97.ラシュカールの勇姿
「 …な…何よ…わたくしに対して…よくもっ… 」
小刻みに震えながらも声を絞り出すアルヴィナ…
その震えが怒りからなのか恐怖なのか…
そんなアルヴィナに対してラシュカールは、
「その様に地面に這いつくばり…何か仰いましたか聖女様?」
悔しいと地面を打ちつけるが立てないのである…
隣にいた取り巻きのうちの一人は意識を手放し、もう一人もポロポロと涙を流し始めた…
これはいけない!とアリーシアがラシュカールを止めに入ろうとした時、
「せっ…聖女なのよ…聖女であるわたくしに、こっ…この様な事をして…ただでは済まさないわよっ!
わたくしの公爵家は勿論、教会、神殿、そして王家でさえも敵に回した事を覚悟するのね!」
「聖女様のお言葉しかと賜りました。
でしたらこちらも、聖女様の後ろ盾となられている方々に今回の事を正式に抗議文を送らせていただきますので、あしからずご了承くださいますよう…お願いいたします。」
ラシュカールは一礼して振り返ろうとするがアルヴィナが声を上げてそれを止める
「っ!?あっ貴方わかっているのっ?
この国をっ敵に回してもいいと言うの?わたくしの一存にかかっているのよっ!せっ…聖女の恩恵が要らないとでも言うの?」
恐怖が薄らいだのか…怒りが上回ったのか…
アルヴィナは、聖女…いや、淑女とも言い難いほど顔を歪め怒りに任せて言葉を続ける
「そんなのおかしいわっ!だって…聖女なのよ…?
わたくしは誰からも必要とされるべき存在で…どの国も、のどから手が出るほど欲してるはずよっ」
「ですから、必要ないと申し上げております。」
アルヴィナの言葉を遮り、ラシュカールはハッキリと言い切ったのだが…
「嘘よっ!つっ強がるのはおやめなさい!単なる学生である貴方の言動や、その判断が国に迷惑をかける事になるのよ?何故そんな簡単な事もわからないの?」
「ご心配なく、十分に理解しております。
先程から宣戦布告ともとれる発言をされてますが…
聖女様こそ大丈夫でございますか?
確かに国同士での話し合いとなれば私の出る幕ではありませんし、その責任の重さも私ごときが負えるものでもないでしょう…。しかし…
アリーシア様の名誉を傷付けられたままで得られる事になる国益など……またそれを優先したとなると…、それこそ私は国に帰れなくなってしまいます。
なので、この場で貴女様にどれほど叱責されようが、不敬罪と斬り捨てられようが、私は引きません。
アリーシア様の盾となり、彼女をお守りする事こそが私の役目であり…私の意志なのです。」
「…何故…そこまで…」
アルヴィナが思わずと小さく呟いた時…
「ラシュカールっ!よく言った!」
その場に颯爽と現れたのは、アリーシアの二番目の兄であるジェイソン・セイリオスその人であった。
驚きの表情を浮かべるアリーシアを見て、イタズラが成功したかの様な…どこか満足げな笑顔を浮かべ、
「大丈夫かい?」と優しくアリーシアを抱き締めた。
ジェイソンは隣でアリーシアと手を繋ぎ、同じ様に驚いているオリビアにも「そばにいてくれてありがとう」と優しく声をかけた。そして…
「キャルム殿下、お久しぶりです。
お元気そうで何よりです。着いて早々になんですが…妹達を連れて帰りますので…申し訳ございませんが、こちらで失礼いたしますね。それでは!」
王子に対してあまりにもアッサリとした挨拶をして、笑顔でその場を後にしようとするジェイソンを、キャルムが慌てて引き留める。
「ジ…ジェイソン殿、ちょっと待ってくれっ!
何故貴方がここにいるのだ…私にはなんの連絡も入ってないのだが…
そっそうだ!一旦城へ…そこでゆっくり話をしようじゃないか!城でゆっくり休まれるといい。」
ジェイソンはキャルムの提案に返事をせず、アリーシアに問いかけた、「アリーはどうしたい?」と。
「お兄様、とても驚きましたが…会えてとても嬉しいです。でもわたくし達は午後の授業もありますし…お昼もまだなんですの…ですからどうぞお兄様だけで」
そうアリーシアが遠慮がちに伝えると
「ん?何を言ってるの?帰るって国に帰るんだよ?
帰る前にアリーが直接何か言いたい事があれば、陛下にお会いしてもいいけど、ないならこのまま帰ろう。
荷物はエミリーに任せればいいから心配いらないよ、
それよりもここから離れて早くご飯を食べに行こう!
殿下…そういう事ですのでお心遣いはありがたいのですが、城へ行く事になれば、その時に連絡をお入れしますのでご心配なく!
それではお集まりの皆さん、よい午後を!」
そう言い切ったジェイソンは、周囲の生徒達にとてもとても綺麗な笑顔を見せその場を後にした。
残された王子は焦り、側近に「急ぎ城へ戻る!」と伝えると「あの方はどうされますか?」と問われる…
二人の視線の先には呆然としている聖女アルヴィナ…
「それどころではない、急ぐぞっ!」
足早に立ち去る王子と側近、周囲の生徒達もヒソヒソと話をしながら一人、また一人と立ち去っていく…
「ア…アルヴィナ様…わたくし達も…」とアルヴィナの取り巻きが恐る恐る声をかけるが、その声はアルヴィナには届いていなかった……。
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