みんなの力を一つに合わせて
「しゅうちゃん! ありがとっ! 助かった……」
散会した後、席へ戻ってきためぐがそう言ってきた。
「めぐも、みんなの前でしっかり言えたな。すごいと思うよ」
「あ、あの時、しゅうちゃんが頷いてくれたから……だからなんか勇気が湧いて……」
どうやら俺の"なんとかする"という気持ちを、めぐはきちんと受け取ってくれていたらしい。
こうして心が通じ合っていることに、強い満足感を抱く俺だった。
「あの、橘さんっ……!」
振り返ると、鮫島さんが後ろに立っていた。
「さっきは本当にありがとう……! めっちゃ助かったよぉ!」
「い、いえ。と、とりあえず、座ろ?」
めぐが椅子を薦めると、鮫島さんは「ありがと……」と言いつつ座る。
何気に鮫島さんは俺と同じくめぐとは隣の席である。
「ひゃっ!?」
突然、鮫島さんは背筋を伸ばしつつ、短い悲鳴をあげる。
急に首元へ、冷たいジュースを押し当てられたからだ。
「飲めよ。へこんだ時はエナドリに限る……」
急に姿を現した蒼太がぶっきらぼうにそういうと、鮫島さんの表情が一層明るんだ。
「ありがとうっ! 蒼ちゃん!」
「お、お前の暗い顔はなんか変だから……」
なんだかんだで、蒼太も鮫島さんのことを心配していたようだ。
さすがは幼馴染の間柄だと思った。
「じゃあ、俺はこれで……」
「蒼太も加わってくれ」
「はぁ?」
俺の言葉に、蒼太は首を傾げる。
「これからさっきの模擬店の話をするんだ。たぶん、お前の力も必要になると思う。頼むよ」
「……まぁ、良いけど……」
蒼太もまた近くから椅子を引き寄せて、輪に加わる。
ーーこれにて"異世界における基地祭の実行委員で、平時はM小隊を組んでいた4人"が勢揃いした。
今この場で、模擬店出店の今後を考えるのが得策だと思った。
「で、しゅうちゃ……た、田端くんっは、なにか案があるの、かな……?」
早速、めぐは本題を切り出してくる。
「その前にまずは状況を整理しようと思う。あのような状況だったが、色々と意見が上がったのも見過ごせないからな」
俺は議事録を広げ、そしてトピックとしてふさわしそうな項目をあげてゆく。
・たこ焼き
・焼きそば
・映えを意識したもの
・カフェ
・たこ焼き器購入済み。
・タコの原価は高いのでは?
"忙しい"は主に運動部関係の意見だろうから、ここは運営の際に考えるのが良いだろう。
やる気の問題は、この手のイベントではムラが出てしまうのはしかたないので、これも後回し。
まずは肝となる"模擬店で出すもの"を最優先で決めるべきだろう。
「実際、今のタコの相場ってどうなっているんだ?」
俺は週末には市場へ買い付けへ行っている蒼太へ話題を振る。
「たしかに今、タコは年々値上がりしてる印象だな。小麦粉も上がってる。正直なところ、うちの店でも今後扱うかは考えている」
「そうなんだ……はぁ……」
鮫島さんの深いため息を聞き、蒼太は狼狽始め、必死にフォローを展開する。
(しかし蒼太が言うほどタコと小麦の値段が高いのなら、たこ焼き案は避けたほうが無難か)
「焼きそばは……貝塚くんは、どう思いますか……? 駅前のスーパーなら、蒸し麺が安く売ってるよ……?」
めぐの意見にも蒼太は難しい表情を崩さない。
「調理が家庭科室だけってところが、気になるな。ああいうのは大きな鉄板で、大火力で一気にやったほうが美味い。でも調理が家庭科室だけでってなら、俺が一気に作れるのはせいぜい3人前が限界だな」
「そ、そこは、私と貝塚くんでやれば6人前だよね……?」
「ああ、まぁ、確かにそうだけど……」
蒼太はチラッと横目で鮫島さんのことを盗み見る。
「はぁ……やっぱ、たこ焼き器はお蔵入りかぁ……」
「ご、ごめん、なさい鮫島さんっ! ええっと!」
「な、七海! 元気出せ! 俺と橘さんが悪かったぁ!」
鮫島さんのリアクションをみて、慌てて2度目のフォローをいれめぐと蒼太なのだった。
(焼きそばに関してもあまり良い感触じゃなさそうだな……となると、他のトピックは"映えを意識したもの"か……)
昨今、元の世界ではSNSへアップロードした時のインパクトの強さを意識する風潮がある。
この風潮からするとたこ焼きや焼きそばはややインパクトに欠けると思われる。
(待てよ……)
インパクト。
その点で、俺には思い当たる節があった。
この案なら、すでにたこ焼き器を購入してしまた鮫島さんの気持ちも汲み取ることができそうだと考えた。
「ちょっと、俺からも意見良いか?」
声をあげ、皆の注目をこちらへ集める。
俺は異世界での"基地祭"の記憶を頼りに、その案を皆へ伝え始めた。
「それ、良いっ!」
真っ先にめぐが俺を案を聞き、声を上げてくれた。
「なぁるほど、確かにそれだったら原価は遥に抑えられるな」
料理人の蒼太からも色よい返事が返ってくる。
「た、たばっち! あんた、マジ最高っ!!」
鮫島さんは俺が口にした案にきちんと"たこ焼き器"のことがふくまれていたので、とても喜んでいる。
ならば迷っている間はなかった。
ホームルームは明後日なので、早急にことをまとめた方が良いだろう。
「みんな、ありがとう。では早速、今夜試作をし、検討したいと考えている。下校後、俺の家でそれをしたいが、どうだ?」
そう問いかけると、三人から異論は上がらなかった。
「ではヒトキュウマルマルに田端宅へ各員集結。 隊長と自分は、本作戦の準備を進めておく」
「夜の19時ってことだよな……? 隊長って、橘さんのこと……?」
蒼太にそう指摘され、うっかり"異世界にいた頃の口調になっていた"と思うのだった。
「あ、い、今のは! その……あはは! このクラスの隊長は橘さんだからな! 昨晩やっていたFPSの余韻が出てしまってな!」
やっぱりこの4人が揃うと、どうにも異世界での訓練校でのことを思い出してしまう、俺なのだった。