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俺たちは考えた案を披露する

――かくして俺の案を試し、満場一致でそれを提案することとなった。

そして迎えた第二回2年6組学園祭会議――


「そ、それではっ! 今日でっ、模擬店のことは決定したいと思いますっ!」


 週末のホームルームは、委員長であるめぐの、そんなセリフで開始された。

まずめぐは、皆へ意見を求める。

 俺たちは、ここで"こちらの用意した案よりも良いもの"が出た際は、そちらへ切り替える方針でいた。


 しかしこの間、あれだけ混乱したことから、意見らしいものはなんら上がってくることはなかった。


「もうこんな感じなんだからさ、模擬店はやめて、もっと楽な展示とかにしたほうがいいんじゃねえか? なぁ、みんな!」


 唯一の意見は山碕のもので、かなり否定的なものだった。


「みんなだって、あんましやる気ないんだろ? サッカーとテニスの人はイン杯があって忙しいだろうしさ!」


 このクラスには割と多くサッカー部とテニス部の人が所属しているため、山碕の言うことはあながち間違いではない。


「やっぱ止めようぜ! 楽な展示とかにしようぜ、なぁ!」


 相変わらず、山碕というやつは、マウントを取れると知ると、こうしてでしゃばってくる輩だった。

しかし、このままの流れでは、山碕の思う壺となってしまう。

 きっとクラスの中には学園祭を一生懸命楽しみたいが、意見できず困っている人がいるはず。


「や、山碕くん! い、意見はちゃんと手をあげてでお願いしますっ!」


「……ちっ!」


 めぐの勇気ある発言によって、山碕は封殺された。


「えっと、じ、実はこの間のホームルームのあと、私達も、みんなの意見をちゃんと踏まえつつ、考えてみたことがありますっ……!」


「ウチら、あの後、みんなから貰った意見から色々考えて、これ面白いんじゃないかと思って……!」


 打ち合わせ通り、めぐと鮫島さんは交互に言葉を重ねて、皆の注目を集めてゆく。


 俺と蒼太は互いに視線を交わし、準備万端であることを確認しあった。


「た、田端くんっ! 貝塚くんっ! 準備、お願いしますっ!」


 めぐに呼ばれ、俺と蒼太は席を立った。

互いにエプロンとビニール手袋を装着しつつ、蒼太は事前に用意したタッパー入りの"タネ"を、俺は"サラダ油"と鮫島さんから預かった"たこ焼き器"を手に壇上へ向かってゆく。


 俺たちの演出が壮行したのか、皆は何が始まるのか、といった好奇の視線を寄せてゆく。


 蒼太は早速、タッパーから匙でタネを掬い、ピンポン玉程度まで丸めてゆく。


「これはじゃがいものぺーストと荒微塵切りにしたものを混ぜたタネになります!」


 蒼太が捏ねているものへ、鮫島さんが解説を挟む。


 その間に俺は加温中のたこ焼き器へ、少し多めの油をハケで塗りこんでゆく。

そして、蒼太が捏ねた、ジャガイモのボールをたこ焼き器へ投入。

 すぐさま、ジュワっ! と言った心地よい音と、香ばしい油の匂いが、教室中へ広がった。


 黄色だったジャガイモボールは、たこ焼き器のくぼみの中でコロコロ転がり、表面が綺麗なきつね色に染まってゆく。


「そっちの準備は?」


「お、オッケー!」


 俺の問いかけにめぐは応答と同時に、完成品――英字新聞で折った、四角い容器――を差し出してくる。


 その容器へ焼き上がったポテトボールを盛る。


が、その前に!


 俺はたこ焼き器へ、追いサラダ油を施した。

再度、ジュワジュワ! っと、油の跳ねるいい音と、香ばしい香りが立ち込めてくる。

こうすることで、表面はカリッと、中身はトロッとで仕上がるのだ。


 教室中に充満した芳しい油の香りと、焼きによる心地よい音に、ほとんどのクラスメイトが生唾を飲み込む。


最後に軽く塩を振り、彩りとして乾燥パセリを振りかけ、完成っ!


「こ、これが、私たちの提案したい、模擬店での商品……ハッシュドポテトボールですっ!」


 "ハッシュドポテト"という料理は、主に北米において、朝のサイドメニューとして提供されることの多い料理だ。ちなみにハッシュドとは"細かく刻んだ"という意味である。

 なぜ、俺がこんなことを知っているかというと、異世界の日本は、元の世界以上に米国との繋がりが非常に強く、貴重な天然食材を用いた食事として、ハッシュドポテトがよくふるまわれていたからだ。


「ハッシュドポテトって、ハンバーガー屋の朝メニューにあるやるだよな?」


「あれって平べったくなかったけ?」


「なんか、でもすごくいいかも!」


皆の反応は予想以上に良かった。


「1人1つずつ焼くんで、是非試食してみてくださーい!」


 鮫島さんがそう声を上げると、クラスメイトたちが続々と立ち上がり、試食を求めて列をなす。


「七海、これ美味しいよ!」


「よくこんなの思いついたねぇ!」


 評判も上々で、実行委員である鮫島さんは満足そうな笑みを浮かべていた。

俺達も皆の好ましい反応に、ホッと胸をなでおろしている。


「ありがとう! でもね、これって、ウチの発案じゃないの! ねー"めぐみん"?」


突然、"めぐみん"と振られ、めぐは一瞬、戸惑った様子をみせた。

しかし、


「あ、うん……えっと、この案は……た、田端くんの発案なんですっ!」


 全員分のハッシュドポテトボールを焼いている最中、皆の意外そうな視線が俺へ集まってくる。


「たばっち、こっからは発案者としてバトンタッチねー! これ以外にも案があるんでしょー?」


「た、田端くん! 君から今回の出店企画に関する説明をお願い、しますっ!」


 鮫島さんとめぐが揃って、そう言ってきた。

でも、俺には、まだ試食品を焼くというミッションがあるわけで……


「ここは俺がやっから。お前が説明しろ、発案者!」


と、蒼太は俺から焼き串を奪って、そう言い放つ。


皆の期待の視線が一気に集まってきた。


 本当は、俺は副委員長として陰からサポートする予定だったのだが、こうなってしまっては致し方ない。


「お、おいおい! みんな、それでいいのかよ! こ、こんなの、明らかに手間かかるだろうが! 騙されんな!」


 と、最後の反撃なのか、山碕が意見を述べてくる。


 俺はそんな山碕の言葉など聞き流し――


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