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めぐの突然の涙

「この中から選べば?」


「そうだ。この10機が使用できる機体だ。まずは見た目やフィーリングで選べば良いと思う」


「じゃあ……これ!」


 そうしてめぐがフィーリングで選んだのは、高火力・重装型の機体シンデンだった。

機動性は低いがバズーカ砲と両肩部の高出力ビーム砲を主兵装としている。


(やっぱり重装型のシンデンを選んだか……やっぱり、こっちのめぐも、異世界のめぐも同じ人なんだな……)


 異世界のめぐも、基本的に重装型のMOAに搭乗していた。

対して俺はメタルグラスソーを主兵装とした高機動白兵戦型に搭乗していた。


 つまり俺が真っ先に敵へ切り込み道を切り開いて、めぐが一気に焼き払うという戦法だったのである。


 そんなことを思い出している最中、モニター内ではバーチャリオンにおける、めぐの初戦闘が開始されるところだった。


「レバーを2本同時に前へ押し込めば前進。その逆なら後退。レバーの上にある右のボタンを押しながら、押し込めばダッシュ運動」


「わ、わかった!」


 短めにそう解説すると、めぐは素直にそうして画面の中のシンデンを動かす。

いくらステージ1で敵の挙動が甘いからといって、シンデンはただ前に進んだだけなので、初撃をもらってしまうのだった。


「画面上のゲージがなくなったら負けだからな」


「わかった! えっと……旋回はたぶん……できたっ!」


めぐはレバーをそれぞれ前後に押し込み、画面の中のシンデンを旋回させる。


「うまいぞ! 右トリガーが右腕武装での攻撃、左は左腕武装。トリガー同時押しでシンデンの場合はビームが撃てる。ちなみにそのビームは発射から照射中は硬直するが、当たれば敵のゲージを一気に……」


「勝った……?」


 俺が説明している最中、めぐのシンデンがゼロ距離から敵へ必殺のビームをお見舞いし、見事な勝利を収めていた。


(やっぱりこの戦術は異世界のめぐと一緒だ。あの子もいざという時は、一気に突っ込んで、ジュライへ枯渇剤を叩き込んでいたよな……他にも180m m滑空砲の砲身が頑丈にできているからと、それをトンファーのように扱って、低空飛行しているペストを叩き落としたりなど……)


 それからというもの、めぐは俺のナビゲート無しで、どんどんステージを攻略してゆく。彼女の鮮やかなプレイに、俺さえも見惚れてしまい、口を挟む余地は殆どなかった。


「終わり……?」


「ああ、全面クリアだ。おめでとう」


 そしてあっさりとクリアしてしまう。

異世界のめぐも、元の世界のめぐも、どちらもこうした操縦系統には天才的な才能を持っているのがはっきりとわかった。


「しゅうちゃんが見守ってくれていたから!」


「俺、最初以外はなにも言ってないがな」


「次は一緒にしよ……?」


 ゲームがタイトルに戻り、そこからめぐは"対戦プレイ"の項目を見つけたようだ。


 俺だってこのゲームは小さい頃から父さんとやりこんでいる。

MOAのシミュレーションでも、いつも異世界のめぐとは成績を競い合った中なのだ。


「わかった、やろう」


「ふふ!」


 俺は部屋の隅に置いてあった、自分のダブルスティクゲーム機へ有線接続する。

そして画面が対戦プレイの場面へ切り替わる。


 俺が選んだのは、異世界で搭乗していた量産型高機動白兵戦型のMOAと同じコンセプトの設定を持つ、軍用量産機で、レーザーマシェットナイフが最大の武器である"アイアームド"。

 対してめぐはさきほどと同じく"シンデン"を選ぶ。


そして白熱する対戦プレイが始まった。


 まさに異世界のMOAのシミュレーターの再現であった。

俺とめぐは、互いの挙動を先読みし、次々とコマンドを入力してゆく。


「あ……うっ……ひっく……」


「ーーっ!? ど、どうした!?」


 何故かめぐは涙を溢していた。

お互い、そのことに気を取られたせいで、画面の中の機体はタイムオーバーで、引き分けに終わっている。


「ご、ごめん……なんか急に……しゅうちゃんと、ゲームができて嬉しいから、泣いちゃってるのかな……なんか、すごく変な気分……」


めぐは自分でも、今の涙の意味に戸惑いを隠せない様子だった。


「……なにか、こう……こうしたゲームに覚えが……?」


意を決して、めぐへそう問いかけてみる。


「全然……」


「そ、そうか……すまない、急に変なこと聞いて……まだプレイするか?」


「うん! したい! もっとしゅうちゃんと!」


 めぐは涙を拭い、満面の笑みでそう答えるのだった。


(今の涙は一体……? やっぱり異世界のめぐの記憶が、元の世界のめぐへも影響を及ぼしていて……? いや、もしかすると、今目の前にいるめぐも、俺と同じく異世界へ転移を……?)


 疑問は深まるばかりであった。

このことに関しては、せっかく元の世界のめぐとの仲も深まったので、徐々に解き明かして行ければと思うのだった。


⚫︎⚫︎⚫︎



「ほとんど勉強しなかったね……」


「俺は準備してたから別に」


 気がつけば、俺とめぐは陽が落ちるまで、バーチャリオンのプレイを楽しんでしまったのだった。


「めぐは勉強大丈夫なのか?」


「たぶん大丈夫! しゅうちゃんのおかげ!ところで、今夜は何が食べたい? リクエストがなければ、今夜は焼きうどん!」


「じゃあそれで」


「うんっ! こっちの片付けはよろしく!」


 めぐはそう告げると、オープンキッチンへ向かってゆき、楽しそうに調理を開始する。

とてもご機嫌な様子だった。


(なんだか言葉遣いも、かなり親しみのあるものに変わっているな。これも愛称で呼び合うようになったためか、これまでの積み重ねがそうさせたのか……)


 まるで異世界のめぐと過ごしているような。

そんな感覚に俺は囚われているのだった。



★★★



ーー彼はどうして、こんなにも悲しそうな顔で、私のことを見ているのだろうか。



彼の声も聞こえないし、彼から溢れ出る涙を受けても、触感は得られなかった。



ただ映像をみているような。そんな不思議な感覚。



今の私は何もすることができない。



でも、これ以上、彼の悲痛な表情を見たくはなかった。



だから私は叫んだ。



泣かないで! 大丈夫だから!



何度も、何度も、私は繰り返し声を張り上げる。



でも、彼には通じていないらしい。



声が届かず、泣きじゃくる彼を見て、私の胸はひどく傷んでいる……




ーー早く目覚めてしまった橘 恵は、普段見ているものよりも、明らかに最悪な内容の夢に、暗澹たる気持ちを抱くのだった。



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