95.しょんぼり対決
学園長室を出たアリーシア達は、各自の思いを胸に考え込んでいた…。
ーオリビアー
(わたくしのアリーシア様に学園でのみならず、他の場所でも悪意を隠そうともしないどころか…祭典にて何やら画策しているだなんて…
ーラシュカールー
(大司教が黙認しているとなると…大司教もグルでしょうね…そもそも聖女の認定が偽りなのだからそう考えるのが妥当ではあるのだが…目的は一体…)
ーアリーシアー
(豊穣祭でアルヴィナ様は貴族しか治療しないだなんて…救いを求めて来た人達はどうなるのかしら…)
横に並ぶアリーシアの不安を感じ取ったラシュカールはアリーシアを気遣い、背中に手を添え…
「さすがの聖女アルヴィナも人目のある所で危害を加える事はないと思いますが、エミリーに相談して影を増やしますので安心してください。それからおかしいと感じる事があれば、どんな些細な事でも相談してくださいね。」
「そうですよアリーシア様、わたくしがお側にいるのですから遠慮なさらず頼ってくださいませね!」
「オリビア嬢、貴女もですよ…脅すわけではありませんが、貴女もアリーシア様と同じく標的になる可能性があるのです。あちらの出方がわからない今、放課後改めてレミルトン司祭様に協力を仰ぎますが、それまで決して無茶はなさらないでくださいね、お二人ともよろしいですね?」ニコッ
ラシュカールの綺麗な笑顔の下にしっかりとした圧を感じた二人は、コクコクと頷き教室へと向かった…
意外と無鉄砲な所があるアリーシアとオリビアを優しく(?)諭し、釘を刺したのちラシュカールも自分の教室へと向かいつつ指示を出した。
黒幕も相手の目的もさえもハッキリとしていないが…少女の嫉妬や、やっかみで片付けられそうにないと感じた為、アリーシアの兄ジェイソンへも報告をし、
厄介な聖女アルヴィナと、この事を知った時の自国の男達の顔を思い浮かべ……長く重い溜息をついた。
お昼になり…今日は朝から学園長室にてレミントンと会っていた為花壇に寄れなかったアリーシアは、オリビアと共に食堂に向かう前にいつもの花壇に立ち寄った。
花壇といっても、学園の中庭の噴水の周りに設置されたベンチを更に囲む様に作られている為、決して小さなものではない。
アリーシアはあの小さな傷ついた妖精が消えてしまった花壇からひと区画ずつを、毎日少量の聖力を流していた。
はたから見れば、女生徒が花を眺めているだけにしか見えない。
「アリーシア、君は花が好きなんだね!これから食堂へ行くのかな?」
爽やかな笑顔でキャルム王子が側近を連れ、アリーシアとオリビアに声をかける。
「殿下、先日はお見苦しい姿をお見せしてしまい、大変申し訳ございませんでした。」
アリーシアは聖女アルヴィナと対峙した際、気分の悪さから、キャルムの前でラシュカールに横抱きにされ運ばれてしまった事を詫びた。
「いやっ心配はしていたんだが、体調が戻ったのならば安心した。私の方こそ詰め寄る様な言い方をしてしまって…その……すまなかった…。」
「 っ!!殿下っこの様な場所でおやめ下さい!」
ペコリと頭を下げたこの国の第一王子であるキャルム
にアリーシアとオリビアは慌てるが
「しかし呼び方も戻っているし…今朝は教会の人間が君を訪ねて来たと聞いた…」
ポーズなのか素なのか、シュンとするキャルム…
アリーシアとしては、王子の隣には側近もおり…場所も昼休みの中庭であった為…無意識に殿下と呼んでいたのだが、距離をとり自分(王家)ではなく教会側についたと王子に勘違いをさせてしまったかと焦りを見せた時…待ち合わせをしていたラシュカールがやってきた。そして…
「キャルム殿下、うちのアリーシア様は真面目な方ですので時と場所を弁えていらっしゃるだけで、殿下の考えていらっしゃる様な意図はございません。
また、今朝の件は先日見学させていただいた時の忘れ物を届けてくださっただけです。
まぁ、私どももレミントン司祭様がみえられたので驚きはしましたが、なにぶんセイリオス公爵家のご令嬢アリーシア様の髪留めであったのと、レミントン司祭様も神殿にご用がおありだったからと仰っておりました。
我々三名は短い滞在期間の中…少しでもお力になれればと、先日殿下のお話を受けて行動したのですが……殿下のお心を煩わせてしまっては本末転倒でございますので、今後は留学生として自国の為にも学園にて勉学に励む所存でございます。」
キャルム以上に悲壮感を漂わせたラシュカールは、申し訳なさと残念さを前面に押し出しつつ、きっちりと主張をした。
変な勘ぐりは心外であると、これ以上必要以上の干渉をすれば協力はしないと…
アリーシアの情に訴えかけてくる王子に対し同じ手法で対応したラシュカールは、忘れ物云々は今朝レミントンときちんと口裏合わせをしていて、報告を受けた王子か王女が接触してくるかもと予想していたのだった…。




