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めぐは俺と同じ気分

「な、なんだ、いきなり!?」


「てめぇ……いつからそんな天才になったんだぁ!? マジすげぇぞ! 学年5位だぜ!?」


 ガッチリ肩を組んできた蒼太は、まるで自分のことのように喜んでくれていた。


「俺なんて、また補習だぜ……」


 そして自分の現実を見てげんなりとする。

蒼太のこういう面裏のないところが、俺は好きだったりする。


「蒼太は勉強よりもやりたいことがあるんだ。ちゃんと卒業できればいいだろうに」


「いや、お母さ……バ、ババアが、テスト悪いとうるさくてよ……一週間、厨房に立たせてくんないんだよ……だからよ、次のテストからは……」


「勿論! 一緒に勉強しよう!」


「そう来なくっちゃ! 頼むぜ、相棒!」


と、俺と蒼太が笑い合っている中、どこからともなくスマホのシャッター音が鳴り響く。


「にひひ! てーてーのいっただきぃー!」


「てんめぇ、七海! 勝手に撮るんじゃねぇ!」


 蒼太が割とマジで怒鳴っても、目の前の明るい同級生は全く同じた素ぶりを見せない。さすがは幼馴染同士、といったところか。


「別に今回蒼ちゃんはどうでも良いから。今日のウチは"たばっち"が目的だから!」


 彼女は同級生で、いわゆる陽キャな【鮫島さめじま 七海ななみさん】だ。

 鮫島さんは少し明る目の色をした髪をわざとらしくかき分け、メイクでぱっちりさせた瞳を俺へ向けてくる。


「やっぱさーたばっち、あかぬけた? なんか、一年の頃と全然ちがうよねぇー!」


 と、いつも連んでいる陽キャな、女子たちも興味津々な視線を俺へ向けてくる。

 以前の俺は、正直なところ鮫島さんのような人たちは苦手だった。

住む世界が全く違うと思っていたからだ。


「まぁ、色々とあってな」


 しかし俺は鮫島さんへ強い親しみを覚えつつそう返す。

 彼女は“異世界”において、めぐ、蒼太、そして俺と同じ小隊を組み、更には基地祭の実行委員などを務めた。

 もっとも、これは元の世界ではまだまだそうした仲ではなく、まともに話をしたのも異世界からの帰還後、初めてである。


「そこんとこ、もっと詳しく聞きたいなぁ。ってぇ、ことで放課後カラオケ行こうよ!」


 鮫島さんたちの友達も同調し、目の前で盛り上がり始めている。

こういう状況は初めての経験なので、素直に嬉しいと感じていると、


「あ……んっ……」


 視界の隅で、めぐが足早に席へ向かっているのが見えた。

 まだ元の世界のめぐと鮫島さんは仲良くなっていないので、誰にでも親しげに接する鮫島さんに不信感を抱くのは当然だろう。


「すまない、鮫島さん。今日はちょっと都合が悪いから断らせてくれ」


「そっかぁ。まぁ、いきなりだったからね~。ごめんね! ちゃんと都合考えてなくて!」


 鮫島さんはさっぱりとした回答をしてくれる。

やはり、元の世界の彼女もスカッとした、とても良い性格をしていると思う。


「また機会があったら、是非!」


「おっけー! あと"午後"期待しているからねぇ!」


 俺は鮫島さんと別れ、足早に席へと戻ってゆく。


「今夜は……晩御飯いらない……?」


 めぐは手にした"午後の学級会議の資料"を震わせつつ、こちらを見ずにそう言ってきた。


「さすがに断った。炊飯器の予約してきたからな」


「え? で、でも……」


 嬉しそうな反面、少し不安げでもあった。

どうやら、俺の人間関係に口を挟むのをためらっているらしい。


「本当に大丈夫だ。それに今晩は、ええっと……ハンバーグの気分だったから……」


 一緒にいる時間を大切にしたい。

そうはっきり告げられたなら良いものの、やはり気恥ずかしく、メニュー提案といった言葉を出すのがやっとであった。


「そうなんだ。実は……私もおんなじ気分だった……! 一緒、だね?」


「ああ、一緒だ」


「ごめんね、急に変なこと言っちゃって……」


というめぐの横顔は、今夜も一緒に過ごせるといった満足感に包まれているのだった。


(異世界のめぐも、ちょっと嫉妬深いところがあったな……)


 だけどこれは、俺の存在が、確実に"めぐ"の中に根付いている証拠だ。

彼女との距離を"異世界のめぐ"に近いものへ、着実に縮められつつあると思う。


(とはいえ、少しやりづらさもあるな……異世界ではめぐと鮫島さんは親友同士だったから、早くそうなってくれないものだろうか……)


 俺自身も鮫島さんの底抜けな明るさには救われたことが多々あった。

それに彼女が“元の世界”でもめぐの親友となれば、彼女の生活はより楽しいものになるのは確実だと思われる。


 俺はもっと、めぐの楽しそうだったり、嬉しそうな表情をたくさん見たいのだから……


「はい、みんな席へついてください!」


「ホームルームはっじめるよぉ~!」


 昼休み終了のチャイムが鳴り響き、ほぼ同時に林原先生と真白先生が教室へ入ってくる。


 俺はめぐと同じく学級委員として、これから始まる大仕事を前に、手元の資料へ視線を落とす。


――中間試験を終えた、6月。

うちの学校では毎年、この月に学園祭が開催される。


「抽選の結果! ウチのクラスは模擬店の権利を獲得することができましたぁ!」


 午後のホームルームの時間、学園祭実行委員である、【鮫島 七海】さんは壇上でそう言い放つ。

クラスの反応は正直なところ、半々といったところだった。


(以前の俺だったら"学園祭なんてどっちでもいい"という派閥だったろうな)


 だが、今の俺は学級委員なのだからそうも行かない。

むしろ、こうしたイベントことが、元の世界には"普通に存在する"ので、こうしたことはできるだけ楽しみたいと思っている。



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