは、俺がすっ転んで壊してしまったと謝罪すれば良いだろう。

そう明日への言い訳を考えつつ、作業へ取り掛かる。


「しゅうちゃん、何してるの?」


突然、後ろから話しかけられ振り返る。

そこには所属する音楽部の打ち合わせから戻ってきら、めぐの姿があった。


「こ、これはその……!」


「壊しちゃったの?」


「あ、ああ、そうなんだ! うっかり転んで、こんなことに……」


「しゅうちゃんにも転ぶことなんてあるんだね! 珍しい!」


 どうやらめぐは俺の嘘を、真実と思ってくれたらしい。

それだけ俺のことを信頼してくれているのだと思い、胸へ喜びは満ち溢れる。


「私も手伝うよ!」


「あ、いや、これは俺の責任で……」


「わ、私、委員長ですから! 副委員長が困っているなら、助けますっ!」


「……ありがとう。では、よろしく頼む」


「うんっ!」


 めぐと俺は協力して、破損した装飾品の修繕に取り掛かってゆく。


 山碕がしでかしたことが、許されざることだ。


 しかし結果として、俺にとってはめぐと2人きりの時間を過ごすことができ、嬉しい時間になったのは確かだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] きっとタイトルに隠された意味があるのだろうと推測してみたり……。 山碕の行動を見逃しているのに、「裁きの鉄槌を下す」とありますので。
[気になる点] 主人公の対応が甘すぎて理解不能レベル。 これって誰得?
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