俺はこれからも向きあい、そして乗り越えてゆく
「よぉし! 今日は素敵な出会いに乾杯ということで、俺が全部奢ってやるぜ! じゃんじゃん肉料理もってこい!」
「さすが! 男前であります、中尉殿!」
「まいど! おかあさーん! 生姜焼き10人前入ったよー!」
蒼太、ここに来て真珠さんのことを"お母さん"って……。
絶対にそのことで、後で鮫島さんに揶揄われることだろう。
「めぐみん、外国の人と友達だったの!?」
「うん! お父さんのお仕事の関係で、時々うちに来てて!」
「キャサリンよ! 気軽にキャシーでよろしくね! ナナミン!」
なぜか、隣の席で夕食をとるはずだったキャシーさん達が、俺達の宴席に加わることになっていた。
きっかけはキャシーさんが、近くにいた鮫島さんへ"この日本語お料理なんて読むんですか?"と質問したところから、会話が弾み、そして席をくっつけ出して、この状況である。
「あ、あの! ダミアンさん、でしたっけ……? あなたのそのご立派な大胸筋触っても良いですか!?」
「でたー! 井出の筋肉フェチ〜」
「それな〜」
「ふっふっふ、良いでありますよ、ハルナ!」
俺は、今、すごく不思議な、それでいてとても暖かい感覚に包まれている。
「ちょ、ちょっと、ユキ!? 誰に電話してるの!?」
「あー姫ちゃん? 今何してんの? ふむふむ、兎ちゃんと飲んでると? だったらさー今からかいづかに来ない? すっごく楽しいよ!」
ここで白石さんと、あの方の1番の親友である"稲葉 兎さん"の名前が出たことに不思議な"縁"や"繋がり"を感じる。
(もしかして……これも異世界のことを思い出した影響なのか……?)
以前、この説を俺へ提唱してきた白石さんは、辛いことが多かった異世界の記憶は、元の世界へ不幸を引き寄せるのではないかとおっしゃっていた。
実際、辛い記憶ばかりに囚われていた頃の俺の周りでは、妙なことばかりが起こっていたように思う。
(だけど、今は、辛い記憶を思い起こしても、別の気持ちが沸き起こってくるんだよな……)
異世界での皆との死と別れが辛いと感じるのは、それだけ俺は皆のことを愛し、感謝してていたのだと、先日過去の記憶を辿っているときに気がついた。
俺は皆とずっと、ずっと、ずっと、共に過ごし、同じ道を歩んでゆきたいと思っていた。
だけど、残念ながら、異世界ではその願いは儚く潰えた。
ーーでも、元の世界は違う。
(皆はこうして平穏な世界で生き、笑顔を浮かべ、未来を信じている……そしてこうして、不思議な縁で、また繋がった……)
もしかすると、今のこの楽しい状況は、俺が異なる世界から引き寄せた"縁"なのかもしれないと思った。
またみんなに会いたい。みんなと共に笑顔で明日を迎えたい。
俺の辛い記憶の裏にある、小さいが、しかし明るい希望の光のような……そんな願いが、こんなにも楽しい世界を見せてくれているのかもしれない。
ーー異世界の辛い記憶の裏にある、皆を強く愛する気持ちを思い出すことで、元の世界での"縁"を繋ぎ直す。
これは異世界の因果から、皆を守るための、俺なりの仮説になりそうだと思った。
もしも、これが正しいならば、俺はより深く異世界での辛い記憶に向き合う必要があるのかもしれない。
これまで以上に過酷で、そして最も思い出したくはない、"めぐの死の場面"が含まれる異世界での北の大地の記憶を……。
ジュライとペストを滅ぼすと息巻いておきながら、結局負けて戦死してしまった、情けない俺自身の記憶とも……
「しゅうちゃん……楽しい?」
不意に隣のめぐが、少し不安そうな様子で問いかけてきた。
もしかしたら俺は、久々に彼女が不安がる"険しい表情"を浮かべていたのかもしれない。
「ああ、楽しいよ」
「ほんと?」
「本当だ……だって、こうして今目の前に、こんなにも楽しそうなみんながいるんだから……」
俺は楽しそうにはしゃいでいる皆を見渡しながら、めぐへそう告げる。
すると、それまで悲しそうだった彼女の横顔が、明るんだ。
「そっか、なら良かったよ……だけどね、また、辛くなったらいつでも言ってよね?」
そういってめぐは、机の下でこっそり俺の手を握り締めてくる。
その手の柔らかと暖かさは、俺に過去と向き合う、より強い勇気を与える。
(大丈夫だ、きっと。めぐと一緒ならば、乗り越えられる。あの世界の辛い記憶を……!)
俺はめぐの手を強く握り返す。
この繋いだ手を、もう2度と離さないためにも、俺はこれからも勇気を持って立ち向かってゆく。
あの人類にはめっぽう厳しく、そして残酷な異世界の記憶に。
皆やめぐとの、大切で暖かな、この光景を守るために!
【異世界転移編2 おわり】
続く最終章『異世界再転移&救済編』は鋭意執筆中です。
一応、目標としては今冬をかかげております。
どうぞよろしくお願いいたします。