94.心配するレミントン
《アリーシアー、教会に妖精はいた? アリーシア、あのね僕達シリウス様と精霊王様の所に行ってくるね! アリーシアすぐ帰ってくるから心配しないでね。 アリーシア僕は反対したんだ!ほんとだよー》
「ええっ!あなた達どういう事?」
〈確認したい事があるのだ…心配せずともよい、すぐに帰ってくる。こやつらもここに居てもじっとしておらぬからな…ウロウロして捕まるよりは我が連れて行く事にしたのだ…。〉
「シリウスが一緒なら心配はないだろうし、この子達もここに居て危険な目に遭うぐらいなら…そうね…分かったわ…」
納得し難い事ではあったが、解決の為にとアリーシアは自分を納得させた。
そして翌日にはシリウス達はペイフェリークへと向かったのでアリーシアはその旨をラシュカール達に共有し、教室へ向かっていると三人共に学園長の部屋へ行く様に教師に告げられた。
何事かと不思議に思いながら部屋につくと…そこには
レミントン司祭だけがソファーに座っていた。
こちらに気付くとパッと目を輝かせ、アリーシアに向かって膝をつき深々と頭を下げる…
驚いたアリーシアは慌ててレミントンをソファーに座らせ、何事かと話を聞く事にした。
「どうしても貴女様にお話したい事があり、こうして参った次第です。先触れも無しに押し掛けてしまい申し訳ございません…。」
「それは構わないのですけれど…
レミントン司祭様、先日はお世話になりありがとうございました。わざわざ足をお運びいただかなくても、ご用とあればわたくし達が教会へお伺いいたしましたのに…」
「そんなっ!貴女様にご足労おかけする訳にはまいりません。こうしてお会いいただけただけでも…
それに私の事はどうぞレミントンと、お呼びください。」
「っ?その様な事!この国の地位あるお方を…
わたくしはいち学生であり他国の人間でございます」
「はいはい、お二人とも話が進みませんので…呼び方は後ほどという事で訪問の理由をお聞きしましょう」
(まぁ…あらかた想像は出来ますが…)
と二人のやり取りにラシュカール割って入る。
「あぁ、そうでした!貴女様を前につい感情が先走ってしまいました……。申し訳ございません。
昨日我が身に起こった事ではあるのですが、あまりにも衝撃的で…その…なんと言いましょうか…あの時の貴女様があまりにも…
貴女様にご事情がおありだとお見受けしましたので、決して他言はしておりません。…しかし…」
レミントンはそう言い淀みながら、ラシュカールをチラリと確認した
「司祭様?アリーシア様にお尋ねしたい事が沢山あるのですよね?貴方様のお立場からして、そのお気持ちはよく分かります。
それと騒ぎを起こさず、こちらの事情を配慮してくださり感謝いたします。この件は事と次第によっては、我が国が動く事となりかねますので…改めてご承知おきください。」
ラシュカールの冷静な、そして僅かな脅しとも思える言葉にレミントンは小さく「やはり…」と呟いた。
「確かにわたしは貴女様にお聞きしたい事が沢山あります…。しかしそれだけでなく、お気を付けいただきたい事がありこうして参ったのです。それは…」
とその時、ゴーーーーーン…と学園の時を告げる鐘が鳴った、予鈴である。
アリーシア達はどうしたものかと顔を見合わせていると、
「どうぞ私の事はお気になさらず、ただ…聖女アルヴィナにご注意をとそれをお伝えしたかったのです。」
そう伝えたレミントンの言葉に、ラシュカールはサッと厳しい顔になり
「レミントン司祭様…そのお言葉の真意をお聞かせいただけますか?聖女の言動にそう思わせる何かが?」
レミントンは静かに頷いた。昨日アリーシア達が教会に訪れる前…アルヴィナと交わした会話の中、アルヴィナの発する言葉の端々から敵意を向けている相手がアリーシアだと思い至ったのだ。
他国の人間で、同じ公爵家のご令嬢、国に帰る前に…とも言っていた事などを考察すると…
レミントンはそう思い至った経緯であるアルヴィナとの会話と、その事を報告した大司教達のにべもない対応をラシュカールに伝えた。
豊穣祭で己の顕示欲が満たされて満足するだけならば良いが、彼女の学園や教会での報告を聞く限り…用心に越した事はないと…
しかも敵意を向ける相手が…自身が体感した神聖なる力を宿す、女神か真なる聖女もかくやのアリーシアなので、即座に動いたのだった…。
レミントンの忠告に…アリーシアは驚き、オリビアは憤慨し、ラシュカールはアリーシアの力の事を質問責めに来たと思っていたのでレミントンに対しての考えを改めた。
「レミントン司祭様、貴重な情報とご忠告感謝いたします。アリーシア様の周囲の警護を強化しつつ、聖女の動向にも注意しておきます。」
ラシュカールはレミントンにそう約束し、近いうちにまた教会へ出向き話を聞きたいと伝え、アリーシアも改めて感謝を述べ教室へと向かった。
レミントンはアリーシアが纏う清らかな空気を確かに感じつつ、己の心配が杞憂に終わる事を願うのであった…。




