91.聖女の要望
「聖女アルヴィナ…何か心配事でも?」
「何故…そう思うのかしらレミントン様…」
「…… 一部の神官達が最近貴女の治癒力が弱まっており、何やらいつも険しい表情をしていると話しているのを耳にしたので心配しているのですよ。」
「一体誰がそんな事を?そもそもわたくしの治療中に、大して役にも立たないくせに小言と文句ばかり言う人達の言う事になんて、耳を傾ける必要は無いんじゃなくて?
それにわたくしはこれまでと同じ様に治療しているわ!その力が弱いと言うのならば、補助をしている自分達や神殿側の落ち度でしょうに…
とにかく、その様な事を言ってレミントン様に心配をかける神官達はわたくしに近付けないでください。そして出来ればもっと神聖力の強い神官を選び直していただきたいものですわ!」
「あぁ…誤解しないでください、誰も貴女を責めているのではありません。
ただ…あの者達を外すとなると、貴女が希望された『見目麗しい若い神官』ではなく年配の地味な神官が付く事となりますが?それでも宜しいですか?」
「フンッ相変わらず意地悪な言い方をされるのね、
私が側にいてと言っているのは初めから貴方なのに…」
「フフフ…光栄でございます。しかし生憎と司祭の私は忙しい身なのです…勿論貴女様の事は大事に思っていますよ、しかし…やらねばならぬ事も多く、ずっと貴女のお側にいる事が出来ないのです。
そうだ…キャルム殿下との事はどうなったのです?」
「わたくしになびかない王子や、何を考えているかわからない王女ね…
最初は王族に入るのも悪くないと思っていましたけど…わたくしレミントン様と神殿にいるほうがチヤホヤされると気付きましたの!それに学園でも最近では…あの女のせいで……」
(チヤホヤねぇ…)「いえ、なんでもありありません、それよりも聖女様はお友達と喧嘩でも?」
「やめて!友達なんかではありません!王族でもないくせに、わたくしの事を敬おうともしない他国の人間よっきっと初めて見る聖女のわたくしが羨ましかったのでしょうね、同じ公爵家といっても令嬢としては聖女の肩書きがあるわたくしの方が上ですもの!あの女が国に帰る前に必ずわたくしの前に跪かせてやるわ!
そうよっわたくしは聖女なのよっ!わたくしの偉大さを見せつけてやらなければ…
そうだわ、レミントン様?今度の豊穣祈願祭での治療会は大きな所で開いてくださる?盛大に聖女の衣装も豪華に新調して。」
(ハァー……)「聖女アルヴィナ、会場を大きくすればそれだけ患者も信者も見学者も増える事となりますよ?
これまでの貴女は教会での小さな治療会であっても、回数や人数を減らす様に仰っていると私の所に報告がきていますが…よろしいのですか?」
「いいのよ、でも治療対象は貴族だけにして欲しいわ、祈願祭の大きなイベントになるのだから、その時はレミントン様が側にいてサポートしてくださいますよねっ?
そうでなければわたくし祈願祭には出ませんからね」
「それは困りましたね…信者の皆さんも病気や怪我で苦しんでいる人達も祈願祭の聖女の祈りを心待ちにしているというのに…貴女の周りには優秀な神官や司祭がサポートに付いているはずですが…」
「聖女であるわたくしがそう決めたのです!衣装の事は父に頼みますが、サポートは貴方以外は認めません。患者も貴族に限定した方が寄付金が多く集まるでしょう?今年の祈願祭は華やかになりますわよ!楽しみだわっ」
コンコンコン…
「レミントン様、聖女様は帰られたのですか?」
「ああ…祈願祭の要望を言うだけ言って帰られた…」
「お疲れの様ですが…大丈夫ですか?大司教様にご相談されてみてはいかがです?」
「あの方の言う事はいつも同じだよ…
それよりも何か私に用があって来たのでは?」
「あっ!そうでした、先日見学の申し出のあった方達がいらっしゃいました。なんでもサリヴァハークからの留学生で、皆様高位貴族のご令嬢とご子息の様です。
他の司祭様達は大司教様と神殿に行ってしまわれて…」
「仕方ない…私がお相手するしかないようだね…」
「アリーシア様、綺麗な場所ですわね!この場にいるだけで、まるで心が洗われるようですわっ!」
「フフフ、オリビア様ったら…あら、中庭に花壇が…
わたくしちょっと行ってきますね。」
ラシュカールはエミリーとアイコンタクトをとり、オリビアを促し自分達も大聖堂の外に出てきた。
エミリーを連れたアリーシア達四人は学園の休みを利用して街や教会に来ていた。そして最後にこの大聖堂にも訪れていた。
「綺麗な花壇…本来なら妖精がいてもおかしくない様な場所なのに…ここにも…いないわ…」
気休めかもしれないと思いつつもアリーシアはこの花壇にも聖力を注いだ…。
「こちらでしたか、お待たせして申し訳ございません、司祭のアロイシクゥレフ・レミントンと申します。本日はこちらの見学をなさりたいとの事で…案内役として参りました。皆様は隣国からお越しなのですよね、ご質問など何なりと申し付けてください。」
「これはご丁寧にありがとうございます。わたくし達はヴァナルガンド国の事もですが、こちらに伝わる妖精の事を詳しく知りたくてこちらを見学させていただこうと…しかし司祭様に案内をだなんて……
申し訳ございませんっご挨拶が遅れました、わたくしアリーシア・セイリオスと申します。」
アロイシクゥレフ・レミントン…若くして大司教にも神殿にも認められて司祭となり、王都の大聖堂の管理をしていると…
アリーシア達はそんな上の人間が自分達の案内役に現れた事に少なからず驚いたのであった…




