クラスTシャツが欲しいっ!
「外装の基本色は赤でいいんだよね?」
「ああ。俺がイメージしているのは、the temple barというお店だ。画像検索で確認して欲しい」
「オッケー!」
「おーい田端ぁー! 提供する飲み物の候補についてなんだけど……」
「まずはどんな形式でも良いので資料としてまとめておいてくれ。その中でも、特に興味が湧いたものへは何かしらのサインを付記しておいてくれると後で助かる」
そう告げ、俺は再びタブレットへ視線を戻し、当日のシフト表編成へ戻ってゆく。
学園祭まであと2週間。準備が急ピッチで進められている。
「あの田端くん、装飾の提案があるんだけど……」
「提案ありがとう。なにか資料になるものは?」
「これイメージね。あと、材料のことも簡単に乗せてあるよ」
「どれ、見せてくれ……ふむ、いい感じだ。このイメージで頼む。くれぐれも予算にだけは気をつけて」
皆は予想以上にやる気を見せて、多くのクラスメイトが毎日帰宅ギリギリの時間まで、準備を行ってくれていた。
これはすごく嬉しいことなのだが……
「おう、田端! 実は顧問に直談判してさ、週末のジャガイモ収穫は手伝えるぜ!」
「ありがとう! 助かる! イン杯前で忙しいところ悪いな」
「良いさ! 普段は部活で手伝えないけど、せめてと思ってね!」
どうして、何故、皆はーー
(俺へ相談や報告を持ちかけてくるんだ!? 実行委員は鮫島さんだし、委員長はめぐのはずだろ……!?)
とはいえ、受けた報告や相談を、鮫島さんやめぐへ丸投げするのはどうかと思い、色々手を出して今の状況となっている。
しかし、そろそろ案件やらなんやらが溜まってきた。
2人へ報告をした方が頃合いだと考え、教室の隅で器にする英字新聞をひたすら降り続けている、めぐと鮫島さんのところへ向かってゆく。
「ねぇねぇ、めぐみんとさー、たばっちって、実際のところどうなの?」
「あ、え!? わ、私としゅ……た、田端くんは、ええっと……!」
「俺がどうかしたか?」
俺が顔を出すと、鮫島さんはにんまりとした笑みを浮かべた。
めぐはなぜか背中を向けたまま、なぜかこちらの方をみてはくれない。
「ちょうど良いタイミングで相方登場だね、めぐみん?」
「うぅぅ〜……」
「楽しそうにしているところ申し訳ないが、色々と報告がある。作業をしつつでかまわないので聞いて欲しい。処理についてはこちらで順次進めておく」
俺は先ほどから舞い込んできた相談や報告をあげ、こちらの回答や、解決策などを一緒に発言する。
「以上」
「あ、ありがとう……と、いうか……」
「ん?」
「いちいち、私たちに報告しにこなくても良いんだよ……?」
めぐはかなり遠慮しがちにそう言ってきた。
「いや、俺はあくまで副委員長で、めぐはこのクラスのリーダーである委員長で、鮫島さんは文化祭のクラス代表だ。こうして報告をするのは当然のことと思うが……」
「たばっちは真面目だなぁ! でも、そういうところがねぇ、めぐみん?」
「だ、だからっ! この間からの、"めぐみん"ってなに!?」
なんだか短い間に随分とめぐと鮫島さんは親しくなったと思う。
(いよいよ、この2人も仲良くなってきたか……もしかしてこれも、異世界からの影響か……?)
「ところでさー、たばっちに一つ相談がありまして!」
そう言って鮫島さんはスマホの画面をこちらへ見せてくる。
「Tシャツ?」
「そっ! せっかくこれだけ団結して準備してるんだからさ、クラスTシャツを作ろうと思って」
確かに衣装を統一することは、士気をより高める効果があるかと思う。
案自体には俺も大賛成なのだが、
「2点質問がある。まず1点めは誰がどのようなデザインにするのか。もう一点は、やはり予算だ」
鮫島さんが見せてくれたサイトでは、元となるTシャツも含め、一枚2,000円程度。
団体割引があるようだが、全員分を作ってようやく適応され、それでも一枚あたりの制作費は1,800円ほどかかってしまう計算だ。
「クラス費からは、全員からの受注があっても出せない金額だぞ」
「そこなんだよねぇ。だからって今更みんなから徴収するのも、難しいかなって……勝手に決めると、またね……」
どうやらたこ焼き器の件で、鮫島さんも反省はしているらしい。
「でも、やっぱり、ここまで団結してるんじゃ作りたいじゃん!?」
なんだか、とても嫌な予感が拭えない俺だった。
「てぇことで! たばっち、お願いっ! なんか知恵を出してっ!」
「俺を便利な道具をホイホイだす、猫型ロボットのように頼られても困るんだが……」
「お願いだよ、たばっち〜! めぐみんもさぁ、みんなとの思い出が欲しいよねぇ?」
「あ、ええっと……うん、欲しいかな……! な、なんとかなるかなぁ……?」
めぐは遠慮しがちに、しかしそれでも物欲しそうに俺のことを見上げていた。
これまで俺以外の人間とは、割と距離のあっためぐだからこそ、今の状況を楽しみ、そして思い出にしたいと考えているのだろう。
それに俺を見上げてくるめぐの視線は、それだけでドキドキしてしまい抗い難いものがある。
「わ、わかった。検討してみる……」
「やったね、めぐみん!」
「あ、う、うん……大丈夫……?」
「……あてがない訳ではないから……」
そういえば、異世界の基地祭の時も同じようなことがあったと俺は思い出していた。
その記憶を頼りに、まずは"彼の方"のいる家庭科準備室へ向かってゆく。